第30話 予想外の援護と白霧の世界③

「……あ! もしかして九頭龍神社の御祭神?」


 九頭龍神社の御祭神は、私の勝手なイメージで、東洋の龍の体に頭が九つ付いている姿だ。だがソールが象る九頭龍は西洋風のドラゴンの体に頭が九つある感じだった。

 すると、ソールは意外そうな顔をして私を見た。


「へぇ……。普通、九つの頭を持ってると『ヒュドラ』とか言われるんだけどな」


「ごめん。私にはそっちのほうがわからないわ」


 なに? ヒュドラって。ソールと同じように九つの頭を持ってるドラゴンとか、マジで凶悪以外の何ものでもないでしょう。

 目の前の自称聖獣さんだって、どうみても『聖』なるモノには見えない。魔物として国内に現われたら、全力で王国騎士団が討伐へ出向きそうな外見だ。


「つーか、九頭龍を知ってんのか? どこの?」


「G県のほうね。あそこは母の出身地だから、子供の頃に行ったことがあるの」


「俺も同じだ」


「……なるほど。私では敵わないはずだ」


 ふいに背後から声がして振り返る。そこにランスロットがいた。

 しまった。彼の存在をスッカラカンと頭の中からすっ飛ばしていた。ソールは彼に用があったのに。


「まさか竜種ドラゴンとはな」


「そこらへんの竜種ドラゴンと一緒にすんなよ。俺たちは魔物の姿をしているが、存在意義が違うし、力も桁違いだからな。……ま、闇雲に暴れもしねぇけど」


「わかっている。竜種ドラゴンには討伐で何度が出会ったが、おまえのような異様な力を感じる竜種ドラゴンに、私は今まで会ったことがない」


 ニカッと笑って答えるソールに対し、ランスロットは穏やかな笑顔のまま首を縦に振った。なんだかガキ大将とクラス委員長みたいな会話だ。

 続けてランスロットは私のほうにも振り返る。


「まったくお会いしたことがない方だが……。あなたは殿下の知り合いか?」


「いいえ。ただサラ王女の魂に代わって、魂だけ彼女の肉体に入っていたの」


「肉体に……入る……? 魂が……?」


 ランスロットは小さく呟き、なんとか言葉を飲み込もうとしていた。

 確かに、他人の魂が自分の身内の体に入っていましたなんて事実、そう簡単に受け止められるものではない。

 私だって逆の立場なら戸惑うだろうしね。


「なるほど、この世には人間に理解できない不思議なことがあるということか……。しかしそれならば納得できる。どうりで殿下と性格が違うわけだ」


「ごめんなさいね。ある方に頼まれたのだけれど、言うわけにはいかなくて」


「その説明はしていただけるのだろう?」


「そこのドラゴンさん次第ね」


「その件に関しては、もう少し待ってくれ。じきに仲間が連れてくる」


 ソールの言葉どおり、しばらく待つと男性と女性が現われた。

 飛んだり歩いたりしてくるわけでもなく、いきなり目の前に音もなく立った。やはり、この白霧の世界カエルムは不思議だらけ……いや、この場合はソールたちが、か。


 一人は赤茶色のショートヘアが似合う女性。

 大きな淡水色の瞳と日に焼けた肌が健康的で可愛らしい。白いシャツにデニムっぽいパンツがボーイッシュな彼女によく似合っている。

 痩身だけど、なにかスポーツをやっていたのかなと思える体つきをしていた。肩幅が広く、胸板が女性にしては厚いのだ。そう、オリンピックのテレビ放送で見た、水泳選手の体格に似ている。


 もう一人は、赤褐色の肌を持つ長身の青年だった。私よりも少し高いだろうか。

 ベリーショートにした明るい金髪に青い瞳が印象的な彼は、面立ちだけならイスラム系の国でよくみかける顔かもしれない。

 でも間違いなく混血だろうとわかる容貌で、しかも、けっこうな美男子だ。

 ただし身につけている衣服は女性が好むパンツスタイルであり、首元や耳元には女性が好むアクセサリーで彩られている。


「赤茶色の髪のほうがヴィータ。金髪がアンヌス。俺と同じ聖獣で、仲間だ」


 ソールがそっけなく二人を指さして、簡単に紹介してくれた。


「説明が簡潔すぎない? そちらもあなたと同じ、異形の姿を持っているの?」


「ちょっとぉ、異形はないんじゃなぁい?」


 アンヌスと呼ばれた金髪の男が、片眉をつり上げるようにして私を見、軽い怒りを向けてきた。

 彼がかなりのイケメンだったこともあり、投げかけられた口調がオネエであることのほうに驚かされた。


「言い方が悪かったのならごめんなさい。でもね、普通の人間が、ドラゴンだとか他の姿をした大型生物を見たら、普通に異形でしょう?」


「あははは! 確かにねぇ~」


 手を叩いて軽やかに笑ったのは、赤茶色の髪のヴィータだ。


「あたしの本当の姿はレヴィアタンなんだけどね。海で泳ぎ回る姿を見たら、たぶん腰を抜かすと思うよ~」


 彼女は生来明るいのか、腕を組むとうんうんと頷いて私の言葉に同意してくれた。それからニカッと笑うと、子供のような仕草でアンヌスを両手で指し示す。


「アンヌスの本来の姿はホルスだよ~。えっと……ハヤブサね。けっこうカラフルだよ。本来の姿はもっとデカいんだぁ」


「やだ、デカいとか言わないでよ」


「いいじゃ~ん。あたしと違ってキレイな鳥の姿なんだから~」


 アンヌスがヴィータのほうに振り返り、文句を返すとヴィータがふくれっ面をする。

 なるほどカラフルなハヤブサか。それは間違いなく美しそうだ。

 レヴィアタンなんて生物は聞いたこともないが、腰を抜かすほどとはどのような見てくれなのか。後学のためにも一度ぜひ見ておきたいものである。


「そんなとこで漫才すんなよ、ヴィータ、アンヌス。連れてきたのか?」


「えぇ……って、あら?」


 アンヌスがうしろへ振り向き、そして首を傾げた。

 問題の相手が霧のなかに隠れてしまっているようだ。もしかしたら逃げているのかもしれない。


「ちょっと、アナタ、なにをしてるの? アナタがこのイケメンと話をしたいと言ったから、ソールが無理して連れてきてくれたのよ?」


 アンヌスが呆れた口調で言い、その人物の襟首を引っ張って自分の正面へ突き出した。


(自分が会いたいと言いながら、土壇場で逃げる臆病な性格……)


 こちらの世界で名前だけでも知っている人物で、そこまで気弱な性格の人間など一人しか知らない。


To be continued ……

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●○●お礼・お願い●○●


最新話まで読んでいただきまして、ありがとうございました。


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