第29話 予想外の援護と白霧の世界②

 真っ白い空間へとやってきた。

 上下左右が白い霧に包まれた、あの不思議な空間。ここに来たのは二度目だ。

 いわゆるテレポーテーションというやつだろうか。空を飛んだとか、高速移動したという感覚はなかった。


「なんだ、それがあんたの本当の姿か」


 謎の日本人が、私を見て楽しそうに笑った。


「え? あら?」


 私はいつの間にか、前世の姿に戻っていた。いや、正確に言えば、サラの肉体の上に魂が浮き出ているような感じだ。


 サラ王女の身長が私よりも低いので、顔の半分くらい上へ霊体が出ている。スーツ姿というのが、前世で警察官だった私らしい気がした。

 こうなると、ちょっと肉体が邪魔よね~……なんて思ったら、王女の体がフッと消えた。……え? もしかして死んじゃった?


「死んでないから安心しろ。ここは通称『白霧の世界カエルム』。死後の世界に近い場所だから、肉体は地上へ戻されただけだ」


 私の表情から内心を見抜いたのか、ソールが苦笑しつつ教えてくれた。

 私は「へぇ~」と思いつつ素直にその言葉を受け入れていた。……が、急に不安になる。


「ランスロットは大丈夫なの?」


 彼は生身のままのはずだ。まぁ不思議な世界だから、なんでもアリなのかもしれないけれど……。


「ここは創造神様方が直接手を下せる場なんだ。だから、心配ねぇよ」


 やっぱりなんでもアリか。さすが創造神。


「その創造神様が直接手を下せる場へ連れてこられるあなたは、私の味方とみて間違いないわね?」


「あんたが世界を滅ぼそうと企まないかぎりはな」


「私が世界征服を企んでいるようにみえる?」


「そうなったらなったで、すっげぇおもしろいだろうなとは思うぜ」


 大丈夫か、この男。

 もし私がチート能力持ちで世界中を破壊して回ったとしても、助けにも入らずに笑って眺めるタイプじゃないでしょうね?

 その謎だらけで危なげな日本人は、私を上から下までゆっくりと眺めてから、ぼそりと呟いた。


「あんた、けっこうデカいんだな。一八〇センチはあるんじゃねぇか?」


「一七七センチよっ!」


 一八〇センチとかさらりと言うな、このボケが! ぺたんこパンプスはいて、少しでも低身長に見えるよう努力してるのがわからんのか!


「あなたねぇ……。人のコンプレックス逆なでするのやめてくれる?」


「あ、悪い。俺の目線がそんなに下がらなかった女は、あんたが初めてだから」


「あなたの身長は?」


「一九〇センチ。自分でもけっこうデカいと思う」


 男は素直に謝り、素直に答える。


「しかも俺と同郷か」


 同郷? 見たことのない謎の日本人と故郷が同じとかありえないんだけど。


「なにか問題でもあるの?」


「いや、特にない。ところであんた、転生者だろ? 何歳で死んだ?」


「え? ……えっと、それって答えるべき内容なの?」


「いや、単なる俺の好奇心。あんた、俺の予想以上に美人だったから」


 なにを抜かしとんじゃ、この謎だらけの日本人男は。アラフィフのオバハンを見て素で美人とか言うな。年増好みか。

 というよりも、これは彼の癖なのだろうか。発言に悪意をまるで感じない。見たものを見たまま言う小学生みたいなところがある。


「一応先に言っておくけど、今のあんたは死んだ年齢の姿じゃねぇぞ。あんたはすでに死んでるから、自分の『一番良い』と思ったときの年齢の姿になってる」


「うっそ、マジで?」


「あぁ、だから二十代半ばくらいに見えるな。おそらくそこが、あんたの一番幸せだったときだ」


 二十代半ばと聞いて思い出したのは、結婚したときの自分だった。

 確かにあのときが、一番なにも考えてなくて幸せだったかもしれない。


 元夫と幸せになることしか考えてなかった。幸せになれると信じていた。そう思い込めたのは、きっと若かったからだ。


 現実は結婚後のほうが試練の連続だった。嫌な思いもいっぱいしたしね。

 だけど不思議と、その人生も悪い思い出ばかりではなかった。前世での人生経験の蓄積を、私は自慢できるとも思っている。

 離婚だってそうだ。あれも経験の一つにすぎないと、私は前向きに捉えていた。


 ただ、その元夫に惨殺されたことだけは黒歴史だけれども。


 だから生前、もしも「若かりし頃に戻してやるから戻るか?」と問われたら、即答で「嫌だ」と答える自信がある。

 だけどそんなこと、今は答えたくない。


「そんなことより、普通、質問より先に名乗るものじゃない?」


 誤魔化すつもりで言い返すと、彼は悪びれた様子もなく「あぁ、そっか」と呟いて、素直に名乗った。


「俺はソール。聖獣九頭龍のソールだ」


「は? クズリュウ……?」


 マジでなに言ってんのコイツ。……という気持ちを、顔に思い切り出していたのだろう。私の顔を見たソールが吹き出した。


「俺の本当の姿はこっちだ」


 言うや、ソールの姿が九つの頭を持つ竜の姿へと変化する。そうして、そのままグングンと大きくなった。

 山のようとは、まさにこのことだ。


(これは……)


 ファンタジー世界のドラゴンや龍と言うより、九つの頭を持ったゴ○ラと言ったほうが正しいかもしれない。

 あの怪獣映画は新旧問わず観てきたが、背びれ、そして背中から尻尾にかけての曲線がよく似ている。


 キング○ドラでも頭が三つしかなかったのに、九つも頭があるゴジ○が日本へ上陸し、九つの口で一気に放射能を発射したら首都壊滅だけでは済まないだろう。

 さらには映画を観ている者の恐怖の度合いが凄まじいレベルへ到達しそうだ。


 私は思わず腕を組み、巨大化したソールをまじまじと眺めた。


「以前、ここで会った大蛇の女神様と同じくらいの大きさなのね」


「あぁカコウ様な。あの方は創造神の一柱ひとはしらだよ」


「へぇ……あのキレイな女神様が創造神だったのね」


「あぁ、三柱みはしらおられる、この世界の最高神の一柱だ」


 体の伸縮が可能なのか、ソールはドラゴンのままでその巨体を人間のサイズにまで縮めてから、元の人間の姿へ戻った。


 なんて器用な……っていうか、人間サイズになった九頭龍は、コントの着ぐるみみたいに見えてシュールだ。

 そして私は、この特徴的な九つの頭を持つ竜を映画館以外のどこかで見た記憶があった。


To be continued ……

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●○●お礼・お願い●○●


最新話まで読んでいただきまして、ありがとうございました。


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