第13話 王国騎士団総帥の腐心③
だが金の力は侮れない。有り余る富を持つものの力はやはり怖い。
昨今、金で貧乏貴族に取り入り、結婚して爵位を得る者も増えていると聞いている。こうなると実質爵位は売買されたようなものだ。
それに法律により、王の子は母親が平民であっても王位を継げることになっている。それはつまり、貴族と同じだということだ。
王の血を持つ孫を手に入れたマルモルが、有り余る金を利用して王位を狙うということも充分に考えられる。
実際、マルモルは娘の後宮入りだけでなく、さまざまな事態に対処するときにも惜しげもなく大金をつぎ込んできた。
さらには上級下級を問わず金銭的に困っている貴族がマルモルから資金援助を得ていると噂されており、明確な後見はいなくともすでに充分な力を持っているのだ。
富を持つ者がなりふり構わず動くと、一番やっかいな相手にもなりかねない。
(サラが死ななくて、本当によかった……)
第一王女の自害という噂が出回ったとき、他の王位継承者を抱える保護者たちが浮き足立った。
もしサラが本当に亡くなっていたら、王位継承者の争いから内紛になっていた可能性が高い。
内紛になってしまえば、現在のオパルス連邦王国では他の国々からの侵略を受ける可能性もある。
それを避けるためにも、ランスロットは各騎士団団長たちに対して王位継承問題の相談は個人で関わるもののみとし、組織で関わらないように警告した。
騎士団の団長や副団長は貴族が多い。団員にも貴族の子弟は多く、発言力を持つ者も存在する。もちろん団員には平民出身の者もいるし、部隊によっては平民が団長という隊もあるが、数は少ない。
騎士団には政治に関する口出しはあまりできない。しかし、ほぼ貴族で構成されている軍事組織がどこかに与するだけで、事が大きくなりかねない。
それを懸念しての先制だった。
(私個人としては、平和な国にしてくださるのであれば、サラ以外の王子や王女が王となってもかまわないが……)
ランスロットは、サラが王位を継ぐことを嫌がっていることは知っている。
そして王位継承権を持つ息子の母親である妃妾たちから、執拗な嫌がらせを受けていることも。
そのせいで、サラが部屋から出られなくなったことも……
従兄として何度も彼女の不安を聞きながら、優しく諭してきた。
心優しく、しかし気が弱く、可愛い動物や魔物が大好きで、読書が好き。
そんなサラが修道院に入り、動物たちの世話と読書を生きがいとして暮らしたがっていることも知っている。
だが、ここは穏便に事を進めるため、正妃の忘れ形見であり、王位継承権第一位であるサラが王位につくことが、もっとも問題が少なくて済む。
心を鬼にしてでも、国内を荒らさないためにサラに王位を継いでもらうしかないのだ。
「……メディウス卿」
ともに歩きながら思案してしまったようで、フローラから強めの口調で呼び止められた。
ランスロットは歩みを止めて振り返る。フローラが五歩ほどうしろにいた。
どうやら考えながら歩いていたせいで、無意識に早足になっていたらしい。
フローラが静かに歩み寄ってきた。
「何度もお名前をお呼びしたのですが……。いかがなさいましたか?」
「すまない。女官長。これからのことを考えていた」
「第一王女殿下のことでしょうか」
「そんなところだよ」
ランスロットは苦笑を返す。他の王位継承者のことも考えていたが、それはあえて黙っておいた。
「その王女殿下のことなのですが……」
フローラは言いにくそうな顔をしていたが、ふいに意を決したように顔を上げ、真正面からランスロットを見上げた。
「メディウス卿、あの方……いえ、殿下にはご注意くださいませ」
「……と、いうと?」
「今の殿下は……偽者でございます」
思いがけないフローラの発言に、ランスロットは言葉を失った。
To be continued ……
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