第四章 聖獣は創造神に逆らわない
第14話 聖獣は創造神に逆らわない①
アンティークゥムという世界には、大陸が二つある。
そのうちの一つであり、東に位置する大陸『オルトゥス』
その大陸の中央からやや東寄りの位置に、フームスと呼ばれる大きな火山がある。標高五一九九メートル、この大陸でもっとも高い活火山だ。
この大陸最高峰の火山を登る、一人の男と九つの尻尾をもつ純白の狐がいた。
普通の人間が見たら、この一人と一匹の行為を無謀と言うだろう。
なんせ男の姿がジーンズにシャツという軽装のうえ、おおよそ人が背負える量とは思えないほどの大荷物を背負っており、九尾の狐は体長五メートル超えの大物とはいえ、これまた男に負けないほどの重そうな荷物を背負っている。
だが、この異色コンビにとっての軽装と、大荷物を背負っての登山は週に何度か行われる当然の行為であり、人間が予想するほどの苦労はない。
なぜならこの一人と一匹、普通の人間と動物ではないからだ。
その一人と一匹が見飽きた岩肌の洞窟と抜ける。しかし、そこに広がるのは青空ではなく、巨大な門だった。
山のように高い門。使用されているのは青銅で、錫の量が少ないため古い十円玉のような赤銅色が鈍い輝きを持って目の前に迫ってくる。
濃い灰色のような、場所によっては黒にも見えるゴツゴツと形の悪い火山岩と、使い古した十円玉のような色合いが微妙で、奇妙な組み合わせだなと男――ソールは見るたびに思う。
「この大門、何度見ても変だよな。なぁユキヅキ」
「なにを仰ってるんですか。あなたがお造りになったんですよ、コレ」
眷属である九尾の狐――ユキヅキが、主人であるソールを見上げた。
その主人を主人とも思っていない呆れ返った半眼に、ソールが苦笑を返す。
「なんて顔してんだよ。家の前に門があるのはあたりまえだろ?」
「僕は大きさのことを言ってるんです」
それはソールも反論ができなかった。
体長五メートル超えのユキヅキが見上げているほどの大門だ。さすがに大きく造り過ぎた、という反省の念はソールも心のどこかにあった。
しかもこの洞窟の出口に、大門があったらおもしろいのではないかという軽いノリで造ったため、文句を言われても仕方がなかった。
「だいたい『ヒマだった』なんて理由で、フームス火山の九合目に大門と山小屋を建てるとか、本当に正気の沙汰とは思えませんよ、あなた方聖獣様は」
普段は冷静なユキヅキだが、時々こんなふうに悪態をつく。そして人間なんて絶対に来ないのに……などと、悪態のあともぶつくさ呟くことをソールはよく知っている。
(苦労してんな、おまえ。まぁ、原因は俺だけどな)
眷属に苦労をかけているという自覚はあるものの、それでもソールは自重しない。ある一つの誓いを除いては、やりたいようにやると決めているからだ。
そしてユキヅキはストッパー役として文句を言い続けるものの、最終的には主人であるソールの決断に逆らうことはない。だがユキヅキがしつこく抗議するからこそ、ソールの悪ノリがある程度のところで止まっているのも事実だ。
ただし、ある程度まで、だが。
「だいたい、あなたは創造神様の使徒――聖獣様なんですから、僕たちと違って瞬間移動ができるでしょう?」
「人里から瞬間移動なんかしたら、逆に目立っちまうだろ。あれ、魔法じゃねぇんだぞ」
「じゃあ、聖獣としてのお姿に戻って運べばよかったじゃないですか!」
「元の大きさに戻って運ぶって……九頭龍にか? いやいや、そのほうが難しいって。力加減を誤ったら、せっかく買った荷物が全部壊れるだろ」
「人里を離れてから元のお姿に戻るという方法もあるはずです」
「いや、だからさ。いくら人目がないところで元の九頭龍の姿に戻ったとしても、空を飛んでるところをみつかったらどうすんだよ? オパルス連邦王国とかアダマス帝国とかが、魔物討伐部隊をそれぞれ派遣しちまうだろうが」
「そりゃ九つの頭を持つ巨大な
「だろ? だからダメだ」
「でも、このフームス火山を取り巻く巨大樹海には人間や魔人、亜人や獣人も含めて、すべて入れないように結界を張ってるじゃないですか。通り抜けられるのって魔物や動物くらいで。どうやって討伐に来るんですか?」
「もしかしたら、結界を破るかもしれねぇだろ?」
「いや、聖獣様の結界を解ける生物なんて、僕が補佐聖獣として転生してから四千年以上見ていません。だいたい、その複雑な結界を張ってるのってソール様ですよね?」
「いや、ボヌムだよ」
「ソール様……嘘はいけません。自分が仕えている
「はい、俺です。すみません」
「なんですぐわかる嘘つくかな、この単細胞聖獣様は……」
(
ソールは内心で思いつつも、それ以上の言葉を控えた。
反論すれば、おそらく倍になって返される。
To be continued ……
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●○●お礼・お願い●○●
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