第15話 聖獣は創造神に逆らわない②
(だいたい、簡単に九頭龍の姿に戻れとか言うけどな。それじゃ大門を作った意味がなくなるだろうが)
それはソールとしてはおもしろくない。
軽く怒気が浮かぶ紅の瞳を向けるユキヅキに、ソールは説得を試みた。
「いいか、ユキヅキ。苦労して登った火山、その洞窟を抜けた先に開きそうにない門がある。冒険者たちは一瞬絶望を覚える。そして絶望を振り払い挑戦するも、門を押し開けることも敵わずに去る! だが、そんな大門を苦ともせず開ける俺たち! ……そんな雰囲気ってカッコ良くね?」
「あーはいはい。そういう悪ノリは、この山へ人間が登れるようになってから言ってくださいねー。……たぶん世界が終わるまでないだろうけど」
主人の情熱いっぱいの訴えは、ユキヅキのとんでもなく冷徹な返答でさらりと受け流された。
そう、この超重量級の大門はソールを含めた聖獣しか開けられない。だから、この登山ルートはほとんど聖獣たち専用だ。
とはいえ、好んでこの大門を開けるのはソールくらいなのだが。
フームス火山を登るためのルートはいくつかあるが、ソールたちが登るルートは三合目あたりから洞窟がつづく。これは四千年前の噴火の際にできたものだ。
ユキヅキ、そして他の聖獣仲間の眷属たちは火山を素早く駆け上がったり、空を飛んだりできるものもいるため門を開ける必要はない。
別の登山ルートには門を作っていないので、そちらを使ったほうが早いのだ。
「演出だよ、演出。それを力尽くで押し開けるのが楽しいんだろ?」
「そんなのはソール様たちだけですよ」
「それに荷物運びだって、俺が九頭龍の姿に戻って空を飛んだら一瞬だってことはわかるよ? でもな、おもしろくねぇだろ、それじゃ」
「僕は買い出しには合理性しか求めていません」
「仕入れ品を背負い、苦労して登る。そうして手に入れたモノを食べる。すっげぇ働いたって気がするだろ?」
「移動時間の短縮で、他の仕事ができるとは思いませんか?」
あぁ言えばこう言う。屁理屈も多い。まったく愛嬌も可愛げもない眷属だ。
……とは思ったが、やはりソールはそれ以上、ユキヅキには言わなかった。
どうせまた、あとでブツブツと小声で愚痴るのだ。相手をするのが面倒くさくなりそうだったので、ソールは放置することにした。
それにユキヅキのような冷静な補佐役がいるおかげで、ソールも悪ノリが行き過ぎずに済んでいるところもある。
「……ったく。僕はどうして、わざわざ異世界転生してまで、こんなおちゃらけた聖獣様の世話なんてしているんでしょうか」
ユキヅキは異世界からの転生者――もとい、転生狐だ。
日本で車にひき殺された本土ギツネで、死後、聖獣の手伝いをするために創造神たちが転生させた。
そして、そういった転生動物は他にもいる。
ユキヅキは九尾の狐だが、前世では猫でケット・シーや
その姿は前世に反映されているのか、だいたい似た感じの魔獣となるらしい。
さらに転生した魔獣は『補佐聖獣』と呼ばれ、世界中に存在する魔物とは別格の存在となる。
補佐聖獣と同じ名前の魔物は世界中にいるが、その強さは桁違い。同族同種で戦ったとしても、補佐聖獣相手では瞬殺されるだろう。
そんな破格の存在が、ソールたち聖獣の傍で働いている。
「まったく……ソール様だって地球からの転生者ですよね? もう少し僕たちに『あぁ、偉大なる聖獣様のお仕事を手伝っているなぁ』って思わせてください」
「まぁ、いつか……そのうちにな」
苦笑とともに適当に答えつつ、ソールは青銅の門を片手で押した。鈍い金属音を立てて門が開く。
門の前には、木造二階建ての山小屋があった。
一軒だけが大きく、その周辺には似たような山小屋が六つほど建ち並んでいる。
中心の小屋には食堂や図書室、風呂場などの共同設備があり、岩場の各位置にそれぞれ点在している木造の山小屋が個人の部屋だ。
六体の聖獣――
そもそも事の発端は、「どうせ
二人が悪ノリで話しているうちに、最初は場所が六合目くらいだったのがどんどん高くなり、最終的には九合目となった。
なかには呆れる者もいたし、いつものことだと平常心で受け流す者もいたし、一緒に悪ノリする者もいたが、反対する者はいなかったので聖獣六名を巻き込んで建設したのが、この
人間が見たらアホだなと思うだろう。だが、そもそもソールたちは人間ではないのでまったく関係ない。
To be continued ……
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