第16話 聖獣は創造神に逆らわない③
ソールは荷物を担いだまま、共同住居と呼んでいる
人間が来ないことはわかっているため、全員が出払っていても鍵などかけたことがない。いたって不用心な小屋ではある。
見慣れたカウンターと食堂が、すぐに視界へ入った。
「あれ?」
一階の食堂、カウンター席に見慣れない人物が三人座っていた。
全員、白いローブを頭からかぶっている。一見すると人っぽいが……
「……なにをしてらっしゃるんですか、創造神様」
ソールが声をかけると、あとから入ってきたユキヅキが「え?」と目をむいた。
「さすがに、そなたにはわかるか、ソールよ」
「俺でなくても気づけますよ」
現にユキヅキはソールが声をかけたときこそ驚いていたが、オーラに気づいた瞬間、荷物を脇に置いて伏せをし、頭を垂れている。
「神様オーラを消しているつもりでしょうけど、すっげぇ漏れてます」
「ふむ……変化なしか」
上半身が人間、下半身が白い蛇のそれと同じである生命の女神が呟く。
「あまり上手く化かせなかったようだね」
「うむ! 兄者、姉者! 我らの変化は、まだまだ未完成のようだな!」
人間の頭に鷲の体を持つ創造の男神が言うと、牛の上半身で人間の下半身を持つ、知恵の男神が大声で答える。
(いや、変化って……)
せめて人間に化けるならともかく、単純に小型になっただけで化かすもなにもないだろう。
そのまま人里に下りたら、間違いなく魔物扱いされる。元の大きさでいたら下手をすれば討伐対象にされかねない。人間は創造神たちの本当の姿や大きさを知らないからだ。
などと考えていたら、創造神たちが音もなく人間の姿に変化した。
できるんなら、最初からやればいいのに。
そんな内心でのツッコミを創造神たちは待っていたのかもしれないとソールは考え、大きくため息をついた。
「創造神様方のお力は俺たちの比ではないんですよ。どうやって隠せるんですか」
実際、この創造神たる
そんな強大な力が隠し通せるわけがない。
そもそも、なぜ隠そうと思うのか。そこがわからんとソールは苦笑をもらす。
「おまえたちを驚かそうと思うてな」
生命の女神――カコウが、心を見透かしたように答え、妖艶な笑みを赤い口元に浮かべた。
(相変わらず、この方は悪戯好きだな)
おそらく三兄妹のなかで一番のお茶目な神が彼女だと聖獣たちは思っている。ただし、三兄妹の誰よりも厳しいことも承知しているのだが。
「おう! 我が輩は姉者の誘いに乗ってな! 人間に化けようということになったのだ!」
知恵と力の男神――エンテイが拳を握って力説した。
彼を見ると、『熱血漢』という言葉が似合う神だとソールは会う度に感じている。
知恵と力を司ってはいるものの、力がオーラのごとく全身から噴き出しているかのような雰囲気を持つ。知恵が欠片も見受けられない。武神の神として伝えれば、そのまま通ってしまいそうだ。
とはいえ武神は創造神たちが創世記に生み落としているし、かの神のことはソールたちもよく知っている。
ただし、その武神のほうがエンテイよりもやや知的に見えるのは、広く『武』というものを突き詰めると、『力』だけではないことに遅かれ早かれ気づくからだろうとソールは思っている。
決して武神のほうがエンテイよりも美丈夫だからとか、そんなことは聖獣の誰一人思っていないはずだ。
(……と、信じたい)
ただしソールに限って言えば、他の聖獣たちが感じている思いから、やや斜め上の方向からエンテイを知恵と力ではなく運動の神っぽいと感じている。
なぜならエンテイを見たソールの脳裏には、前世のテレビで見た某熱血プロテニスプレイヤーの姿が脳裏に浮かぶからだ。
エンテイは牛の上半身の持ち主だが、人間に化けるとなぜか彼と似た顔になるというのが、その理由だった。そしてソールの心を読んだエンテイが、「そいつは誰だ?」と言いたげな顔をして首を傾げた。
「ソール。他の者たちはどうした?」
カウンターの中へ入り茶の用意をするソールへ、創造の男神――タイコウが穏やかな笑顔を向けた。
ソールは三柱の前に茶の入ったグラスを差し出した。
「俺以外はパトロールですかね。それぞれの縄張りを回っているはずですよ」
「そのままでも良いので、聖獣たちと話がしたい。お願いできるかね?」
タイコウがさらに質問を重ねる。
笑顔だが、目が真剣だった。ソールもさすがに緊急事態かとやや不安になる。
To be continued ……
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