第20話 ピンチは突然やってくる⑤

 よかった。めちゃくちゃ怒られると思った。

 精神年齢は私のほうが上だろうけど、やっぱり怒られるのは嫌だものね。


「……あ、そうそう。フローラ、中庭を歩き回りたいんだけど、女性用の動きやすい服装ってあるの?」


「えっ?」


 私が訪ねると、フローラが目を丸くして驚いていた。

 いや、フローラだけでなく傍で控えていたアンやマリナ、ペネロピまで驚いている。

「王女様が散歩? え? マジで?」……みたいな顔をしているのが丸わかりだ。


 この王女様、本当に動かなかったんだなとしみじみ感じてしまう。

 しかしそう考えると、私がアグレッシブに動き回れば、彼女たちのなかにインプットされている『サラ王女』からかけ離れていく危険性がある。


(でも……でもね)


 このまま一生おデブで暮らすのは避けたい。絶対に嫌だ。このままでは私のメンタルがもたない。

 私の心の平穏のためにも、絶対に痩せることが最優先事項だ。

 申し訳ないが、ダイエットに関しては私の思うようにさせてもらうことにした。

 もちろん、そのための言い訳は考えてある。


「毒を飲んでしまったでしょう? 運動すると体に良いと思うの」


「殿下。お言葉ではございますが、毒は解毒魔法で全て消えておりますが……」


「えぇ。あなたのおかげで助かったことはわかっているわ、フローラ」


 フローラに感謝の意を示しつつ、私はゆっくりとソファーから立ち上がり、窓際に立って庭を見下ろした。


「今回のことで思い知ったのだけれど……。体力がなさすぎると思ったの。運動を常習化しておけば、同じようなことが起こったときや病気になったとき、回復がもっと早いんじゃないかと思って」


「そういう……もの、でしょうか?」


 ペネロピが不思議そうな顔をして首を傾げる。アンも彼女と似たような顔をしていた。マリナだけは冷静な表情を崩さない。


「運動をすると体力がつくと聞いたことがあるの。体力があるということは、病気やケガで弱ったとき、体が回復するための力になるわ」


「そうでしょうか……」


 どう説明してもペネロピもアンもいまいちピンとこないようで、不思議そうに首を傾げて互いの顔を見合っている。

 やはり言葉だけでは理解しにくいか。


 子宮がんで入院した友人に聞いた話に、近年の病院では大病の手術前に筋トレを勧めるというのがあった。


 プレハビリテーションと言うらしく、術後の患者の早期退院のみだけでなく、その後の日常生活を考えての取り組みらしい。

 内容は意外に本格的で、ストレッチから行い、有酸素運動、筋トレ、クールダウンまでを一貫して行うのだとか。

 これを週に三回ほど行うように勧めるらしい。


 とはいえ前世の医学では話が通じないし、こちらの世界で、良い例え話はないか……と考えて、先日会った王国騎士団総帥の顔を思い出した。


「たとえば日々鍛えている騎士の方々は、私と同じ毒を敵から受けたとしても回復が早いと思うの」


「えぇ。殿下と同じ毒をお飲みになったとしても、解毒魔法を使用すれば数時間後には戦いにお戻りになれるかと」


「騎士様たちは、それはそれは辛い鍛錬を行っていると聞きますしね~」


 マリナの発言を耳にするや、胸の前で手を組んだアンがうっとりとしたような顔をしている。誰か憧れの騎士でもいるのかもしれない。


「そう思うでしょう? でも私は起き上がることすら数日かかってしまったわ」


「はい。確かに殿下のご回復は、私どもと比べてもやや遅く感じました」


 マリナは真剣な顔をして同意してくれた。

 女官であるマリナが、平均的な体力を持つ自分たちと比較してくれると、ずいぶん理解しやすくなったはずだ。


「だから私も、少し体を鍛えようかと思うの。体を鍛えれば同じようなことが起こったときに、今より回復も早いかと思って」


 無言で顔を見合わせる女官たちからの返事はなかった。

 う~ん。いい線いってると感じたんだけどなぁ。これは反対されるパターンだろうか。


「良いお考えでございます」


 諦めかけたとき、フローラが真っ先に同意してくれた。

 少々意外だった。フローラこそ真っ先に反対するかと思っていたからだ。


「わたくしは以前から、殿下には中庭での散歩の習慣づけをご進言させていただいておりました。殿下御自らそう仰っていただけるのであれば、わたくしも嬉しゅうございます」


「ありがとう。では、さっそく中庭へ……」


「いいえ、殿下。まずはお召し替えをしていただかなくてはなりません」


 フローラはそう答えるなり、パンパンと両手を叩く。

 するとすぐに控えの女官たちがフローラの元に集まり、指示をもらってから思い思いの方向へ散っていった。


 さらにアンとマリナにドレスを脱がされて、ペネロピが持ってきたドレスへと着替えさせられる。

 ペネロビはそのまま、脱いだドレスを侍女へ預けるために部屋から出て行った。


(え……? ウォーキングだけで、こんなことするわけ?)


To be continued ……

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●○●お礼・お願い●○●


最新話まで読んでいただきまして、ありがとうございました。


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