第18話 ピンチは突然やってくる③
オードブルから始まり、デザートで終了する豪華な食事。
それだけだったら、「さすが王族。豪勢ね」と内心で引き気味になりながらも受け入れていたと思う。
食事の内容も地球の洋食とほぼ同じなので、病み上がりでなければ通常量を食べられたはずだ。
しかし、サラ王女の食事はちょっと違っていた。
一皿一皿に盛られた料理がとんでもない量なのだ。
これはアレか? どこかにテレビカメラが構えていて、大食い女性タレントと食事の早さと量を競いあう番組の収録かなにか? 最後はカメラに向かって「完食しました!」と叫び、両手で皿を持って微笑まなければならないのか?
……なんて思えるくらいの量。
さすがに朝食も昼食もコース料理なんてことはないけれど、それでも食事量が多い。呆れるぐらいに多すぎる。
しかも間食として、お茶の時間には必ず大量のお菓子類が出る。
その量を見たとき、ふと前世で、元アーティスティックスイミング選手がトーク番組で現役当時の食事量を話していたのを思い出した。
彼女たちの練習は実にハードで、気を抜くと一日で一キログラムを軽く落とせてしまうらしい。
そのため通常の食事量も多めなうえ、練習の合間におにぎりや菓子パンをほおばる選手もおり、アスリートとは食べることも訓練なのだと語っていた。
選手の一日の摂取カロリーは五千から七千キロカロリー。
それはアーティスティックスイミングの選手だけに限らず、現役トップアスリートであれば、大抵の選手がこれくらいは摂取しているのではないかと話を締めくくっていた。
一般成人女性の理想的な摂取カロリーは千八百となにかで読んだことがある。だからその数値のあまりの大きさに、なにかを極めるって大変なんだなぁと感じたものだった。
サラの食事はまさにそんな感じで、朝食から始まって昼食、夕食に至るまで一般女性が食べるとは思えない量の食事が運ばれてくる。
それこそ、現役のトップアスリートが摂取する食事量はあるのではないかと思えるほどに。
そしてなにが恐ろしいかというと、私はこの三日間すべての食事を残しているにもかかわらず、一向に配膳される量が減らないという事実だ。
それ以上に恐ろしかったのは、このサラという肉体の臓腑はその食事量に対して嫌悪感を覚えないという事実だった。
通常、これだけの食事量を見たらなんらかの抵抗感を覚えるはずだ。実際、私の魂は出される食事量を拒絶している。
しかしサラの胃袋は、これだけの量を見て喜びを感じている。わかるのだ。
なぜなら「まだまだ食べたい」という欲求が胃のあたりから湧き上がるから。
私自身は山盛り食事が視界に入った時点で「絶対無理」と思うし、食後、体感的にお腹がいっぱいだと思っていても、
なんだろう、この食事に対しての異常性と違和感は。気味が悪い。
これではダメだ痩せられないと考え、「昼食からは食事量を半分以下に減らして欲しい」とフローラにお願いしたら、言づてを聞いたコック長が即座に半地下にある厨房から飛んで来て、目通りを願い出た。
「申し訳ございません、殿下! お口に合いませんでしたか!」
中肉中背、四十代半ばくらいの男性だった。
部屋に入るなり彼は私の目の前で両膝をつき、ビターチョコレートのような焦げ茶色の髪を振り乱す勢いで頭を垂れる。その姿に、私のほうが慌ててしまう。
「ち、違うの。毒で胃が弱ったみたいで、こんな量を食べられないのよ」
慌てて言い訳するものの、コック長は非が自分にあると思い込んでいるようで、頭を上げようとはしない。
青ざめるのを通り越し、まっ白な顔で平身低頭するコック長を見ていると、罪悪感が生まれる。
それに私は祖父母から「食事は残さず食べなさい」と言われて育った世代だから、食事を大量に残すことさえ罪の意識が心に湧く。
だけどコック長はそんなことを知らないし、平民だから王族である私が苦情を言うと罰を受けると思っているのかもしれない。
もしかして、先代の王は容赦がない人だったのだろうか。
この程度のことで処刑するとか、投獄するとか、そんな暴君だったとか……
いや、それはあとで確認すればいい。今はこの場を収めなければ。
「頭を上げなさい。……えっと」
フローラのほうを見やると察してくれたようで、「ブレットです」と小声で彼の名を教えてくれた。
「ブレット。私はあなたの食事が美味しくないと言っているのではありません。量が多すぎると言っているのです」
「……は、はい。ですが……」
ブレットは反論したいようだった。
だがやはり、私が王女なので言えないのだろう。私に遠慮しているのではなく、立場的に本当に「言えない」のだということが、態度から察することができた。
To be continued ……
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●○●お礼・お願い●○●
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