第17話 ピンチは突然やってくる②

 そういえば、私が宿ったサラも銀髪だった。瞳の色は青みがかった紫。

 アメジストというより、サファイアが時折バイオレットサファイアに変化しているようにも見えて、不思議な魅力のある目だなと鏡を見て感じた。

 

だけど今の瞳は違うとフローラたちに言われた。


 サラ王女の本来の瞳は純粋な青。紫に変じたことは一度もないと。父親であるレオポルドは目が覚めるような赤毛に緑だし、母であるサラ・ヴィクトリアは青。

 どちらかといえば母親の血が濃いともいえる。


 ただ王族に紫の瞳の者がいなかったというわけでもなく、王の異母妹がバイオレットサファイアのような美しい紫の瞳を持っていたらしい。

 サラの父親って妹がいたんだ~と素直に感心し、「では、その叔母上様はどこにおられるの?」と質問したとたん、女官たちが全員息を呑んだ。

 そして漂う緊張感と無言による息苦しさ。


 これは前世で何度か味わった空気だ。もしくは事情聴取を受けている者たちが発する、独特の匂いと呼ぶべきか。

 犯人を知っているのに黙り込んでいるかのような、喋ってはダメと言わんばかりに互いをけん制する目線などだ。


 事件捜査中に目をつけておいた人物や家庭に、警戒させないように「ちょっとお聞きしたいだけですから」なんて軽い質問から入って、つい当たりを引いてしまったときの反応に似ている。

 間違いなく過去になにかがあって、それが悪事だと告げているようなものだった。

 元警察官の血が疼いてしまう。これはあとで調べておくべきかもしれない。 

私はその会話をいったん止めて、すぐに図書室の話へと話題を切り替えた。

 そうしてようやく、昨日はマリナたちに連れられて王宮にあるという図書室へ向かった。


 ただ廊下へ出たとき、妙な異臭を感じた。

 そこで嗅ぐはずがない嫌な臭いだ。


 異臭は寝室がある二階から、一階へ降りる階段へ近づくにつれて強くなる。

 もちろん、部屋もきれいに整えられているし、廊下も同じように塵一つおちていなくて美しいのだが、なんとも言えない鼻をつく臭いがする。


(なんなの? この臭い……)


「ささっ、殿下。図書室へ参りましょう。王宮はすぐそこでございます」


 顔をしかめた私に気づいたのか、アンが私の背を押す形となり、三人の女官から引っ張られるような形で王宮の図書室へと案内された。

 なんだかごまかされた感は否めないが、彼女たちが隠したいのであれば、今はそれに素直に従っておこう。


 その図書室へ行ってから気づいたことがある。

 自分でも、ちょっと遅すぎる発見だなとは思ったけれど……


 私は日本人なのに、オパルス連邦王国の言語を理解しているということだ。


 習ってもいない、見たこともない文字が書かれた書物。改めて意識してみると聞いたことがない発音。

 英語はもちろん、フランス語、ドイツ語、ロシア語、スペイン語、中国語、アラビア語……私がおおよそ知る限りの、地球で使用されている言語とは完全に異なるものだった。


 それなのに読み書きができて、きちんと会話もできる。難しい言葉も理解できるので、難解な本を読むことも可能。

 これは以前読んだことがある……なんて、既視感を覚える書籍まで存在した。


 なぜかと考えたけれど理由はわからず、結局、体を遺してくれたサラの努力のたまものだろうと結論づけることにした。

 王女だから絶対に勉強しているだろうし、女官たちの発言から察するに、かなり頭が良くて勉強家だったみたいだしね。


 わからないことを延々と考えても、結局、腑に落ちる解答を得ることができないなんて、前世で何度も経験している。

 今世で生きるために重要でないのであれば、適当なところで納得して次の問題を片付けるべきだ。


 さて――――

 最初に片付けたい難題のために、図書室にある書籍を片っ端から調べてみた。でも、目的の本はなかった。

 探していたのはダイエットに関するもの。


 とはいえ、ここは異世界だ。そういう概念がないのかもしれないと、期待はしていなかった。

 でも太っていることが王侯貴族の美徳だったらどうしよう……と、不安にもなる。実はサラみたいな体格の女性がゴロゴロしているとか……

 そうだとしたら、目も当てられない。


「そもそも、あの食事量はなんなの? あれが王族やお貴族様の通常量なわけ?」


 私は、先日出てきたディナーを思い出し、思わず口元を押さえた。

 四日目くらいまでは、オートミール粥によく似た消化の良い食べ物が出されていて、気遣ってくれているのだなということがよくわかった。


 ところが、である。


 フローラが最後の治癒魔法を当て、「もう大丈夫ですね」と笑顔で告げた日の夕食から、とんでもないことが起こった。


To be continued ……

――――――――――――――――――――――――――――――――――

●○●お礼・お願い●○●


最新話まで読んでいただきまして、ありがとうございました。


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