第五章 ピンチは突然やってくる
第18話 ピンチは突然やってくる①
転生してから一週間が経過した。
毒に犯された私の――正確に言えばサラの――体調は日に日に良くなり、今では特に大きな問題もなく過ごせている。
私は二日ほど寝たきりで過ごしたが、そのあとは女官の手を借りてでも、できるだけ室内を歩くように心がけた。
外へ出ることはできなくても、室内を観察するだけでもこの世界の情報はいくらか手に入ると思ったからだ。
たとえば、壁にかけられた時計。
前世で見慣れた針表示式のアナログ時計がかかっており、二十四時間を基本として地球と同じように時間を刻んでいる。
さらにローボードの上に置かれている卓上カレンダー。
めくってみると十二月まであった。ただし四月、八月、十二月だけ三十一日で、残りの月は三十日とされている。この世界は三六四日で一年ということか。
この世界が星であるなら、自転速度は地球と同じで、公転は地球よりもほんの少し速度が速いのだろう。
そして一週間は七日間。日曜日から始まり土曜日で終わる。
地球とほぼ同じ暦だ。
時計やカレンダー、そして書籍などでも、使用されている数字はアラビア数字やローマ数字を使用していたので驚いた。書籍に書かれている文字は見たことがないのに、数字だけが前世の記憶と重なっている。
部屋に本棚はあるが、ラジオやテレビなどはない。もちろん、パソコンやタブレット端末など精密機器は論外だ。
ただ、写真立てがあった。
サラによく似た美しい女性の立ち姿の写真や、サラの幼い頃の姿らしき写真が、何枚もローボードの上に飾られてある。
白い縁があり、画像は白黒ではあるものの間違いなく写真だ。
つまり、この世界はカメラがあるのだ。
他にもいろいろと調べてみると、紙はあるが鉛筆、消しゴムはない。万年筆、ガラスペンはあるので、インクで書くのが一般的なのか。
身にまとう衣服は映画で観たような中世のドレスもあれば、ワンピースみたいなものもある。
そのためファッションに関しては、昔テレビドラマで見たヴィクトリア朝末期の探偵小説のものと似ていた。
とはいえ、専門家ではないし男性の衣服も見ていないので、本当にそうなのかは判断のしようがないのだが。
余裕が出てきたので、なぜファーストネームの『エレオノーラ』ではなく、ミドルネームの『サラ』で呼ぶのか、女官たちに聞いてみた。
するとアンとペネロピはとても悲しそうな、マリナはとても訝しげな顔をして私をみつめた。
なにかヤバいことでも聞いたのかと不安になっていたら、『サラ』という名前は正妃の名、つまり母親自身からもらった名前なのだと教えてくれた。
なるほど。子供が母親の名前を質問したら、頭に疑問符が生まれるのも当然だ。
サラは生まれたときこそ王や正妃から、「エレオノーラ」もしくは「エル」と呼ばれていた。
しかしサラは、とても甘えん坊なお母さん子だったらしい。
物心つくかつかないかの頃から、母親と同じ名前である「サラ」と呼んで欲しいとあらゆる人々にせがんだようだ。
そのため、自然に周囲は第一王女を「サラ」と呼ぶようになった。
六年前に流行った病で亡くなるまで、サラはずっと母親と一緒に過ごしていたというから、甘えん坊にもほどがある。
親離れの年齢は子供の性格、もしくは親の接し方で変わるが、だいたい十一歳の女の子なんて、普通なら母親から離れて行動するようになる年齢だ。
友達のように仲がいいという母娘もいるにはいるが、だいたい息子よりも娘のほうが母親離れは早い。
私は息子と娘を育てた経験から、娘のほうが早かったと記憶している。同性だからかもしれない。
サラの母親はメディウス公爵家のご令嬢で、サラ・ヴィクトリアという名のとても美しく、騎士としても強い女性だったようだ。
日に透けると銀にも見えるプラチナブロンドと、サファイアのように透明感のある青い瞳の持ち主で、生来持つ魔力は膨大。
サラ・ヴィクトリアの魔力総量が、銀髪ではない者が持てるものではないと教えてくれたのはフローラだった。
だから、金髪でも銀に似た色なのだろうと。
その理由を尋ねたら、銀色の髪は王族、もしくはその血筋である公爵家までしか現われないらしい。
つまり、サラ・ヴィクトリアは公爵家の娘ではないということになる。そのあたりも質問したら、サラ・ヴィクトリアはもともと辺境伯の娘で、公爵家へ養女として入ったのだと教えられた。
つまり『銀色の髪』というものが、魔力を測る色としてあたりまえになっているわけだ。
また魔力総量は、単純に魔法を使用できる力とは限らないらしい。
純粋な魔力なのか、それとも身体能力なのか、はたまた他の能力なのか……。生まれて調べてみるまではわからないとのこと。
To be continued ……
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●○●お礼・お願い●○●
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