第三章 王国騎士団総帥の腐心
第11話 王国騎士団総帥の腐心①
ランスロット・ウィリアム・メディウスはサラの部屋を出ると、大きく息を吐いた。
「まさか、ご記憶を失われているとは……」
サラ付きの女官から連絡が来たので、喜んで後宮まで来てみれば、まさかの記憶喪失。
ランスロットに会えば必ず喜んでくれた従妹は、今日は初めて出会う人を見るような顔をしていた。
これには普段から沈着冷静な人物として名が通っているランスロットでも、軽い動揺を覚えた。
「魔眼による解析では、殿下がお召しになった毒物は魔物のものとわかりました。魔物が生来持つ強い毒などで調合されたものには、希にそういった副作用を生むものがあると聞き及んでおります」
女官長フローラ・コーリー・ラクリマが落ち着いた口調で意見を述べる。
彼女の魔眼は相手の状態を見抜き、正確に治癒させることができる。これは数万人に一人いるかいないかと言われる、かなり特殊な魔眼だった。
フローラ自身、魔力が豊富で治癒術師としての腕前がかなり高かったこともあり、女官長を務める前に働いていた教会では、特級女性修道士として多くの者たちを治療してきた。
そんな魔眼持ちの彼女でも難しいとされているのが、心の病である。
心は目に見えないこともあり、根治した状態をイメージしにくいのだろう。
この病だけは、特級の技を持つ治癒術師でも根治させたことがないと、ランスロットも聞いたことがあった。
記憶喪失は心の病なのか、それとも脳の損傷によって起こるものなのか。
治癒魔法をより効率的に効かせるため、治癒・治療は『人体解剖学』と名を変えて進歩した。
魔法を使用するにはイメージが必要になるため、人の体を治すために体のどこの部位をどう治すのかを頭に入れておくと、治りが良いらしい。
また昨今では麻酔薬なるものも発明され、外科手術と呼ばれる治癒魔法も存在しており、かつて不治と呼ばれた病気が治療できるようにもなった。
そして、この国の人体解剖学は隣の帝国よりも進歩しているとランスロットは思っている。
昔はわからなかった人体のことも、今では正確に記された人物画と解剖画が掲載された図鑑まであるくらいだ。
それでも記憶を失う、正気を失うなどの心が関わっていると思われる症状だけは、誰も対応できない。
人体とは解明の余地があり、未知の部分がまだまだ多いということだろう。
「毒をどこから入手されたのか、聞き出せると思ったのだが……」
「あのご様子では、無理でございましょう」
マリナの話では女官どころか自分の名前すら覚えておらず、彼女たちに自らの名を聞いてきたというから、確かに期待はできない。
「王位継承問題のこともある。ご記憶がないとなると、他のご夫人方がお認めにならないだろうな」
「そうでございますね。特に第二夫人のクレア様は、第一王子であるアルバート様のお母上。アルバート様はまだ六歳とお小さいですがとても聡明で、クレア様のご期待が高いことは周知の事実でございます。セルペンス卿のことも考えますと、ほんのわずかな綻びも見逃すとは思えません」
このオパルス連邦王国の王位は、必ずしも男性が継ぐという法律はない。一番目に生まれた子供から順次継承権を得てゆくことになっている。
これは千年ほど前に、正妃・
それまでは長男が継ぐものというのが常識だった。
そして平民の子供にも継承権が与えられるようになったのは、百二十年ほど前の王が定めたものだ。
平民出身の騎士の娘に一目惚れした王が、その娘を正妃とするためいろいろ画策したと聞いている。
結局、王は愛した娘を正妃にすることはできなかった。
しかし代わりに、「平民の子であれども王の血を引く子であれば継承権を与える」という法律を無理やり成立させた。
この一件で、とある公爵家が暗躍したとも聞いているが、その一族はみな口を閉ざしているので真相は闇の中だ。
以来ずっと、オパルス連邦王国の王位は性別、そして身分の差も関係なく――実際には、母親が平民出身であると即位は難しいが――ある例外を除いて第一子が受け継いでいる。
その例外とは、魔力総量だ。
王族の魔力は強く、そして多い。それがこの国での常識である。
実際、魔力総量は十四の段階に分けられており、王族であればほとんどの者が上から数えたほうが早いほどの魔力量を持つ。
そして、魔力総量が多い者ほど銀色の髪を持って生まれてくるのだ。
それ故に、魔力があまりに低い者はなんの能力もないとみなされ、王位継承権が剥奪されることもある。
王族の血を引く証である銀髪を持つことは、同時に豊富な魔力を持つ者として優遇されるのである。
To be continued ……
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