11話 運命のささやき
【世界樹ユグドラシル】が顕現すれば森は大いに賑わった。
それはエルフたちも例外でなく、エルフにしては珍しく再び祝宴が開かれた。
パパンとママンの名の
「我々が数千年かけても世界樹の復活は成しえなかった」
「それをかような若き姫君が実現されるとは……」
「リュエール陛下もフローラ陛下もさぞお喜びでしょうな。無論、我々もうれしゅうございます」
「さすがは両陛下の姫君であらせられる。
集ったエルフたちは大いに昔話に花を咲かせ、大いに私を称賛した。
「リアよ。
「リュエールは堅苦しいですよ。レムちゃん! 私も一緒に研究したかったわ! でもでも、こんな楽しみを一人で見つけちゃうレムちゃんは最高です! 感謝し尽くしてもしきれないわ」
これから世界樹を活用してどのように【星病】へ対処するかは知らないけど、きっとこの二人ならそれも可能なのだろう。
「お父様とお母様が多くを教えてくださったおかげです」
「う、うむ……」
「レムちゃん……! なんていい子なのですか!」
パパンは大仰に頷きつつも頬がピクピクしている。よく見ると瞳がうるんでおり、大衆の前で感涙しないよう必死に耐えているようだ。王様の威厳、保つ、おつかれさま。
ママンの方は俺への感情を隠そうともしなかった。
サッと雅なドレスをはためかせてギュッと抱擁し、雄大なぷるるんで優しく包んでくれた。
きっと俺がクロクロで見た推しの姿は、この二人の愛があってこそ育まれたものだと実感する。
子の自由を認めつつ、寛大に黙って保護し続ける父。
時に責任と尊厳の大切さを教えてくれる。
そして感謝を常に忘れず、楽しみを発見するのに積極的な母。
いつも味方であり続けてくれ、時に行動力と喜びの大切さを教えてくれる。
こんな素晴らしい両親の下に生まれてしまったのが俺。
本来は推しであるはずなのに、なぜか俺だ。
果たして俺は——
俺が憧れ、クロクロで見上げ続けていた推しのようになれるのか。
不安は尽きない。
それでも今はただただエルフたちとこの時を分かち合い、心の整理をつけるしかない。
暗い気持ちはぜーんぶお掃除いたします……!
◇
クロクロでの推しはシーズン3から4にかけて、とある事情で【星渡りの古森】に帰郷する。
その隠しクエストにはもちろん俺も同行したが、その時はまさかレムリアたんが姫君だとは知らされなかった。パパンやママンにも会えなかったし、そもそもエルフは謎に包まれた種族であったりする。
さて、推しはシーズン4の初期までしばらく表舞台から姿を消す。
というのも【星渡りの古森】で療養及び自己強化を図っていたからだ。当時、俺はレムリアたんの周辺で発生するクエストを全てこなしていたから、【星渡りの古森】については熟知している。
【無限の緑界コロポックリ】や【世界樹ユグドラシル】の出現方法を知っていたのも、療養中の推しの隣で過ごした日々があったからだ。
さて、エンシェントエルフの特性は森や木々、植物などから
「それは『緑』だけでなく『青』や『黄』、などに応用が利くのでしょうか?」
俺の疑問は独り言となって森の中にこだます。
シーズン3で推しが100年近くやっていたのは【世界樹ユグドラシル】との交信だ。
それは古代樹と同じように
「もちろんそれはこちらの力量次第になるわけだけども……」
俺は森に引きこもる仙人のごとく、毎日毎日【世界樹ユグドラシル】へと通う。
そうしてユグドラシルとパスを繋げながら自身の力を蓄える。
さらに世界の木々の声に耳を傾ける。
「……おお、リアも世界樹に語りかけていたのか」
「お父様は……城の建造ですか?」
パパンはユグドラシルと共鳴し合い、ユグドラシルそのものの形を少しずつ変えているようだった。それはエルフたちの住処である、【
ただ、対象がユグドラシルなので規模が大きすぎる。
「まあそのようなものだ。世界樹の一部を宿り木にさせてもらえたらと、願い出ていたところでな。【
「治療法が発見されるのを願います」
「うむ、父はがんばるぞ。リアは……ん、遥か彼方の木々の
「お父様もできますよね?」
「いや、私を
「それは——」
どういうことだ? 同じエンシェントエルフなのに?
「この【世界樹ユグドラシル】の植え手はリア、そなた自身だ。私にも同じ血が流れているから、ある程度の対話は許されているがリアほどではないのだよ」
「さようですか」
【世界樹ユグドラシル】から感じる
これら全てを自身の力として共有できる日が来るのは、百年先になるだろう。なるべく早く済ませておきたい。
エンシェントエルフは森にいさえすれば、木々からの恩恵で最強に近いかもしれない。
でもクロクロでの推しは……世界中を旅して回っていた。
時に仕え戦闘メイドとなり、身命を賭して
つまり、森の外でも戦える術を身につけねばならない。だからこそなるべく世界樹の力を蓄え、継承しておく必要がある。
【神々の代理戦争】は刻々と近づいてきているのだ。
「……リアよ。何を
パパンは世界樹を通じて俺が何をしようとしているのか、うっすらと悟ったようだ。
「……」
俺はその日から、世界中の木々から学び取れるありとあらゆる剣術を感知し、その修練に没頭していった。
推しも俺も剣は大好きだから、決して苦痛ではなかった。
むしろ無我夢中になれるものが見つかって、良かったのかもしれない。
◇◇◇◇
あとがき
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◇◇◇◇
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