第8話

 頬にキスしてと、殿下は言った。


「こかて、頬にキスするのですか?」

「うん。ラビット、はい」


 頬を差し出されて『はい、しますね』って、おかしいけど。――しないの? と、見てくる殿下の表情が可愛くて、欲望にまけて頬にキスをした。


「ちょっと、あんた! 悪役令嬢のくせに、あたしののフォックス様になにしているのよ!」


 その行為で、リアにさらに火がつく。

 殿下はそれを気にせず。


「ありがとう、ラビット、僕からのお返し」

「ん? ……んん?」


 唇にキスされた⁉︎


「甘くて柔らかい。もっと、ラビットを食べてしまいたいけど、いまは我慢する。僕はラビットが一番好きだよ」


 ……うっ。心がもたない、もうダメっ! 殿下の極上の笑顔と、告白とキスで私のトリガー発動する。「ポフン」とリアの前で獣化した。


「ひどい、獣化させるなんて……」

「ごめんね、僕1人獣化したくなかったから」


 狐姿のフォックス殿下がいた。


「「獣化⁉︎」」

 

 どういうこと、いつのまに殿下のトリガーが発動したの? 殿下はリアに見えるよう、私の頬をガジガジ甘噛みした。


「嫌よ。フォックス様はあたしを愛して、ガジガジするの! あたしは愛されるヒロインなのに。わかった! コイツに弱みを握られているのね! ラビット! あたしのフォックス様を返して」


 我を忘れて、いきなり両手を伸ばし私を捕まえようとしたリアだけど、いまは黒ウサギなので軽やかにジャンプでかわした。そのため、リアは勢いよく書庫の机に突っ込んでしまった。


「わっ、ごめんなさい。大丈夫?」


 近寄ろうとしたけど止められ、私の代わりに、殿下がリアさんの周りをまわり確認した。

 

「……大丈夫、タンコブはできたかもしれないが。気を失っているだけだ」


「そっか、よかった」


 ホッとしたのも束の間。物音を聞いて書庫の扉が開き、殿下の側近と、アルとルフ様が「大丈夫か?」と入ってくるも。彼らが見たのは獣化した私たちと、机に突っ込み、気絶したリアさんの姿。


 殿下は側近に。


「その子を医務室まで運んで、気付いたら家まで送ってやってくれ」

 

「かしこまりました、フォックス様」


 命令を受けた側近はリアさんを連れて、医務室にむかった。書庫にはフォックス殿下と私、アルとルフ様が残る。

 

「フォックス!」


 ルフ様はふわふわ浮き上がり、フォックスに近付く。


「ルフ様、僕はただ、あの子に愛を見せただけです」


 ――愛?


「愛ですか……フォックス殿下はラビットお嬢様の前では、ひとたまりもないですね」

 

「そうにゃ。フォックスは簡単に飛びすぎにゃ」


 ルフ様は長い尻尾でペシッと、殿下の顔を叩く。


「イテッ、愛しているんだから仕方ないだろう。父上だって、いまだに獣化して母上に甘えている! ……僕だってラビットをガジガジ噛みたいし、ベッタベッタに甘えたい!」


 ポフン……タイミングわるく、ウサギだった私の獣化が解けて、三人の前に裸の私が降臨した。


「…………!」


 それと同時に殿下も獣化を解き、自分のシャツで私を隠すように抱きしめた。

 

「大丈夫だ、ラビット。アルはラビットの裸を見るな!」


「フォックス、落ち着くのにゃ! 今の自分のいまの姿をみろ!」


「うるさい!」


 殿下の筋肉、刺激と香りが濃い。

 私はポフンと、ふたたび黒ウサギに戻り。

 

 その場でコテンと気絶した。

 私に刺激が強すぎたのだ。


「ラ、ラビット?」

 

「にゃっ! 裸のままラビットを連れて行こうとするにゃ。アル見ていにゃいで、フォックスをとめるにゃ」


「はい、フォックス様、気絶したお嬢様をこちらに渡して、先ずは服を着ましょうね」


 ここで、一番落ち着いていたのはアルだった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る