第28話

 翌朝、セイガ達は早めに支度を済ませて、ホテルのロビーに集まっていた。

 ここで待ち合わせをしているからである。

 セイガは戦闘用のいつもの白と赤の服、ハリュウは緑色の軍服、デズモスの制服を着こなしていた。

 メイはいつもの青いワンピース姿だけれど、髪は三つ編みで結いつつ、更に後ろで束ねて暴れないようにしていた。

 なんでもユウノが整えてくれたそうだ。

 そんなユウノはメイと造りが近い白のワンピース姿だった。

「おはよう♪ふたりはよく眠れたかい?」

 セイガが爽やかな笑みでソファーに座る女性陣に声を掛ける。

「ふぁ~~あ、おはよ、セイガさん…ボクたちはついつい思い出話に花が咲いちゃって…あ、でもお陰でカウントダウンは見れたんだよ、あっちも凄かったなぁ」

 大きく伸びをしながらメイ、ユウノは何かを大事そうに握っている。

「ははは、まあこちらもハリュウの話に付き合っていたらだいぶ遅くなってしまったから人のことは言えないかな」

「あ~~、やべえ、昨日の酒がまだ抜けて無いかも」

 ちょっと曇った顔のハリュウがどすんとユウノの隣に倒れ込んだ。

「…大丈夫…ですか?」

 おずおずと手を差し出すユウノに

「ユウノさんが頭を撫でてくれたらオレ…治りそうな気がします」

 そう言って期待しながらおでこを向けた。

「しなくていいよ、ユウノ姉」

「でも、苦しそうだから…ね?」

 ハリュウの額に掌を当てて、優しくさする。

「はぁぁぁあ、癒されるぅぅ」

「あの…」

 急速回復するハリュウを尻目にユウノが残った手をセイガに向ける。

 そこには何かの毛で編みこまれた紐があった。

「これ…アムレツ…エルディアのお守りなのです」

「ユウノ姉、昨晩から作ってたもんね」

「良かったら…セイガさん、受け取ってくれませんか?」

 少し緊張した面持ちのユウノに

「ありがとう、嬉しいな…これは手を出せばいいのかな?」

 セイガが手を伸ばす。

「アムレツは手首に巻くんだよ♪ボクも作れば良かったかなぁ」

 ユウノはハリュウを撫でていた手を外し、セイガにお守りをつけてくれた。

 それには微かに念のようなものを感じる。

「メイの分もあるよ?」

「ホントにっ?ユウノ姉…ダンケ♪」

 いそいそとメイの手にもお守りが、

「オレの分は無いんですかっ!?」

「…ありますよ、はい♪」

 続いてハリュウにもアムレツが行き渡った。

「やったーー!」

「コラ、声が大きい」

 メイがハリュウを軽くはたく。

「…ごめんなさい、嬉しくてつい」

「ははは」

 とセイガが笑っていたその時…

「うふふ…どうしたの?そんな大声をあげて…」

 ようやく、待ち人が到着した、


 それはユメカだった。

 ほんの数日会ってないだけなのだが、色々なことをアルランカで経験したからか、とても久しぶりな感じがある。

 この日のユメカは髪をサイドにお団子状にまとめ、ピンクの柄物のシャツに白いスカート姿、もう元気いっぱいといった風の面持ちだった。

「めーちゃあああん♪」

「ゆーちゃん♪」

 ひしと抱き合う二人、みていてとても微笑ましい。

「ええと、この人は?」

 触れ合ったまま顔を動かし、ユメカがユウノを見つめる。

「ユウノ姉だよ、この前話した」

「ああっ、従姉のお姉さんだ、会えたんだね~良かったよ~♪」

 そんなふたりに少しだけ気圧されながら

「ユウノ・フェルステンです、はじめまして…あの」

「沢渡夢叶です、ゆーちゃんと呼ばれてます♪」

「昨日話してた『ゆーちゃん』さんですかっ、メイが本当にお世話になったそうで…ありがとうございました♪」

「いえいえ~」

「いやぁ…朝からほのぼのするのぅ、ここまで来た甲斐があったってもんじゃ」

「いや、私達今回はみんなの応援に来たんでしょ」

 続いて、いつもの調子で上野下野とレイチェルも現れた。

「わざわざありがとうございます」

 セイガが代表して感謝を述べる、ちなみにまだユメカとメイはいちゃいちゃしているわけだがそれはさておき…

「なあに、かなり面白いものが見られるらしいからのぅ、会場で見たいと思うのは当然…じゃろ?」

「声は直接届かないかも知れないけれど…幸運を祈っているわ」

 レイチェルが皆に微笑みかける、それはまるで勝利の女神のようだった。

「ああ…オレはこういう時にどうしたらいいんだ!?ユメカさんもレイチェル先生もユウノさんもみんな美人過ぎて困るんだがっ」

 ハリュウが頭を抱える。

「かっかっかっ、面白い奴がいるのぅ」

「あ、上野下野さんですね、話はセイガから聞いてます」

「ハリュウか…久しぶりじゃの」

「…え?オレとどこかで会ってます?」

「なんて、冗談じゃ」

 店主はそう笑いながらソファーに腰を下ろした。

「それでセイガ…もう会場に向かうの?」

 名残惜しそうにメイから離れたユメカがセイガに尋ねる。

「いや、もう一組…待ち合わせをしてるのだけど…丁度来たみたいだ」

 セイガが入口の方に向けて手を振る、その先には大きな体と小さな体のふたりがいた…

「あはは、キナさんだっ…お~い♪」

 大きい方は鬼の少女、果たして小さい方は…セイガも直接は会ったことのない人だった。

 身長は150cm程、さらさらと肩まで伸びた金色の髪は絹のよう…青い瞳と整った顔立ち、華奢な体形は守りたくなるような…そんな美人だ。

「な…なんていうか…美しい…」

 ハリュウの言葉に一同納得していると…

「今日はうちの『彼氏』もご一緒させてくれるってありがとうね、セイガさん」

「ノエ・ノワール・フォンティエです、今日は宜しくお願いします」

 彼…ノエがお辞儀をした。

「かれ?…彼氏って……キナさんの彼氏は美少女だったのか?」

「いえ、僕は男性ですよ?よく間違われちゃいますけどね♪」

『えええええーーー!』

 途端、知らなかった面々の驚きの声がロビーに響いてしまう。

 声質もとても綺麗で、一見して気付くのは不可能なほど、ノエは可愛かった。

 確かに服装は男性のものだし、彼自身はけして意識して女性っぽくしている訳ではないのだ。

「おおう…それは仕方ないぜ」

 一番ダメージの大きいハリュウが項垂うなだれる。

「うはは、ノエくんを初めて見るとやっぱりそういう反応になるよね」

 ユメカは前から知っていたので冷静だ、セイガも一応連絡を取った際に彼氏が同行することは聞いていたのだが、ここまでとは思ってなかった。

「このカップリング…尊いのぅ」

 店主は別の意味で感動している。

「ええと…ノエさんも私達と一緒に応援するってことですか?」

 同じく初参加と言えるユウノが尋ねる。

「うん、うちは大レースの参加者だし、さすがにノエくんひとりだと色々不安だったんだけど、それをセイガさんに言ったら一緒にどうですかって話になってね」

「私は勿論オッケーだったんだけど、どうせなら大レース当日までナイショにしてた方が面白いと思って……ね☆」

 指でポーズを取りながらユメカが白状した、ユメカはキナさん達が合流するのも知っていたのだ。

「皆さん、びっくりさせてごめんなさい」

「いや…ノエさんが謝る必要はないですよ…びっくりはしたけど」

 メイは自分と同じくらいの身長だからか、なおさら不思議そうだった。

「ま、それはこれくらいにして、うち達もそろそろ会場に向かおうぜ♪」

「ええ…あと今のうちにこれを渡しておきます、申請は済んでますよね?」

 セイガがキナさんに小さな機械を渡した、それは…

「通信機、だろ、ちゃんと申請したよ」

 同じものはセイガとメイ、ハリュウも持っている。

 後半戦では額窓による連絡が取れなくなるのでその代用品だった。

「よかった、それでは…会場に向かいましょう!」

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