第27話

 ようやく高台に着き、セイガ達一行はまずはひと休み。

 何となく流れでアルザスも一緒だった。

「そろそろ…花火が打ち上がる時間かな」

 セイガが腕時計を確認する、もうすぐ夜の9時…なんでもパレードが始まる午後9時とカウントダウンのある午前0時に花火が上がるのだという。

 この高台も人気のスポットのようで丘の手すりに沿って、沢山の人達が眼下の夜景を楽しんでいる。

 セイガ達も途中で購入したジュースを片手にその時を待つ…

「…あ」

 不意に、夜空に大きな花火が広がる。

 合わせて、中央広場から、大通りまでの光が増し、楽し気な音楽が微かに聞こえてくる。

「綺麗…ですね。このまま時が止まればいいのに…」

 ユウノがため息交じりに呟く。

 降りしきる光の花々、流れる星のような火の競演、それぞれ、次々と美しい光景が終わりなく続く。

 セイガはここにユメカがいないことが少しだけ寂しかった…

 けれど、今はこの風景を大事にしようと思った。

(……そっか…)

 メイは、セイガ達のいる手すりから後ろへ数歩、離れた場所にいる。

 なんだか、自分がそこにいるのが躊躇われたのだ。

(セイガさんには…ゆーちゃんやユウノ姉のような可愛い女の子の方が……お似合い…だよね)

 分かっていたけれど…そんな風に思ってしまう自分が嫌いだ。

 無言のまま、上を向いていると、アルザスがいつの間に傍にいた。

「メイは…まだ神を探しているのだな」

 アルザスはアルランカで会う以前にメイの事情を聞いている、だから受付の時にメイがゴットを倒したいと宣言した理由も理解できた。

「うん…ようやく…アイツと戦える」

『今度こそ…目にもの見せてくれましょうぞ』

 マキさんも気合十分だ。

「巻物が今も一緒なのは…何か事情があるのか?」

 確か巻物は故郷に戻る為にメイに同行を頼んでいた筈…それがアルザスの知っていることだった。

「うん…アルザスさんには言ってなかったよね」

 メイはあの後、自分とマキさんがどうなったのか説明した。

 マキさんの大事な人達はもういなかったこと、それからマキさんに御業を教わりながらベルクツェーンを探して旅を続けたこと、やっとベルクツェーンに会えたけど、こてんぱんにやられ、その時にセイガに助けられたこと…

「ボクは…あのフリージアの花咲くガルテンを絶対に忘れないよ」

 最後にメイはそう締め括る。

「そうだったのか…大変だったな」

「ううん…ボクは全然……そういえば、アルザスさんの方は目的の剣豪さんには会えたの?」

 アルザスはあの時、とある剣豪の所在を知るために旅をしていた。

 その目当ては、あの時叶ったわけだが…

「月山両衛には問題無く会えた」

「そうなんだ…それで……戦ったの?」

 綺麗な花火の下…微かな沈黙の後、

「…月山両衛はもういない……自分が殺した」

 アルザスはそう言った、メイにはある程度予想は出来ていたが…やはり直接聞くと心が冷えた。

「そっかぁ…それを聞いたら、親父さんはどう思うのかな?」

 メイは決して剣豪…自分の祖父やアルザスのようにはなるな、それがメイを雇って優しくしてくれた親父さんの願いだった。

 でも、メイは今もベルクツェーンを倒すため此処にいる。

「いつか…また親父さんや女将さんに……会いたいな」

『そうですな…いつか……その時は笑って会いたいですな』

「そうだね」

 暗い夜空に、大輪の花火が咲いた。

 それが、最後の花火だったのだろう…静寂が幕を告げる。

 アルザスはずっと、無言だった。


「あーー!やっと見つけたぜ、…ってアルザスまでいるのかよ」

 ハリュウがやっと合流した、一応高台についた際にセイガからメッセージを送っていたのだが、この大賑わいだと簡単な移動ですら時間が掛かってしまう。

「ま、オレ様もちゃんと花火は堪能したからいいけど…」

 ハリュウが面々を見やる。

「なんか…様子が変じゃないか?」

「いや…そんなことはないと思うけれど」

 かいつまんでセイガが説明すると

「お前達…トラブルばかり起きるのな、まさか金色龍の騒動にも関わってるとか」

 やはり龍亜の姿は大きな噂になっていたらしい。

「この雰囲気はそれだけではない気がするけれど…ま、それは忘れて今夜はもう帰ろうぜ、さすがにカウントダウンはホテルで過ごした方が無難だ」

 ハリュウはこういう所が鋭いとセイガは思った。

 それぞれが言えない想いを抱えている…

「明日はいよいよ…大レースだ」

 それでも、前に進もう

「悔いの残らないよう、全力で行こう!」

 アルザスもそんな気持ちが分かったのか…珍しく

「自分も頑張る…お前達も頑張れ」

 そう言って、ひとり夜のアルランカに消えた。

「全くアイツは…もうちょっと協力的にだな…」

「まあいいじゃない…ボクももう眠いなぁ、誰かホテルまで連れてってくれないかなぁ?」

 メイがおどけた調子で両手を広げ、前へと歩いた。

 3人がそれに付いていく形でまだまだ続く街の喧噪の中、一行はホテルへと戻ってきた、それぞれが複雑な想いを宿したまま、それでも沢山の人の前夜祭は続き…

 遂に大レース当日となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る