第16話

 次の日、セイガとハリュウが迎えに来たのだが…

『ゴメン!もうちょっと待ってて!』

 ふたりは現れず、インターホンから慌てた声だけが響いた。

 ちなみにハリュウもセイガの家に泊まらせて貰っていたので、一緒に来たのだったりする。

 こっちもこっちで夜明け近くまで酒を酌み交わし、話をしていたのだが、セイガがハリュウを起こしてどうにか約束の時間に辿り着いたのだ。

「まあ、女子はオレ達より準備に時間が掛かるからな、仕方ない」

 分かった風な口をきくハリュウ

「先方にも一応遅れるかもと連絡を入れておいた方がいいのだろうか」

 セイガがそう心配していると、ドアが開きふたりが顔を出した。

『おお!』

 男性陣の声が揃う。

 ユメカとメイ、ふたりは服装を合わせていた。

 赤を基調とした服のユメカと青のメイ、ふたりとも髪型はツインテールで、身長も近いからか双子のようにも見える。

「双子コーデだよ~♪ どうかな?」

「すっごく可愛いっす!」

 ハリュウが真っ先に反応する中、セイガはメイの視線に気づく。

「ふたりともとても似合ってると思う…綺麗だ」

 気恥ずかしさもあったが、ここはちゃんと伝えるべきだとセイガは思った。

「へへへぇ……やったねっ、めーちゃん☆」

「そうだね、ゆーちゃん♪」

 ふたりがぱちんと手を鳴らす、セイガの想像以上に仲良くなっている。

「その呼び方…なんだかいいな」

「あはっ、そーでしょ?、折角だから呼び方も変えてみたんだ」

「最初はユウノ姉と被るかなと思ったんだけど、実際に呼んでみたら意外と悪くなかったので」

『ゆーちゃん・めーちゃんです♪』

 いつの間に考えたのか、ふたりが揃ってポーズを決めた。

「もしかしてその準備とかで遅くなったのか?」

 ジト目のハリュウに

「うう……」

「だってだって~昨日は夜遅くまで映画を見てて、これでも起きたのはかなり早い方だったんだからね……」

 …

『ごめんなさい』

 素直に謝るふたり。

「まだ間に合うから…早速移動しよう」

 セイガがそうまとめて、4人は移動を開始した。


 学園の一室、そこが4人の目的地だ…まずはセイガが軽くノックをする。

「どうぞ」

 レイチェル先生の執務室にセイガ達が入る。

 そこは本棚と机、幾つかの椅子があるだけの簡素な部屋だったが、カレンダーや写真立てに猫がいたり、コップやペン立てなどの小物が可愛らしかったりして、優し気な雰囲気を醸し出していた。

「今回は急な申し出だったのに快い対応、ありがとうございます」

 セイガがリリカ島で最初に頼りに思ったのがレイチェルだった。

「ううん、私も気になっていたし構わないわ…貴方たちがハリュウ君とメイさんね……はじめまして、レイチェル・クロックハートです」

 椅子から立ち、初対面のふたりと握手を交わす。

 今日もおみ足の絶対領域が眩しい、スーツ姿だった。

「メイ・フェルステンです」

 優しくも凛とした立ち振る舞いにメイは尊敬にも似た気持ちになる。

 一方ハリュウは名乗るのもそこそこに

「いやあ、こんな美人の先生とは…お目に掛かれて光栄です!」

 すっかりレイチェルの魅力に参っているようだった。

 にやけながら、強引に握った両手をぶんぶんと上下に揺らし、なかなか放そうとしない。

「本当に素晴らしい!…いやぁ…ホント」

 そんな姿に

「むぅ…ハリュウってば美人だったら誰でもいいみたいね」

 ユメカの評価が下がる。

「あのひと…なんか軽いよね…ボクなんて全然扱い悪いし」

 メイの評価も下がる。

「ははは…それでレイチェル先生…今回の用件なのですが」

「ええ、聞いているわ、人を探して欲しいのよね?」

 ようやくハリュウの手を解き、レイチェルが椅子に座り直すと、壁際に大きなモニターが浮かび上がる。

「…良かったらそれぞれ椅子を使ってね♪」

「ちなみに…正しくは神様……なんですけど」

 メイが椅子に深く腰掛ける、セイガとユメカもそれぞれ椅子を使うが、ハリュウはモニターとは反対側の壁際に立ったままだった。

「メイさんと一緒に再誕した神様なのよね」

「ハイ…そうです」

 やはり分かっていても、気持ちはそう簡単に変わらない…メイは悲しそうな表情になる。

 モニターにはメイ達再誕者5人のリストが映る。

「山の神ベルクツェーン…情報は全てロックが掛かっていて連絡を取ることも出来ないわね」

 額窓を介して、相手に連絡を取ったり情報を知ったりすることはあくまで相手が了解したうえで可能なのである。

 ベルクの場合は、その一切を禁止していた。

 ちなみにセイガも現在、ユメカが設定して、見知った人以外からの通信は禁止にしてある。

「レイチェル先生でもダメそうですか?」

 ユメカが不安そうに尋ねる。

「うーん…別の方法を使えば足取りくらいは掴めると思うわ」

「本当ですか!?」

 場が一気に明るくなる。

「ええ、なのでメイさん、山の神ベルクツェーンの情報を出来るだけ沢山教えてくれる?」

 メイがその大きさ、容姿、性格、能力などを話す。

 幾つかレイチェルが質問をしながら、5分くらいそれは続く。

 ベルクツェーンのことを知らない面々はそれを聞くだけだが… 

「ベルクツェーンは…相当強そうですね」

 セイガがそう呟いた。

「まあ、あの禁域?の黒い渦の先の気配からして只者じゃあ無かったからな」

「うん……ベルクはとても強いと思う、ボクはアレに勝てる人間をみたことないもん…悔しいけど」

 昔はそれが誇らしかった…けど今は…

「めーちゃんはそれでも立ち向かったんだよね…偉いよ」

 ユメカがメイの手をそっと握る、少し震えていたメイの体が鎮まる。

「それほどの実力なら…やはり『彼』かもしれない」

 レイチェルが静かに声を出すと、目の前に『記』の『真価』が浮かぶ。

「それって…もしかして先生の『真価』?」

 ユメカはレイチェルの『真価』を見たことが無かったので、少し驚いた。

 余談だが、セイガの方はかつてレイチェルと修行を続けていた時に何度かその『真価』を見せて貰っていたので既に知っていたりする。

 様々な情報や思い出を記し、広大なデータベースを構築する。

 それが彼女の『真価』だった。

「セイガ君は『七強』って覚えてる?」

 レイチェルがふとセイガに聞いた。

「ななきょう…確か講義で聞いたことがあったような」

 セイガはレイチェルの講義はほぼ全て出ていたので、少しずつだがこのワールドの事情も分かって来はじめていた。

「学園が定めたこの第4リージョンで最強の7人…それが七強だ」

 ハリュウの説明にレイチェル先生が補足する。

「ええ、正しくは学園のデータベース内での各人の経験値と貢献値、その総合評価の上位7人が七強と認められ学園から称号が贈られるの、だからヤミちゃん達みたいな表に出ない人は評価されていないのだけどね」

 経験値とは、その人がどれだけ『真価』を習熟しているかを数値化したもの

 貢献値とは、その人がどれだけワールドに影響を与えているかを数値化したもの

 どちらも額窓上で決められた数値である。

 学園が把握しているものだけが七強には反映されるので、本当の意味でこのワールドでの強さを示したものでは無いし、経験値と貢献値はそもそもひとつの尺度であって、それがそのまま戦闘の強さになるわけではないのだ。 

 それでも、七強はとても大きな存在ではある。

「七強…どんな人達なのだろう…」

 学園が認めた最強なるもの…それを思うだけでセイガは心躍った。

「あら、セイガ君は既に何人かは会っているのよ?」

「そうなのですか?…あ、そうかっ」

 学園最強、そんな言葉をセイガは思い出す。

「そう!我等が大佐は勿論七強だからな、しかもかなりの長い間ずっと七強の座から降りていない…まさに絶対王者さ」

 誇らしそうにハリュウが言い放つ、デズモスはその名の通り、大佐を信奉し、支援する者の集まりだから仕方がない。

「あと、時紡ぐ聖名…ミナっちも現在の七強のひとりなのよ」

 レイチェルが教えてくれる、確かに初めて学園長室で会った時から色々な意味で只者ではないものを感じた。

「ええと…ベルクツェーンも…まさか?」

 流れから察したのかユメカが恐る恐る聞く。

 メイは大佐とっミナっちが誰だか分からないが、相当強いのだろうというイメージだけは通じていたので、ベルクもそれにあたるのは理解できた。

「最近、めざましい活躍をして新しく七強に選ばれた方がいるの…『ゴット』と名乗っているのだけれど、あちこちの大会に出ては優勝していく…まさに神」

 画面には各地で行われた様々な競技の結果が表示された。

 スポーツや戦闘、頭脳戦から大食いまで、それはかなり多岐に渡っているが、その全てでゴットと名乗る男が優勝していた。

「そしてこれが彼の姿…」

 そこには大きな優勝トロフィーを片手で持ち上げる巨漢、白いキトンにサンダル姿、暴れる紫の髪に端正な顔立ち、自信溢れる灰色の瞳を持つ男が映っている。

「ベルクだ!間違いないよ…」

『ええ…某も分かります、彼がベルクツェーン殿です』

 興奮のあまり、マキさんも飛び跳ねる。

 レイチェルは一瞬ビックリするが、話には聞いていたのかすぐに落ち着き。

「ゴット…ベルクツェーンの動向なら調べることが出来るわ」

 そう断言した。

「ボクたちはあんなに探して全然だったのに…レイチェル先生ってスゴイね、ボク尊敬しちゃうよ」

「ありがとう♪…メイさんの説明のお陰よ」

「ううん、絶対レイチェル先生の力の方が上だよ、ボクも…そんな風になりたい」

 ずっと頑張っても手の届かないものはある…そんな歯痒さをメイは感じていた。

 レイチェルもそれに気づいたのか

「勉強を続ければ、きっとメイさんも強くなれるわ…私はそんな人達のために教師をしているのだもの…良かったら講義にも来てね♪」

 ふんわりとメイに微笑みかける、セイガはレイチェルが学園の教師をしている理由が知れて嬉しかったが、まずは聞かなければならないことがある。

「それで…ベルクを追うにはどうしたらいいですか?」

 セイガの声にレイチェルが思案する。

 同時にモニターに幾つかの情報が表示される。

「ちょっと待ってね…近いうちではアルランカの大レースに出場予定ね」

『大レース?』

 セイガにも、ユメカにも、メイにも馴染みのない名前だった。

「ああ、結構人気で有名だよな、あれ」

 ハリュウは知っているらしく、面白そうに笑った。

学園ここからはだいぶ離れているのだけれど、アルランカという都市国家で行われるイベントで…優勝すれば当然貢献値も沢山貰えるの…おそらくベルクツェーンはそれが目的で参加するんでしょうね」

 指を顎に当て、レイチェルが思案する。

「どうして、ベルクは優勝したいんだろう…ボクが知っているベルクはそんな名誉とか富とかには絶対興味無かったのに…」

 メイには分からなかった。

「めーちゃん…それは直接聞くしかないと思うよ」

「…そうだね」

 セイガが改めて立ち上がる。

「それでは…俺達も大レースに参加しよう」

「いいの?」

 メイが眩しそうに見上げる。

「ああ…必ずメイの力になりたい…俺はいつもそう思ってるよ」

「まあ、乗りかかった船だからな」

 ハリュウもやる気だった

「ありがとう…ありがとうみんな!」

 そうして、セイガ達の次の旅は…遠い異国となったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る