第15話

「それじゃ、また明日ね♪」

 ウイングは30分ぴったりでユメカの家付近に到着した。

 話し合った結果、メイは当分ユメカの家で預かることにしたのだ。

「おやすみ、ふたりとも…ゆっくり休むんだよ」

 セイガが手を振り

「寝坊はすんなよな♪」

 ハリュウが軽口を叩く、そうして男子ふたりが帰っていくのを見届けてから

「うふふ…さて☆それじゃここからはオンナノコの時間だね♪」

「…ふぇ?」

 驚くメイの手を掴んでユメカが自分の家へと案内した。


「ただいま~♪」

 ユメカはひとり暮らしなのだがおそらく習慣なのだろう、声を掛けながら家へ洋々と入る。

「おじゃまします~」

 それにメイも続く。

『…さて、それでは某は先に休ませて頂きます、おふたりともお休みなさいませ』

「うん、おやすみ~」

「おやすみ…?」

 巻物はどうやって寝るんだろうとユメカは気になる。

 マキさんはシュルシュルと紐を閉じると、メイの手の上に落ちた。

「マキさんはね、この紐が結ばれている間は外の様子が分からないようになってるんだ…一応、親しき仲にも礼儀ありというか、そんな感じ」

 とはいえ、一応自力で紐を開けることも出来るそうだ。

「なるほど…どうやら私達のことを気にしてくれたんだね、ありがとうマキさん」

 もう聞こえないが一応ユメカがマキさんに感謝を伝え、メイをリビングに案内する…そこはかなり広い洋風の造りだった。

「さてと…ずっと海辺にいたから肌がべたべたするねぇ…メイちゃん先にお風呂に入っちゃう?」

 リビングの中央で所在無げに立つメイにユメカがタオルを渡す。

「ああ……いえ、そういうのは家主のユメカさんからどうぞっ」

「むぅ、ここはもう自分の家だと思ってくれていいんだよ?…まあ、いきなり寛げっていわれても難しいだろうから自分のペースでいいけど…やっぱり早く馴染んで欲しいなぁ…ってね♪」

 そう言ってユメカがメイをお風呂場に半ば強引に案内する。

「お湯を張ったお風呂ってメイちゃんは馴染みある?」

「ハイ、…元の世界では家ではなく里に共用の温泉がありましたし、こっちに来て長くご厄介になった家では薪で温めたお風呂が大好きでした♪」

「そっかそっかぁ、シャワーもいいけどゆっくりしたい時はやっぱりお風呂が最高だよね☆」

「ハイっ」

 てきぱきと使い方を教えるユメカ

 既に大きめの浴槽にはクリーム色の入浴剤をいれたお湯が満たされている。

「自動でお湯が出来てるなんてホテルみたいですね」

 前に一度泊まった、ちょっといいホテルのことを思い出す。

(あれはちょっと収入が良かったから贅沢したんだっけ…)

「それじゃ、ここに在るものは好きに使ってね♪」

「え、いやユメカさんが先に入るのでは?…」

「ええ?、…それなら一緒に入っちゃう?」

 満面の笑みでユメカが覗き込む。

「それはまだ…さすがに恥ずかしい……デス」

「だよね、だったら先にメイちゃんが入って♪ それくらいならいいでしょ?」

 もじもじとするメイ…実のところお風呂には早く入りたい。

「それでは…お先に入りますね」

「うん!どうぞごゆっくり~」

 ユメカは脱衣所を出ていった。


 …


「はふぅ~~いいお風呂でした~♪」

 ユメカが用意してくれたパジャマを着て、メイが出てきたのは30分ほど経ってからだった。

「ああ、もっとゆっくりしてくれてもいいのに…」

 ユメカはリビングのソファーに腰掛けテレビを見ている。

「これは分かるかな?テレビ…」

「あ、ハイ…幾つかの場所で見たことあります」

 メイはこの3年近く、あちこちを巡っていたので結構様々な文化と触れ合っていたのだ。

「えっへへ…これは特注でね、私がいた世界と大体同じ枝世界の日本の番組を流してるんだ☆」

 確かにテレビから聞こえる音声はユメカの話し方と一緒だった。

 文字もメイには馴染みが無いものだったが、それは『世界構成力』を使えば理解できるので問題無い。

「このリモコンで番組を変えられるから色々回してみて好きなものを見ててね♪」

 そういうと、ユメカはてくてくと歩き、振り返る。

「あ、あと冷蔵庫に飲み物とかアイスが幾つかあるから自由に飲んだり食べたりしてね…お酒は……?」

「ボク…飲めないです」

 メイは見た目通りの年齢なのだろう。

「じゃあそれだけ気を付けてね、それじゃ行ってきま~~す」

 そうしてユメカはお風呂場へと消えた。


 ……


 お風呂から出たユメカが、そおっとリビングに戻ってみると、メイはソファーに寝そべってバラエティ番組を見ていた。

 テーブルにはちょっとお高いアイスと麦茶が置かれている。

(思ったより馴染んでくれてるようで嬉しいな)

 ユメカが覗いていると、

「あはは♪」

 メイが屈託なく笑った。

 出会ってからずっと、どこか張り詰めたものをメイには感じていたので…ちゃんと年相応に笑っている姿が眩しく見えた。

「……あれ?ユメカさん?」

 ようやく気付いたのかメイが振り返る、そしてそそくさと座り直す。

「おかえりなさい…楽しませてもらいました」

「うん、それはよかったよ♪ メイちゃんはバラエティ好き?」

 きょとんとするメイ

「バラエティ?…ああ、この番組?は面白くて好きかも」

 画面の中では芸人さんがネタを見せていた。

「そっかぁ…私も好きだけど私の場合、普段は映画とか海外ドラマとかの方が多いかも…知ってる?」

「確か映画は2時間くらいでひとつの物語を見るものですよね」

「そうそう!興味ある?」

 メイの瞳が少し輝いて見えたので、ユメカがずいっとメイの横に座る。

「ハイ、気になります」

「それじゃあ、私おススメの作品を見ちゃいますかっ♪」

「見ちゃいます♪」

「今夜は長くなるかもっ…ちょっと待ってね、私も準備しちゃうから!」

 ワクワクしながらユメカが部屋を出る。

 そのワクワクに当てられたのか、だいぶ眠かったはずのメイの眠気も取れてしまっていた。


 最初に見たのはアクション映画だった。

「メイちゃんは見てる間話し掛けられるのは平気?私…誰かと見てるときはついつい声を出しちゃう方なんだけれど…」

「多分大丈夫かと……もしイヤだったら、ちゃんと言いますから気にしないでいいですよ?」

 ポテチとビールを用意したユメカはさらにポップコーンとオレンジジュースをメイに勧め、ふたりはそれらを食べながら映画に臨んだ。

 始まってみると、ふたりとも終始叫んだり、笑ったり…主人公とヒロインのキスシーンではちょっと気恥ずかしくなったり…

(やっぱりそうか……)

 なんとなくメイのことが前よりわかった気がするユメカだった。

「すっごく、絶対面白かった!」

 終わってみると興奮冷めやらぬ様子のメイ、

「映画ってスゴイねユメカ!…さん」

 ふと、自分の口調の変化に気付く

「ふふ…いいよ、めーちゃん…私は出来ればもっともっと仲良くなりたいもん、お姉さんというよりは、友達みたいにね♪」

 そう笑い掛けてくれるユメカの気持ちが嬉しくて…

「ありがと…ボクも仲良くしたい…な」

 だから素直に自分の心を打ち明けることができた。


 2本目は恋愛ものだった。

 学生同士の淡く切ない、それでいて甘いお話。

 最初はお互いきゃいきゃいとその場の感想を話していたふたりだったが…後半の展開では無言の時が流れた…そして

「あんなの…ずるいじゃないかぁ……ぐすっ」

「…うう…やっぱり何度見てもコレは……泣けるね」

 ふたりとも涙をぼろぼろと流している。

「ふっ…ふっ……ん!」

 苦しくなる喉にオレンジジュースを流し込むメイ、それを見ながらユメカもウエットティッシュで顔を拭った。

「ちょっとは…気が晴れた…かな?」

 それは自分のことなのか、メイのことなのか

「なんか…ホントいろいろと…助かりました」

 メイも、思いっきり泣いて、何か分かることがあったのか、その表情はとても落ち着いていた。

「ふわぁ…そろそろ……ねなきゃ…だね」

 欠伸が出る…映画2本分、もうかなりの時間だ。

「ふぁい……」

 メイが倒れ込み、ユメカの膝に頭が乗る。

「ああ…それはとても気持ちいいけれどベッドで寝ないとダメだよ…めーちゃん」

「ふにゃ~ぉ」

「うはっ…なんてかわいい」

 そんな風に微睡むふたり…そして……

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