第14話

「えへへ…私は『沢渡夢叶』よろしくね♪」

「『破竜・Z・K・エクレール』だ、長いからハリュウでいいぜ」

「ユメカさん、ハリュウさん……セイガさん」

 メイは3人を呼びながら目で確認する。

(ダメだ…なんでかセイガさんだけまっすぐ見れないよ)

 俯くメイを見て心配してか

「ところでメイちゃんはどうしてあの黒い渦から落ちてきたの?」

 ゆっくりと近寄ってユメカが尋ねる。

 いつのまにか黒い渦は無くなっていて、あの強大な気配も消えていた。

「ええと…ボク達はこの島にアイツを探しに来ていて…あ、タクト?」

 不意にメイが遠くに向けて手を振る。

 すると森の中から黒い肌に白い髪の少年が現れ、こちらに走って来た。

「メイ!よかった無事だったのか、急に祠の前であのでかいやつと一緒に消えちゃうし、あちこちから大きな音や光が起きておいら…おいら怖くて!」

 そのまま少年がメイに飛びつく。

「ごめんタクト…ボクもあんなになるなんて思わなかったんだ」

 多分後半はセイガとハリュウの決闘のせいだろう、ユメカは少年の不運に心の中で合掌する。

「ええと?」

「あのね、この子はタクト、ボク達をこの島まで案内してくれた現地の子なんだ」

「…タクト、です」

 おそらく外部の人間とはあまり交流が無いのであろう、興味半分、怖さ半分の表情でタクトはセイガ達を見ている。

「そうなのか…メイは目的があってこの島に来た…それがあの黒い渦とも関係しているのか?」

 不思議とセイガはメイのことを呼び捨てにしても平気な風だった。

「うん、あれは禁域…山の神ベルクツェーンの世界で、そこでボク達はさっきまでアイツと戦ってたんだよ」

 歯噛みするメイ…結局のところ、あれは完敗だった。

「なあ、さっきから『ボク達』っていってるけど、それってタクトのことじゃないよな?」

 ハリュウがツッコむ、確かにタクトはその時別行動だった筈だ。

「そうだった、ええと…ボクには相棒というか一緒に戦ってくれる仲間がいて」

 ごそごそと胸元から何かを取り出すメイ、果たしてそれは

「…巻物?」

 ユメカがいち早くその物体に気付く。

 それは昔の人が使っていただろう、緑色の古い巻物だった。

「うん、マキさんは絵巻物?だけど意志を持っていて、ボクと一緒に戦ってくれたんだ…でも、さっきのベルクとの戦いでボクを庇って…っ」

 確かに所々破れ、今にも大元から割れてしまいそうな姿…

 メイの瞳から涙が溢れ出す、きっと…大切な仲間だったのだろう、周りの面々もそれを感じて沈黙した。

「マキさん…ゴメンね、ボクが……ぐすっ…ボクがもっと強かったら!」

 巻物がメイの涙で濡れていく。

 それは染み入るように巻物全体に広がり…

 突然、巻物が光を発した。

『……ふぅ、少し眠ってしまった様ですが…此処は何処ですかな?』

「マキさんっ!」

「しゃべった!?」

 驚いたことに確かに巻物の方から声が聞こえる。

 しかもそれはメイの手から離れ、ふわふわと開きながら浮き始めた。

 中には水墨画だろうか、渓谷の風景が描かれている。

『おお、メイ殿!無事で何よりです。しかしてベルクツェーン殿は?』

「ボク達はベルクに負けて禁域から弾き出されたんだよ、それで地上に落ちそうになったところをセイガさんが助けてくれて…」

 メイがセイガを眩しそうに見る。

『そうでしたか、それは御礼申し上げる、某は『新緑山水鳥獣絵巻しんりょくさんすいちょうじゅうえまき』、付喪神と呼ばれる存在にしてメイ殿の同行者でござる、以後お見知りおきを』

「本名は長いからマキさんって呼んでね」 

 マキさんは丁寧にお辞儀するような動きを見せた。

 セイガも釣られてお辞儀をする、

「宜しくお願いします、それにしても生きている巻物だなんて…凄いですね」

「おいらも初めて見た時はビックリしたよっ」

「やっぱり珍しいものなのかな?」

 セイガは何となくユメカに尋ねる。

 ユメカもあまり聞いたことが無さそうで

「どうなんだろう?私も分かんないや…えへへ」

 お手上げのポーズを取った。

「魔法や科学文化の発達した世界では比較的珍しくないらしいぜ、ホムンクルスとかゴーレムとか人工知能だとかな」

 意外とハリュウが詳しく説明してくれた。

「おお、博識だな」

 素直にセイガが賞賛する。

「まぁね♪ オレはデズモスの一員だから枝世界の知識にも詳しくて当然なんだよ…カッコいいでしょ?」

 そのまま女性陣にウインクを飛ばす。

「わざわざ自慢するところはカッコよくないかなぁ」

「ん~…ボクとしては…イマイチ?分からないです」

 彼女達には不評だったようだ、メイはそんな中、セイガの方を見ながら別のことを考えていた。

(そうか……カッコいい…のか)

 それは自分の中に芽生えた感情の意味を確認するように…

 すると、セイガと目が合ってしまう。

「?」

「!」

 急に恥ずかしくなってマキさんの影に隠れようとするが、なんとセイガはそのままメイに近づいてくる。

 そして、メイの肩にそっと両手を置いた。

「!!」

「メイ…最初から全部、話してくれないか?」

 真っすぐな瞳でセイガに見つめられる。

「あ…あの…?」

「どんな事情があるか知りたいんだ…そして、俺は出来れば力になりたい」

「セイガさん…」

 ドキドキして変になってしまいそう。

「う…」

「だったらおいらの村に帰って話そうよ♪ 多分村のみんなも何が起きたか不安で仕方ないだろうし!」

 タクトの一言に救われたように、へなへなと力が抜けるメイ。

「メイちゃん!?」

「おい、大丈夫かよ!」

 そのままメイは気を失ったのだった。



 一行はハリュウのウイングを使い、タクトの住む島へ向かった。

 いきなりの来訪で村の人達に最初は驚かれたが、事情を話してからは歓待された。

 夕食を戴き、滞在も乞われたが、それはやんわりと断った。

 そもそも謎の爆発音や雷鳴はセイガ達のせいなので、感謝される類のことをしていないのもある。

 夜になる頃にはようやくメイも元気を取り戻し、夕食も元気に食べていた。


「もうちょっと居ればいいのに」

 タクトが寂しそうな顔でメイの手を取る。

「落ち着いたらまた来るよ♪ その時はまた島を案内してね」

 短い間だったけれど、メイとタクトは仲良しになっていた。

「うん、その頃にはきっとおいらも成人の儀式を終えて一人前になってるから…その時はおいらも連れてってくれよ!」

 タクトにはまだ『真価』がない、ワールドで生まれた子供は一定の年月が経って、分別がついた時に『真価』を獲得できるのだ。

 タクトの村の場合、成人の儀式が『真価』を得るための条件になる。

「うん!分かった、その時まで元気でね」

「メイも…絶対また来いよな!」

 そうしてふたりの別れも終えて、ウイングでの帰還中…


「操縦は大丈夫なのか?」

「ああ、オートパイロットでちょうど30分後に到着するようにしといた」

 本来ウイングはハリュウ一人乗りだが、装備のひとつとして複数人を運べる旅客部を持っていて、今回はそれを使ってリリカ島まで来たのだ。

 キャビンは縦長で、そこそこの広さがあり、ハリュウがコックピットから降りて来た時には3人はそれぞれ寛いでいた。

「それじゃあ、メイから一応事情は聞かせてもらったが…改めてこれからの話をしようか」

 約3年近く前、メイ達はこのワールドに再誕した。

 再誕というのは以前いた枝世界からワールドに来ることを言う。

 メイとその両親、従姉と…彼らの信奉する山の神ベルクツェーン、その5人が同時に再誕したそうだ。

「最初はみんな戸惑っていたけれど…なんとか上手くやってたんだよ?」

 再誕したものはほぼ皆、一部の記憶を失っている。

 メイ達5人もお互いに記憶と状況を擦り合わせ、まずは目的地としてベルクツェーンが心休められる山を探すことにしたそうだ。

「高い山、綺麗な山、いろんな場所を旅してたんだ♪」

 ようやくベルクツェーンのお眼鏡に適う山を見つけた頃、異変が起きた。

「ベルクが…なんだか怖い顔をするようになったんだ」

 家族を寄せ付けず、ひとりで山の奥に消える日が続いたという。

 さらに

「父さんと母さんも何だか元気がなくって…」

 食欲がなく、横になる時間が増えた、何かの病気かもと病院に行ったが原因は分からなかったという…

 そんなある日、悲劇が起こった。

「その日の晩…あまりこの夜のことはボクも覚えてないんだけれど…両親とベルクが何かを話してたんだ…そして…」

 ベルクが両親を殺した。

「ボクとユウノ姉は逃げたんだけれど…途中でボクだけ河に入って…」

 なんでも二手に別れた方が逃げ延びられると…従姉は身を挺してメイを守るために自分の方が目立つ道を使ったのだという。

「でも、待ち合わせの場所に…ユウノ姉は来なかったんだ……」

 連絡もつかず、困り果てるメイ、一度意を決して山に戻ってみたがもうそこには誰もいなかった。

 それからはひとり、ベルクツェーンを探していたという。

『某がメイ殿にあったのは半年ほど前のことでしたな』

 とある村でメイとマキさんは出会い、以後マキさんの力の源、御業を教わりながらベルクツェーンに対抗するための力を磨いていたのだという。

「全然…ベルクには効かなかった…けどね」

「そうか…でもそれは絶対無駄ではなかったよ」

「セイガさん…」

 セイガが優しくメイの頭を撫でる。

「無駄に見えたり、遠回りに思えたりしても…全力でやってきたことは必ず、意味がある、自分の力になるんだ」

「ありがとう…ボク……」

「相手が神だろうと関係ねぇ、オレ達がいるんだ…必ずどうにかしてやるよ」

 腕を前に出し、ハリュウが大きく宣言する。

「最悪大佐の力を借りる手もあるし!」

「あはは、ちょっと情けないね…でもメイちゃん安心して…とまでは言い切れないけれど…私達も力になるよ」

「ハリュウさん…ユメカさん」

『メイ殿…善い御方々に出会えましたな』

 マキさんは泣いているように震えている。

「それでまずは…ベルクツェーンの居場所だけれど…メイは分からないよな」

「うん、今回は神の住む山という噂を聞いてダメ元で来ただけなんだ」

「あのもの凄い気配もいつの間にか消えちまってたしなぁ…」

『また地道に探すしかないかもですな』

「う~~ん…こんな時…頼りになる人は……」

 それぞれが思い悩んでいると、セイガが何かに気付いたように

「俺に考えがある」

 そう呟いた。

「ええと…それって?」

 ユメカの問いにセイガが説明する。

 そうして、次の方針が決まった。

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