第13話

「…!」

 それに最初に気付いたのはセイガだった。

 突然、頭上遥か先の空に、巨大な何かの気配が生じる。

「あれはっ」

 ハリュウが指差す方向、そこには深く青い空の中、黒い渦のようなものが発生している…おそらくその先に強力な力を持った何かがいるのだ。

「…ええと…ナニ、何?」

 急に現れたその異変にユメカは大きな不安を感じる。

 セイガも同様だ…これはまるでヤミホムラと相対した時のような…

 とんでもない力だから。

 音もなく広がる黒い渦…

 3人の目が釘付けになる。

 そんな中…

 黒い渦の中心から何かが飛び出した。

 それは…

「行ってきます!」

 いち早く気付いたセイガが、『剣』の力を開放する。

「飛べ!」

 そして全力で空を駆け上がった。


 少女は落ちている。

 仰向けになったまま、空中を切り裂くように落ちている。

 最早力も出ない、そもそも自分には何も出来ない…

(ゴメンね…みんな……)

 全ての終わりを悟った時、少女の視界の端に『剣』という『真価』が見えた。

(これは……アルザスさん?)

 かつて自分が危機に陥った時、助けてくれた人…

 まさかまた…なんて

 その時、少女は自分を包むものの姿を見た。

 彼はアルザスではなかった。

(とても…きれいな…瞳)

 少女を気遣う黒く強い意志を感じる視線…少女はぼうっとそれを見続ける。

「…もう、大丈夫だ」

 穏やかで優しい声だ…本当に助けてくれるかも知れない。

 両手で抱えられたまま、自由落下している…このままではふたりとも助かりそうにないけれど…そもそも彼はどうやってここまで来たんだろう?

「まもなく地上だ…そのまま力を抜いて」

「……はい」

 自然と力が抜けていく、まるで羽になったように軽く…

 そしてふたりは地上へ帰還した。


 砂浜に降りた二人に、ユメカとハリュウが駆け寄る。

「どうやって降りたの?痛いところは無い?」

 かなりの衝撃かと思ったが、セイガも、抱えられた少女も問題無さそうに見える。

「最後に高速剣を使って、衝撃を抑えたんだ…上手くいってくれて良かった」

「ああなるほど…そういえば前も飛行機くらい高いところまで飛んでたもんね」

「だが、衝撃は消せてもお前にはダメージがいくんじゃないか?」

 ハリュウの指摘の通り、飛んだ分と降りた分の高速剣の消耗は残っている。

 それでも少女を助けられたので充分だ、そうセイガは思った。

「あの…ボクは…?」

 少女が周囲を見渡す、長く伸びた黒い髪が揺れ落ちる。

「…と、降ろして欲しい……です」

 恥ずかしそうな少女

(なんだろう……ずっと心臓の音が…止まらないよ?)

「ああ、ごめん」

 セイガがそっと少女を砂の上に降ろす。

 少女は青いワンピースについた土を払いながら

「ダンケ……ありがとう…ございます」

 顔を真っ赤にしながら大きく頭を下げた。

「いえいえ…まずは無事そうで良かった」

 セイガが少女を穏やかに見つめる。

「俺は『聖河・ラムル』…君の名は?」

「メイ……『メイ・フェルステン』です」

 両手を震わせながら、メイは自分の名前を名乗った。

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