第12話

『アクセプト』

 突然、入り江の端に停めてあったハリュウの戦闘機『ウイング』が鳴動した。

「行くぜっ…天衣変身!!」

 ハリュウが再び高く飛び上がると、ウイングから何かが射出された。

 光に包まれ、ドッキングするようにハリュウとそれは結ばれる。

 ざん…

 陽光を受け、

「是が、オレの本気モードだ!!」

 両手を広げ、全身に白いアーマーのような武装を纏ったハリュウがそこにいた。

 風林火山の方にも金属製の三叉の矛と柄が装着されている。

「うわーー、なんか特撮物みたいだー あはは」

 ちょっと面白くなってきたユメカ、一方セイガは

「……格好いいな」  

『へ?』

 声が揃うハリュウとユメカに対して

「あ、いや何でもない」

 そう言ってごまかした。

「どうだっ、オレは全て出してやったぜ! セイガ、お前もここまで来たらやるしかないだろう?」

 高らかに笑いながらハリュウが再び挑発する。

「ああっ…そうだな!!」

 セイガも目の前のハリュウの姿に触発されたのか、目が輝いている。

「ははは…このふたり、やっぱり似た者同士というか…戦闘バカなんだろうなぁ」

 ユメカはちょっと呆れていたが、そういうのも嫌いではなかった。

「喰らえ!」

 裂帛の気合を込めて、セイガが剣閃「ファスネイトスラッシュ」を放つ。

 だがそれはハリュウの左腕に新しくついたシールドであっさりと防がれた。

「おいおい…そんな攻撃でオレのアーマーを壊せると思ったのか?」

 そのまま腰を落とす。

「だったらガッカリだぜ!!」

 その体勢のまま高速で突進するハリュウ、ロケットのような推進力でセイガに襲い掛かる。

「ぐおっ」

 セイガは槍の一撃は何とか躱すがアーマーの突進をまともに受ける。

「いくぞおおおぉ!」

 ふたりはそのまま断崖のひとつにぶつかる。

 轟音を上げ、崖の一部が崩れ落ちる。

「セイガっ!」

 どうやら断崖に叩きつけられる寸前にセイガは高速剣で逃げていたようで、砂浜に倒れている。

 ハリュウの方はまともに落石を受けていたが、頭も兜状のアーマーで守られていたのでほぼ無傷だった。

「はぁっ…はぁ」

 ハリュウが気付く前になんとかセイガが先に立ち上がる。

 濛々と土煙があがる中、今度はセイガが突進した。

「不意打ちのつもりかぁ!」

 振り返りざま、風林火山で横薙ぎを繰り出すハリュウ、しかしセイガはそのすぐ下を潜り…

「ヴァニシング・ストライク!!」

 根元から突き上げるように一気に上昇した。

『おおおおお』

 断崖をぶつかり合いながら駆け登る両者、最後はセイガの刀とハリュウの蹴りがそれぞれ相手に当たり、弾けた。 

 セイガは海へと、ハリュウは砂浜へと落下。

「……ぷはっ」

 セイガの方は上手く着水してダメージはあまり残らなかった。

 しかし

「くそっ」

 ハリュウは重いアーマーが災いしてか、衝撃によるダメージが残った。

 セイガは最初からそれを狙っていたのだ。

「いくら衝撃にも強い構造だとしても…あの高さからでは無傷とは行かない…だろ?」

 ざばざばと音を立て、砂浜に戻るセイガ…

 陽光が濡れた体を温めるように照らしている。 

「ふん、この程度でオレは倒せないぜ!」

「俺もだ」

 槍と、剣が再び交錯する。

 ハリュウのアーマーはかなり重そうに見えるが、その動きは変わらず、寧ろ突進力に関してはさらに向上していた。

 おそらくアーマー自体に何か力があるのだろう。

「オレの『空』の力、大気滅殺拳と風林火山、そして天衣変身が揃えば無敵!」

(大技がくる!)

 そう察知したセイガが身構えた刹那、颶風かぜが吹き抜けた。

「くらえっ 羅刹颯波らせつそうは!!」

 青き力を纏った風林火山の一撃、さらにアーマーのブーストを掛けたそれは嵐のように砂浜を蹂躙した。

 セイガは高速剣移動によりなんとか直撃は避けたが、左腕が痛む。

 だが

「はぁぁぁぁあ!」

「なにぃ!?」

 セイガはまだ動く、一瞬で間合いを近付けると背後から連撃を放つ。

 ハリュウはアーマーで防ぎながら振り返る、しかしセイガがいない。

「下かっ?」

 さっきの一撃を警戒してローキックを撃つ。

「上だよ!!流星刃」

 セイガの打ち下ろしの剣撃と共に幾つもの水晶のような光が現れてハリュウを襲い、その反動でセイガは後ろ向きの姿勢のまま遠くへと飛んだ。

 威力自体は前回…ヤミホムラに使った時より、遙かに落ちてはいるが、何とか発動することは出来た。

(まだ…戦える…俺は……絶対に負けない!)

 ふと視界にユメカの姿が入る、ビックリしているような…ワクワクしているような表情、そんな姿を見るだけでセイガの中で力が湧き上がるのがわかった。

 ようやく、砂浜に降りるセイガ、それを見るハリュウ…

「やってくれるじゃないか…やっぱり面白いよ、お前は…よっ!」

 叫びざま、赤い波動を放つ。

 何とか躱すが、焦げ付くような熱気をセイガは感じた。

「それも大気滅殺拳…というやつか」

 属性の違う幾つもの波動…おそらくそれがハリュウの『空』の力なのだろう。

「全部は語ってやんないがね、大いなる空と気により…全てを滅する武術…それが大気滅殺拳だ!」

「ええと…それって大分語っているような…」

 そんなユメカのツッコミを聞いてか否か、ハリュウが再び突進する。

「ただの突進か?」

 ハリュウのアーマーによる突進は強力だ、だが同時に威力が大きすぎて細かい動きや転身には向いていない。

 それを考慮して躱せば

「瞬動はお前だけの特許じゃ…無いんだぜ?」

 そうハリュウが言った瞬間、彼の姿が消えた。

「!」

 危険を感じたセイガが高速剣で逃げるのと、ハリュウが現れるのが同時だった。

 全力で逃げるセイガと追うハリュウ、砂浜にはその残像と勢いによる砂飛沫だけが幾つも舞っていた。

「くはっ!」

 全力での高速剣、一気にセイガが距離を離して島の中にある森の手前に立つ。

 同時に襲い掛かる大きな疲労に耐えられず膝を落とした。

「是が瞬動法、すげえだろ…はぁ、はぁ‥‥」

 ハリュウの方もかなりの消耗のようだ、アーマーはいつの間に外しており、全身から汗が噴き出ていた。

 おそらく瞬動法を使うためにはアーマーは重荷だったのだろう。

「…天衣変身!」

 再び散らばっていたアーマーが集まり、装着される。

「瞬動法は…まだ未完成なんで…今日はここまでだけどな」

「そうか…それは残念だな」

 セイガもはったりなのか、本気なのかそう返す。

 体力の方は…正直いつ果ててもおかしくないほどだ。

 しかし、気力だけはまだ尽きてはいない。

「行くぞ…精神を加速させろ!」

 今なら…行けるかもしれない、あの目指した場所へと…

 そう信じながらセイガは力を集中させた。

「おいおい…ここにきて大技かよ……そいつぁ上等だぁ!!」

 ハリュウもその意気を感じたのか、再び突進で駆ける。

 セイガは狼牙を大上段に振りかぶる、目を閉じて、瞑想するように…

 そして

「雷 王 天 地 元 !」

「雷かよっ!?」

 ハリュウが一瞬白く歪むが…

 直後にセイガの手が振り下ろされ、

 蒼い雷霆らいていがハリュウのその身に撃ち付けられる。

 絶縁破壊による轟音が浜辺に響き渡り、ユメカは両手で耳を塞いだ。

「…終わった…の?」

 ハリュウを見てみると、アーマーは幾つか破壊されていたが、なんとかまだ立っていた、しかしながら満身創痍ではある。

「ふぅ…関波かんはである程度は防いだが…かなりの威力だなオイ」

 ハリュウは槍を持つ気力も無いのか腕をだらりと降ろしている。

「はは…最近覚えた技だが…上手くいってよかったよ」

 セイガも狼牙を収め、肩で息をしながらハリュウへと歩く。

 因みに、セイガの家が停電した原因がこの技である。

「ふふふ…」

「へへへ…」

 お互いにゆっくりと歩きながら間合いを詰める。

 白い浜辺に砂の鳴る音だけがする。

「はぁ!」

 セイガの拳がハリュウの頬にヒットする…

 よろりとするが、倒れない。

「……おらぁ!」

 今度はハリュウが蹴りを放つ、それはセイガの腹にまともに入る…

 身体が「く」の字に曲がるが、まだ倒れない。

 そこからは互いの体力を賭けた肉弾戦に入った。



 それから10分後…

 ふたりは砂浜に大の字になって倒れていた。

 どちらが先かは分からない、所謂ダブルノックアウト状態だった。

「こいつは…どちらも動けないってことは…」

「…引き分け、だな」

 動けなくなるまで戦う、それが勝敗の条件だったから、双方動けない今の状況は確かに引き分けという他ない。

「……楽しかった…な」

 セイガが息も絶え絶えな声で言う。

 それが今の正直な気持ちだった。

「ははは…思った以上に強いじゃねぇかよ……こんなに気持ちのいい勝負は…はじめてだ」

 片目が開けられない状態のハリュウだったが、ぼこぼこの…それは笑顔だ。

 ハリュウが倒れたまま、指をじりじりとセイガへと向ける。

「セイガっ…お前は今日からオレの親友だ!」

 セイガは少し驚いたが…

「…ああ、俺もお前と会えて嬉しいよ…ハリュウ」

 砂の上の指先を伸ばして、繋いだ。

 そのまま強く握手を交わす、それだけでよかった。

「はいはい~そろそろ体力を回復させますよ~♪」

 ユメカが汗臭いふたりに近寄ると、回復魔法をかけてくれる。

 身体はまだ痛い箇所が幾つかあるが、ひとまず動けるくらいにはなった。

「うふふ、ふたりとも凄く強かったね…でも、今後は私を賭けて勝負なんてしちゃダメなんだからね☆」

 座り込むふたりを躾けるようにユメカが指差す。

「ああ、すまなかった…」

「オレも悪かったよ」

「えへへ、それで宜しい♪ 本当にお疲れ様、正直私は暇になるかなぁと思ってたけれど…見ててとっても楽しかったよ」

 そんなユメカの笑顔にふたりは心も癒される。

「ひとまず、オレがユメカさんの護衛に最適なのは分かっただろ?」

「…実力は、認める」

 その点に関しては少しだけ不満もあるのかセイガは立ち上がり、砂を払いながらはき捨てるように評した。

「個人的にはサラさんの方が気兼ねしなくて助かるんだけどね、てへへ」

「そんなぁ~ひどいぜユメカさ~~ん」

「あははっ そういえばこれからはハリュウって呼び捨てでもいい?」

 そんなユメカの言葉に

「勿論大歓迎っす! じゃあオレも…ゆ…」

 喜ぶハリュウと、少しだけ複雑なセイガの表情

「何かハリュウに呼び捨てにされるとぞわっとしちゃいそうだからそっちは現状維持で、ね?」

「えーーー!?」

「はははっ♪」

「えへへ♪」

 そんなハリュウの顔につい笑ってしまうセイガとユメカだった。

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