第11話

 決闘の日が来た。

 どこまでも蒼い空に、くっきりと白く高い入道雲が浮かぶ。

 断崖に守られた入り江、白くさらさらした砂が眩しい。

 海はエメラルド・ブルーで、海中には様々な命が踊っている。

 それはまさに決闘にふさわしい……?

「準備はいいようだな!」

 セイガは青いTシャツに白い長ズボンと黒いスニーカー、まるで海水浴で遊びに来た青年風…

「おおよ!」

 ハリュウはサングラスに柄物のパーカー、下は黒い海パンにサンダル、まるでビーチにナンパをしに来たかのような姿だ。

「あれ?もしかして私達…海に遊びに来た!?」

 ちなみにユメカは水着…ではなく、夜空の柄のTシャツにデニムショートパンツ、腿まであるタイツにスニーカー、ロケットを模したペンダントを着けている。

 髪もシュシュでまとめ、動きやすさ重視といった服装だ。

「ユメカさんが望むのなら波乗りでもスイカ割りでも用意しますぜ」

 ここは無人島であるリリカ島。

 学園の近く、港街ファルネーゼの南東にある星降り群島の中のひとつ。 

 決闘の被害を抑えるのと、風光明媚さを鑑みて選ばれた場所だ。

 因みに此処へはハリュウの所有する戦闘機、「ウイング」を使ってやって来た。

 なのでハリュウにとってはその手の準備も万端だ。

「今回の決闘は生死をかけるようなものでは無いから敢えてふたりとも武装はある程度控えることにしたんだ」

 セイガが説明してくれる。

「なるほどね、ところでハリュウは軍服じゃなくていいの?」

「ああ、これはデズモスが正式に考えた『非公式の私闘』なんで、ユメカさんも見世物くらいに思って見ててくれよ♪オレのカッコいい所満載だからね」

 サングラスを上げ、ウインクで応える。

 それと共に束ねた金髪が潮風に揺れた。

「ははは」

「つかぬことを聞きますがユメカさん…水着のご用意は?」

「ありません☆」

 両腕で身体を隠しながらユメカ

「そんなぁぁぁ!」

 ハリュウは本気で悔しそうだった。

「馴れ馴れしすぎるぞ、ハリュウ」

 セイガが睨むも

「はぁん、お前だって本当はユメカさんの水着姿を見たかったくせに」

 ハリュウはどこ吹く風

「なっ!?」

「……そうなの?」

 ユメカが訝し気に見る。

「いえ!…もしそうなら嬉しいということも無くは無いのですが…」

「いや、絶対コイツはスケベな奴ですよ、それもムッツリな方で」

「ハリュウ!!どうやらお前とは本気で殺り合わないといけないらしいな…」

 セイガの背後にメラメラと怒りの炎が発現する。

 同時にその手には『剣』の『真価』と刃渡り1.5mとかなり長い日本刀、その銘も『狼牙』が現れた。

「おう!やってやろうじゃないか!」

 ハリュウが両手を掲げると光と共に2m程の木の槍が出現し、そのままそれをブンブンと振り回す。

「んで、ルールはどうする?」

「どちらかが動けなくなるまで、それで充分だ」

 セイガが腰を落とし、狼牙を抜刀する…白銀の刃が陽光を反射する。

「面白い!オレの風林火山が火を吹くぜぃ!」

 どうやらそれが槍の名前らしい、ハリュウが振り回すのを止め、サングラスを投げ捨てると、戦場に静寂が走る。

「ええと…それじゃあ私は危険だから少し離れた所にいくね、えへへ」

 既に砂浜にはパラソルとデッキチェアが用意されていたので、あまり日焼けをしたくはないユメカはそちらに避難する。

 それを見届け、セイガは一気に心を燃やす。

「聖河・ラムル…参る!」

「是が…『空』だ!」

 ハリュウの眼前に『空』の『真価』が浮かび、それに呼応するようにハリュウの闘気が膨れ上がる。

 それが決闘の合図になった。


 両者が浜の上を高速で移動する。

 砂が撒きあがると同時にセイガの身体が真紅のエネルギーに包まれた。

「ヴァニシング・ストライク!!」

 矢のような勢いでハリュウを捉える、一方ハリュウは真っ向から受け止めるように槍を構える、

「熱には是だ! 盧波ろうは

 ハリュウの槍全体から黒い波動が生まれ、突きと共にセイガの技とぶつかり合う。

 ほぼ同じタイミングで両者の力は尽き…

「やるな」

「お前こそ」

 対峙するふたり、間合いは互いの長物にとっては近すぎる。

 先に動いたのはセイガだ。

「…高速剣『あぎと』」

 先に技を名乗る。

 静寂の中、右と左、その両方からセイガの斬撃がほぼ同時に起きる。

「うおおぉ!」

 ハリュウが槍を立て背後に逃げようとするが、両方は受けきれず左腕にダメージが残る…それでも致命傷には至らなかった。

「く…さすがにまだ未完成か……」

 高速剣は『それに担う体力を消耗することにより行動を一瞬で可能にする技』であり、本来なら見てからでは反応できない程の速度でふたつの斬撃が完成する筈なのだが、今のセイガの実力ではそこまでには至らず、だからこそハリュウに大ダメージを与えることが出来なかったのだ。

「そいつは一度見ているからな…とはいえヒヤヒヤしたぜ」

「…見ている…だと?」

「ああ、オレもあの時いたんだよ…遠くで待機していたから気付かなかっただろうがな」

 はじめて完成したこの技を使ったのはアルザスと決着をつけたあの日…確かに大佐やデズモスの面々が来ていたがそこにハリュウもいたのだ。

「報告通りだな…あの日に比べてだいぶ力が落ちてるじゃあないか」

 悔しいがハリュウの言うことは事実だ、今のセイガはアルザスと戦った時よりも力が出せていない…

 あの時はどうしても成したい願いがあり、全力以上の力を発揮していたのだろう…ましてやその後の戦闘を考えればセイガの弱体化は絶望的だった。

 せめて、ユメカの力を借りる前までの強さが残っていれば…

 そう悔やみながらセイガは日々鍛錬を続けていたのだ。

「それでも…俺は俺に出来ることを続けるのみだ」

 先程の高速剣の疲れが一気に襲う、今のセイガでは攻撃での高速剣は何度もは使えない。

「じゃあ、こんどはこっちから行くぜ!」

 ハリュウが大きく飛び上がる。

「おおおりゃーーー!」

 頂点から、一気に狙いを定めセイガへと落下する。

 躱すのは簡単だ。

 受けるか…それとも

 セイガは自らも飛翔した。

「ええ!?」

 ユメカもその行動に驚く…が交差したふたりを見てさらに驚いた。

 落下するハリュウと飛び上がるセイガ、一瞬の邂逅の後、倒れたのはハリュウだった。

 セイガは直接はダメージを受けていない。

「何だよ…今のは?」

 咄嗟に槍を立て、どうにかすぐに体勢を立て直すハリュウ。

「高速剣の応用だ、結び合うタイミングを一瞬ずらした」

 ハリュウはセイガの飛び上がるタイミングを見て、一撃を与えようとした、しかしセイガは高速剣による移動でそれよりほんの少しだけ速く一撃を加えたのだ。

 これなら高速剣による消耗もそんなに大きくは無い。

「まだだ」

 セイガが攻撃を続ける、ハリュウはそれに応えるが続けざまのダメージと、またいつ高速剣を使うのか…それを警戒して大きく出れない。

「くそぉ!」

 苦し紛れに蹴りを放つ、これにはセイガも一瞬反応が遅れた。

 豪快な蹴りを受け、大きく飛ばされる。

 ただ、砂地だったので、思ったほどダメージは無い。

「はぁっ…体術もあるのか…気をつけないとな」

「デズモスはなぁ…なんでも出来ないとっ、戦えないんだよ」

 お互い息が荒い。

「なんだろう…ふたりとも……楽しそう」

 ユメカの言う通り、睨みあうふたりではあったが…その表情はどこか吹っ切れたような、明るいものだった。

「まだなんか迷ってるようだなぁ…セイガ!」

「なん…だと?」

 ハリュウが槍をざんと砂浜に立てながら

「どうせ考えても答えが出ないようなもんじゃねえのか?」

 明らかな挑発だ。

「お前に…何が分かるっていうんだよ」

「わかんないさ、だがな…こういう時にどうすればイイかは知ってるぜ、迷ってるっていうならよ、オレが開放してやんよ!」

 ハリュウはそう言うと右手のブレスレットを天にかざした。

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