第9話
帰宅するためにテレポートパスを使う。
一瞬の後、セイガは自宅の自室にいることを確認した。
「これは…スゴイな……」
おそらくユメカの方も無事に自分の部屋に帰っていることだろう。
暗くなった部屋の明かりをつけると、不意に額窓が現れ点滅する。
何かメッセージが入っているようだ。
『スゴイね、一瞬で自分の部屋だなんて…でも靴履いたままだから今度から戻る場所は玄関に設定した方がイイかもだね♪』
ユメカからだ、言われてみると確かに自分も靴のままだ。
ユメカも自分も、自宅に入るときは玄関で靴を脱ぐ習慣なことを考えるとちょっと嬉しかった。
ひょいと靴を脱ぐと玄関にそれを置き直す。
そして、そこでフリーズしたように数分考える。
確かメッセージは…
ユメカはお風呂に入ろうと準備をしていた。
空は既に星の下、夕食はデズモスの地下基地で頂いた。
サラさんに、基地内での自分たちの部屋や施設、テレポートパスの説明を受けた際に食堂も案内されたのだ、ちなみにハリュウも一緒に居たがったが、却下されていた。
まあ、決闘をする者同士で楽しく夕食…というのも何か違うだろう。
そうこう考えながら支度をしていたら
「あれ?メッセージだ…なんだろ」
ユメカはマナーモードにしていたので、直接額窓は出現しなかったが、額窓からの報せは心に届いた。
「ああ、セイガにメッセしてたもんね、へへぇ…」
既に自分が先に送っていたことは気にしてなかったらしい。
額窓を開き、確認してみる。
それは結構な長文だった。
『今日はありがとうございました。
朝の件、学園での件、デズモスでの件、どれもとても驚きが多く、自分でも分からないことだらけなのだと再確認した一日でした。
そんな中、ユメカには特に助けられてばかりだと痛感しました。
いつも俺は、君を守ると言い続けているけれど
それ以上にユメカの気遣いや言葉に救われているのだと思います。
それをきちんと返したくて、意固地になることもありますが…
これからも自分に出来る限り、頑張っていく所存なので、どうかよろしくお願いします。
靴の件、確かに自室では不便ですね、設定というのは自分でも確認してみますがもし駄目そうなら聞くかもしれないです。
それでは、今日はゆっくりと休んでくださいませ
セイガより』
「うふふ♪」
セイガらしいというか、見てるとニヤニヤしてしまう。
単に通話だとまたついつい長話になるかもだったので、簡単にメッセージで思ったことだけ送ったつもりだったのだが…
「へへ…それじゃあ。私もお返事しましょうかね☆」
ユメカが誰に伝えるでもなく呟いた時、別の人物からのメッセージが届いた。
「足労だったな、お前達」
次の日、セイガとユメカはエンデルクの屋敷へ訪れていた。
エンデルクはセイガと…
「…まるであの日と同じような展開だな」
アルザスも呼んでいたのだ。
「確かに、だがあれは鬱陶しい雨の日、我の怒りを示していたようだったが今回は悪い話ではないから安心しろ」
エンデルクが窓を見る、健やかな朝の日差しが舞い降りる。
ユメカは、その場にはいなかった筈だが…この光景に何故か既視感のような…不思議な懐かしさを感じていた。
「お紅茶をよういしました♪どうぞ」
メイド服を着たルーシアが甲斐甲斐しく動く。
各自がテーブルに集まるのを確認してからエンデルクが赤いソファーに腰かけた。
ルーシアとテヌートがその両脇に揃う。
「さて、わざわざ来てもらったのは他でもない……急ではあるが、お前達にしばしの別れを伝える為だ」
「全然悪い話じゃない!」
ユメカがツッコむ。
「ユメカさま落ち着いて、はなしはさいごまで聞いてくださいませ」
ルーシアがそういうのでユメカはどうにか落ち着くことにする。
「以前から我々は元の世界に戻る為に様々な情報を集めている。そんな中…遂に有力なものが発覚したのだ」
「そうなんですか?」
「テヌート」
「はい、トレシア王家に伝わる王杓と非常に似た要素を持つ物が西方のとある遺跡から出土したというのです、今は大きなオークションに掛けられる予定でして…もしそれが本物ならそれだけでも元の枝世界を特定する材料になります」
このワールドから枝世界へは、正式な手順を踏むことにより移動が可能である。
しかし、無限にも近い数の枝世界の中から、自分たちがいた世界を特定するのはとても難しい。
何故なら、再誕したものの殆どは記憶の一部、特に元いた世界に関する知識が欠落しているからだった。
自分の名前、性格、家族構成や少し前までの記憶などはすぐに思い出せるのだが、自分のいた世界の時代や国の名前、どのタイミングでこのワールドに来たかなどは大体の人が知らない。
自分の治めていた国の名前を知っているエンデルクはかなり珍しいのだ。
それはまるで…元いた枝世界に帰らせない…そんな意図を感じるほど。
「我等の場合は、3人それぞれが持っていた朧げな記憶を擦り合わせてどうにか忘れてはいけない部分を思い出すことが出来た…つまり同じ枝世界にあったものが増えればそれだけ有利といえる」
エンデルクがそういうのなら間違いはないのだろうけれど、王杓というアイテムがそれだけ凄いものなのか、セイガには分からなかった。
「さらに見つかったという遺跡…これを調べればさらなる発見だって可能…運が良ければトレシア王国の一部が出現したのかも知れないのですよ♪」
テヌートが指を振りながら補足する。
「ほかの方も、いっしょにさいたんしたかもなんて…うれしすぎますぅ♪」
上を向き両手を組みながらルーシア、その頭には顔見知りの姿が映っているのだろう…とてもうっとりとしている。
「まあ、そういうわけで早速西方に向かう事にした、オークションに遺跡発掘と情報収集、やることは多いから恐らく1~2か月はここを留守にするだろう」
よく見ると、部屋の中も前より綺麗に掃除されている。
入口に大きな荷物が幾つか置いてあったのも、そのためだったようだ。
「そっか…それって私達も」
「助けは要らない」
ユメカの提案をエンデルクはにべもなく断る。
「お前達にも今すべき事がある筈だ」
「でも…色々助けてもらってたのに…私…」
ユメカの気持ちが揺れる。
「ありがとうございますユメカさま…でもだいじょうぶですよ?わたしたちはさんにんでもだいじょうぶだと思ったからたびに出るんです、あんまりしんぱいをかけたくなかったから前もってこうしてお話させてもらったんです♪」
「ルーシア…そっか、そうだよね」
「ああ、心配も要らない。寧ろお前達に何かあってもすぐには助けてやれんから前もって説明することにしたまでだ」
「そうでしたか、ご配慮ありがとうございます」
「ふん…」
少しだけ、恥ずかしそうにエンデルクが横を向く。
「では、何故自分も此処にいるんだ?」
アルザスだ、確かに今までの話とアルザスにはあまり関りが無い。
「ああ、お前の事だ、またすぐ何処かに消えるのだろうと思ってな、それを前もって確かめたかった」
アルザスは、殆ど学園には顔を出さない。
では何をしているのかというと、ひとり何処かの秘境に籠って修行をしているか、誰か強い者を求めて方々、はては枝世界まで旅をしているかだ。
「言われてみればそうだな…自分も近いうちに旅に出る予定だ」
「そうなのか…」
アルザスの発言に、セイガは少しだけ寂しさを覚える、出来ることならそう遠くない時期にもう一度アルザスと戦ってみたかったから…
「自分は…ひとところに留まるのは性に合わないようだ」
自嘲するようなその言葉に
「……」
セイガは何も言えなかった。
「とはいえ、これが最期の別れというつもりはない、だろう?」
エンデルクが言う。
「我等は共にヤミホムラと戦った…恐らくまた
そしてアルザスも
「自分は強い者と戦う為に生きているようなものだ。だから死ぬまでセイガ…お前から完全に離れるつもりはない」
3人だけが共有する世界が…そこにはあった。
「ああ、分かった…俺もそれまで出来るだけ…強くなってみせる」
再び、ここで3人は誓う。
お互いに生きて、必ず目的を果たす…その願いを。
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