第二話 この世界の真実

この世界の真実

 俺はエリナさんと剣技の訓練をした。エリナさんは魔法が専門なので魔法のゴーレムを創り出して、それと剣を振るうのだ。アニメで観た剣士の動きを真似る。不思議と身体もついて行くのだ。回転の力を腕に込めて目一杯ゴーレムに斬りかかる。ゴーレムはバラバラになった。しかしこれは剣士の動き。つまり刀がなくては意味がない。元来剣と刀は戦い方が違う。剣に斬れ味など求めてはいけない。剣は横に振るのだ。切るというより叩く。面で叩くのである。

 一方刀は斬るのである。首を切るのにもっとも適する武器とは刀である。だけど俺は首を切るために剣を学んだわけではない。誰かを守るために剣を学んだんだ。それにしてもこんな知識を俺はいつ手に入れたのだろうか。

「エリナさん、このゴーレムに名前はあるのですか」

「えっ」

 唐突に尋ねるものだからエリナさんはフライパンを宙に浮かせてしまった。

「どうしてそんなことを聴くの?興味なさそうなのに」

「興味が出たんだ。だってボロボロだろう。なんだか可哀想でさ」

「わからなくもないけど。うーん、名前ねえ……。モデルはあるのよ」

 ゴーレムの見た目は鎧纏った兵士のよう。重たい武器をいくつも持たされている。ただの我楽多と言うにはあまりに豪華じゃないか。

「アーカナと言うの。昔作ったゴーレムの名前よ」

「ふうん。なんで同じ名前なんだ?」

「だって意味なんてないんだもの」

「意味?」

「命ない者に魂を与えるなんて無意味なこと、私したくないのよ。でも呼び名がないと困るでしょう。だからとりあえずで付けたの」

彼女はそっぽを向いた。何かを隠していそうだ。でもそれを聴くのはまだ先なんだろう。なんとなく、そんなきがする。


「ご飯ですよ」

 イシュトリアンが声をかけた。今夜はビーフシチューだそうで。とろとろに煮込まれた分厚い牛肉と赤ワインといろんな物で混ざりあわった極上のスープと共に。

『いただきます』

 声が揃った。この“いただきます”というのは呪文だそうで。これをかけるだけでどんな酷い料理も一流の味になるのだとか。でもエリナさんは知らなかったみたいだ。しかしイシュトリアンも知らないのだそう。

「この呪文は誰に教わったのですか」

「……あなたに教わったのです」

「イシュトリアン。それは言わないお約束よ」

 エリナさんは言葉を正した。

「すみません。あなたが本当の強さを手に入れるまではお教え出来ないのです」

「本当の強さ?」

エリナさんはおかわりを足すために席を立ってお鍋から赤いスープを注いだ。

「本当の強さはたらふく美味しいものを食べたらわかるようになるわ。さ、はいどうぞ」

 彼女は注いだスープを置いた。これはエリナさんのお皿だったような気がする。

「あら食べないのかしら」

「先生、それでは遠慮がちになりますよ」

「……んー。ならこうしましょ。美味しくなあれ〜」

 彼女は杖を取り出してクルクルとした。杖の先をスープに向けた。自信満々だ。

「食べなさい。魔法はかけたのですから」

 エリナはなぜか敬語になった。俺は渋々食べた。

「あ、頂きます。……うんまいですね」

「でしょう。ほら元気になった。これが真の強さってもんよ」

 全て平らげてしまった。鍋の底まで。

「美味しかったです。イシュリアンさん」

「はい、お粗末さまです。ショータ様食後にティラミスとダージリンはいかがですか」

「ぜひ頂きたいです。エリナさんはどうですか?」

「うーん。そうね、軽く運動してからにしましょ。食後に軽い運動をするのよ」

 彼女は家の外に飛び出して、ふわりと宙を舞った。ストンと降りて右手を差し出す。

「これは?」

「エスコート。してちょうだい」

「えっ俺やったことないっすよ」

「大丈夫。リードはするから。ほら、手を腰に。そう。顔見て」

「恥ずかしいっす……」

「なんでよ。恥ずかしいなら私のツノでも見てたら良いわ」

 俺は彼女の角を見た。思いの外いかつい。鋭いしツヤツヤだ。磨いているのかな。

 そんなことを思っているとエリナは足を一歩下げた。跳ねるように回るように軽々と足を運ぶ。身体の使い方が上手で次に何の動作が来るか流れるように教えてくれる。

 ゆらりゆらり。ふわりふわり。くるくるり。最後は軽く飛び上がって。ストンと落ちる。彼女は俺の手の甲を持ちキスをした。

「親愛なるショータ。私を貴方の仲間にしてください」

 俺は驚いた。

「そんなびっくりしなくても!良いじゃないの!ほら。一世一代の大告白なんだから受け止めなさい」

「何と言えば良いのさ」

「慶んで。でしょう」

「喜んで……」

「うん。それで良いわ。さ、スイーツを食べましょ。ショータ!」

「何が何だかわからないけど。わかったよ、


 夜が更けて甘さと苦さが常闇に沈む頃。その時、魔女は本を書いていた。この世界の真実とはなんなのか。それを彼に一つずつ教えなくてはならない。

 女の子は夢を見ていました。誰かが自分を外に連れ出してくれるのを。それは王子様だと思っていました。けれど違います。いつだって自分を外へ連れ出すのは自分です。人は、孤独なのです。しかし女の子は強かったのです。独りでも。女の子は力の弱め方を習います。そうしたら仲間が出来ました。友達です。でも女の子は元気をなくしてしまいました。おともだちは心配しています。女の子は泣きじゃくりながら全てを捨てて森へ駆け込んだのです。そこで女の子は本を書きました。“世界の真実”と言う本を。本には3ページの内容ある部分と100ページの白紙があります。その1ページ目にはこう書いてありました。

 “赤は嘘、青は真実、紫は希望、白は間違い、黒は正しい”

 これは“世界の真実”でしょうか。いいえ、違います。色に意味を与えてはいけません。色に意味を与えて良いのは人間だけなのです。女の子は、魔女は、魔族なのです。由緒正しき一族の魔族なのです。誰よりも強く賢いその子は自身をエリナと名乗りました。エリナ、と。そう呼んでくれる人を探して何百年も経ちました。彼女は出会ったのです。世界の真実と。本当の、ほんとうの仲間と。


 朝になった。暖かな揺らぎの中、俺は目が覚める。隣に寝息が聞こえていたにもかかわらず。

「……すぅ」

隣にいるのはエリナだ。つまり、添い寝をされたと言うこと。彼女は穏やかな顔をしている。起こすのも忍びないと思いそっと身体を起こしたら、紫色の瞳が姿を見せた。パチパチと目を動かしゆっくりと起きる彼女はほんのわわずかに顔を赤くした。

「お、おはよう」

「おはよう……ショータ」

気まずい空気が流れた。それを切り裂いた空気。

「起きてください!もうかなり遅いです……おや、エリナ先生、共寝などしないとおっしゃっていた気がしますが」


  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Exsophiaー夢と希望の物語ー 赤月なつき(あかつきなつき) @akatsuki_4869

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ