第22話 使者は元ギルメン・シルヴィオ? 伝えられた都の急変
シルヴィオがどうして遠いプルチアまで来たんだ。
胸さわぎがどんどん大きくなっていく。
「とりあえず、これでいいか」
倒れていたシルヴィオを、テオフィロ殿の自宅にはこんだ。
ベッドにねかせたが、かなりつかれているようだ。
「シルヴィオ。しゃべれるか?」
「うう……すみません」
この精悍な声は間違いない。
シルヴィオが目を開ける。
きょろきょろと
「は! グラートさ――」
シルヴィオが声にならない悲鳴をあげる。
「大丈夫か!?」
「す、すみません……」
「アダル、回復だ!」
「うんっ」
部屋に緊迫した空気がながれる。
「都から、夜通しで走ってきたのか。むちゃをする」
「急ぎの、用でしたので」
「お前の真面目さは大いに評価するが、身体をこわしたら、なんにもならないぞ。少し自重するのだ」
「それ、あんたが言うセリフじゃねぇからっ」
後ろにいたジルダが、テオフィロ殿にたたかれた。
アダルジーザが回復魔法で、シルヴィオの傷を手当てしてくれる。
「シルヴィ、うごかないでねぇ」
「あ、ありがとう、ござ……い!? アダルさんっ?」
「よ、よぉっ!」
シルヴィオはアダルジーザのことを知らなかったのか。
「アダルさんが、どうして、ここに……」
「ちょっとぅ、じじょうがあって……」
アダルジーザがバツの悪そうな顔をする。シルヴィオの素直な反応が、少し新鮮だ。
「アダルさんがいないから、さがしてたんですよ。急に、いなくなっちゃったから……。グラートさんのとこに、いってたのかぁ」
「ごめんねぇ。だまって、いっちゃって」
「いいえ。あのときはギルド全体が混乱してました。冷静な判断なんて、だれも下せてなかった。グラートさんのとこにいた方が、安全だ」
あのときは、か。
「今はギルドは落ち着いたのか?」
「いいえ、それが……てっ、こんなゆっくりしてる場合じゃないんです! 都が、ヴァレンツァが危機なんです!」
なんだと!?
「その話、くわしくはなせ!」
「はいっ。アルビオネでくすぶってたヴァールの残党が、突然、軍をまとめて攻めてきたんです!」
「なにっ、それは本当か!?」
「本当です! 今まではヴァールの後継者が決まってなかったので、アルビオネの国内ではげしい対立がおきてたそうなんですが……。
グラートさんが、都から去ってしまったのが影響しているのではないかと、王国の方が……」
俺がプルチアで金をさがしているあいだに、都はそんな惨状にみまわれていたのか……。
「な、なぁ、グラート」
「どうした、ジルダ」
「都がさ、めっちゃやばい状況! っていうのは、なんとなくわかるんだけどさ。何がなんだか、まったくわかんね……」
ジルダやプルチアの者たちはヴァールとアルビオネのことなど知らないか。
「少しくらいなら、時間をさいても問題ないだろう。どこから説明すればいい?」
「ええと、最初から……」
テオフィロ殿やアダルジーザも、状況がわかっていないのか。
「ブラックドラゴン・ヴァールはアルビオネという国をおさめる魔王だったのだ。そしてアルビオネはヴァレダ・アレシアの北に今もある」
「ヴァールはあんたが倒したから、その国もなくなったんじゃねぇの!?」
「アルビオネはなくなっていない。今もヴァールの配下の者たちが国をおさめている」
ヴァールを倒した後で、やはり残党狩りに注力すべきだったのだ。
「ヴァールを倒したのだから、その国も王国のものになるんじゃないのか?」
テオフィロ殿はジルダよりも状況を把握していそうだ。
「普通ならそうだが、今のヴァレダ・アレシアに、アルビオネを統治する力がないらしいのだ」
「ほう。だから、その国が野ばなしになって、ヴァールの配下どもが……なるほど」
テオフィロ殿は理解したようだが、ジルダとアダルジーザはいまひとつのようだ。
「なになにっ、どういうこと!?」
「ようするにだ。ヴァールの配下どもが、王国の北にうじゃうじゃいる! ということだ」
「ほ、ほーっ、なるへそぉ」
ジルダとアダルジーザも、ついてこれたか。
「ヴァールはアルビオネで強権的な統治をおこなっていたが、俺がヴァールを倒したことで、国内のバランスがくずれてしまった。ヴァールは後継者をさだめていなかったから、彼のなき後に複数の後継者候補があらわれて、内乱になってしまったのだ」
「みんながぁ、王様になりたがってるってことぉ?」
「そうだ。権力で心がみだれるのは魔族も人間も変わらないということだ」
「だから、まものどうしで、たたかってたんだぁ」
状況の整理はこんなものか。
「ここから先は俺が話しましょう」
シルヴィオがアダルジーザにささえられながら、身体をおこした。
「グラートさんが王国の不当な判決で流罪になってからも、しばらく平和な状態が続いていました。ギルドは崩壊しましたが、アルビオネの連中は攻めてこなかったので、とくに問題はなかったんです」
「ギルドは崩壊したのか?」
「ええ……。かたちだけはとどめてますが、半分以上のギルメンはギルドを去っていきました。俺も今はソロで活動してますし、アダルさんや他の熟練者も、ほとんどあのギルドには残っていません」
ギルドは崩壊したのか……。
アダルジーザがめずらしく、力づよくうなずいている。
「グラートをだいじにしない人のギルドなんて、いやだもん! なくなって当然だよっ」
「ええ。グラートさんはあのギルドで多大な功績をのこしました。それなのに、無実の罪を着せたあげくに、即刻除名ですよ! こんな理不尽が、あってたまるかっ」
「ひでぇ……」
あの日の出来事はあまり思い出したくない。
「みんな、思うところはいっしょだな。こんな男に罪を着せるなんて、あんたらのいたギルドのマスターはどうかしてるな」
テオフィロ殿の言葉に、皆がうなずいているが……。
「俺のことはいいっ。話を続けるのだ!」
「ああっ、すみません」
「へへっ、てれてやんの」
顔が、あつくなってきたっ。
「つかのまの平和に、俺たちが油断してたのは事実です。やつらはその隙をついてきたんです! アルビオネの連中は突如として王国領に侵入して、怒涛の勢いで王国の関所や砦を破壊していったそうです。ヴァールに破壊された関所が、やっと復旧してきたのに……」
「関所や要塞というのは外敵に攻撃されるためにあるのだ。こわされてしまったものは、またなおすしかない。それよりも、陛下の身は無事なのか!?」
「はい! 都を騎士団が堅守してますから。ですが……魔物たちに突破されるのは時間の問題かと……」
陛下の身があやういのではないか!
「俺はかつてのギルドの部下としてではなく、王宮の使いとして、プルチアにきました。
グラートさん、ただちに都へ帰還してくださいっ。陛下がグラートさんをまってるんです!」
王宮から……か。
「王宮からって、陛下がじきじきに命令したのか?」
「さあな」
陛下じきじきのご命令であっても、罪人が勝手に流刑地をはなれていいのか。
「それにしても、グラートをまってるって、ずいぶん勝手だな。グラートは陛下に断罪されて、ここにいるんだぜ。それなのに、自分の身があぶなくなったら、自分をまもるために帰ってこいってかっ」
「はっ、そうだぜ! こいつはプルチアでもあぶない目にばっか遭ってるんだぜ。それなのによ……」
テオフィロ殿や皆が不満を感じるのはむりもないが……。
「ヴァレダ・アレシアの民として、俺は陛下と民をまもる義務がある。皆になんと言われようと、俺はたたかうぞ!」
「まったく、お前というやつは……」
「だから利用されるんだよ」
権力者に利用されても、かまわない。
多くの者をまもるために、俺はたたかうぞ!
「陛下が、俺に恩赦を下されたと考えてよいのだな?」
「はい! グラートさんが犯した罪は……本当は罪なんて犯してませんが、陛下はすべてお赦しになられました。書状も、こちらにっ」
それなら、後顧の憂いはないな!
アダルジーザに目をむけると、彼女がしずかにうなずいた。
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