第19話 岩の巨人が復活、敵の核を破壊して今度こそ決着

 巨大な岩が残骸となって地面に落ちる。


「やった!」


 岩の巨人の頭を、こなごなに粉砕した。首のつけ根から、きれいさっぱりと。


「これで、ミッションコンプリートだな!」

「あいかわらず、つえぇなぁ!」


 駆けよってきたジルダと、またハイタッチをかわす。


 アダルジーザには親指を立てて勝利を宣言した。


「にしても、とんでもねぇ敵だったなぁ」


 岩の巨人は物言わぬ屍となって、その場に立ちつくしている。


 倒れないのが、ふしぎだが……。


「この人、しんじゃったのぉ?」


 アダルジーザも駆けよって、俺の背中にはりついた。


「おそらくな。だが、倒れないのが不自然だ」

「まだ、生きてるのかなぁ」

「まさかっ。グラートが頭ごと破壊したんだぜ。これで生きてたら、バケモンだっ」


 頭を切りとっても死ななかった魔物はいた。巨大ガメのガレオスだ。


 ガレオスも、このように倒れなか……岩の巨人の腕が、動いている!?


「あれ。さっき、動いたような、気が……」

「逃げろ!」


 岩の巨人の両腕が、ふりあげられた!


「きゃあ!」


 岩の巨人の反撃で、場がいっきに騒然となる!


「うそだろ! なんで動けんのっ?」

「おそらく核が体内にあるのだ!」


 プルチアの魔物はなぜこんなに生命力が高いのだ!


 岩の巨人のなぎ払いが、アダルジーザや兵たちに――。


「グラートぉ!」


 岩の巨人の攻撃においついた。


 アダルジーザたちをかばえたが、防御体制が、とれな――。


「ああっ!」


 強烈な一撃を、左の脇腹に受けてしまった……。


 はじきとばされて、右の岩壁に右肩を強打する。


 頭への強打は避けたが――。


「グラ――」

「来るな! にげろ……」


 左の脇腹と右肩にはげしい痛みが……!


 まずいな。骨が折れたかもしれない。


 アダルジーザやジルダは通路に逃れたな。けがはなさそうだ――。


「グラート! グラートが――」

「ダメだアダル! いったらまずい!」


 とびだそうとするアダルジーザを、ジルダが懸命にだき止める。


「はなして!」

「だめだっ。あんな攻撃、ぼくらじゃ受け止められない!」

「だけど、だけど……グラートがっ!」


 岩の巨人の追撃がはじまる。


「くぅっ」


 重たい岩の腕をふりおろし、地面に大きな穴があく。


 金色の破片がとびちるのは……あれは金鉱石か。


「お前がひとりじめする金を、もって帰らねばいかんのだっ」


 テオフィロ殿や、エルコの皆が待っている。


 ネグリ殿の強行を、止めなければいけないのだ!


「とべっ!」


 岩の巨人の右手を、ヴァールアクスで吹き飛ばす。


 斧をふるうたび、脇腹と肩に激痛が走る。


「グラートっ、もうやめて!」

「そうだっ。逃げろ!」


 まだだっ。まだ、たたかえる!


 岩の巨人が……いや、岩の巨人の身体が、なぜかバラバラになって、宙に浮いた。


「なん、だ……?」


 岩の巨人の破片たちが、高い上空に舞い上が――地面に急降下をはじめた!


「ぐっ」


 こんな奥の手まであるのか!


 岩の重たい破片が、俺の頭と背中に落下する。


 動かなければ、はげしい打撲のはてに生きうめにされる。


 激痛をこらえて、戦場の暗闇を走りまわるしかない。


 暗闇に、紫色のひかりが見えた。一瞬だけ……。


 なんだ、あれは。気のせいか?


 岩の破片を受けすぎて、意識が遠くなっているのか……。


 いや! 紫色のひかりが、たしかに見えるっ。


 金の破片のような、かがやかしい色だ。だが、禍々しくもある。


 岩の破片の攻撃が、俺以外のところへむかう。


 まずい、アダルジーザがとび出したか!?


 ちがう。飛び出したのはアダルジーザじゃない。


 緑色の、メロンのような、物体……。


「マジックベイトをかけたわ! 岩の攻撃はグラートから離れるっ」


 ありがたい!


 紫色にかがやくものが、核だっ。


 マジックベイトがきいているうちに、岩の破片たちの背後にまわり込む。


 紫色にかがやく物体だけ、暗闇のまんなかでじっとしている。


 宝石のような物体だ。宝石が魔物になったのか?


「はっ!」


 岩壁をけって、暗闇を跳躍する。


 紫色の宝石をぶんどると、岩の破片たちが急停止した。


「な、なんだ……?」


 やはり、この宝石が核だ。


 岩の破片はパラパラと地面に落下した。


「何が、おきてるの?」

「やつの核を、しとめたんだ」


 洞窟の通路でじっとしているアダルジーザやジルダに、紫色の宝せ――。


「ぐうっ」

「グラート!」


 アダルジーザやジルダが駆けつけてくれる。


「大丈夫!?」

「脇腹と、肩をやられた。動くのはきつい……」


 声を発するだけで、脇腹から痛みが走る。


 アダルジーザが回復魔法をかけてくれる。


「ありが、たい」

「しゃべっちゃダメ!」


 アダルジーザがいてくれて、よかった。


「よくわかんねぇけど、あいつは倒したのか?」

「おそらくな」


 岩の破片は動かない。


 もし、また動きだしたら、今度こそ撤退を考えるしかない。


「とんでもねぇ魔物だったな。グラートがいなけりゃ、ぼくたちは全滅だったぜ……」

「そうだよねぇ。グラートは無茶しすぎ!」

「はは。すまない」


 強敵を前にすると、頭の抑制がきかなくなってしまう。戦士タイプの冒険者ゆえか。


 回復魔法のおかげで、脇腹と肩の痛みが引いた。


「ありがとう。もう大丈夫だ」

「グラートの受けた傷はまだ完治してないから。しばらく、たたかっちゃダメだよ」

「わかった」

「はは。そいつはむりなんじゃねぇかなぁ」


 あきれるように言うジルダに、アダルジーザのカミナリが、落ちた……。


 この洞窟でのたたかいは終わったが、のんびりしている場合ではない。


「そういえば、ぼくたちは何しに来たんだっけ?」

「金鉱石をとりにきたんだろ?」

「そうだっ。金塊だ!」

「金塊ではない。金鉱石だっ」


 金鉱石はすぐ近くにうまっているはずだが……。


「っていうか、このまわり金塊だらけじゃん! すっげ」

「そうなのぉ……わ、ほんとだ!」


 洞窟の地面や壁が、金色にかがやいている。


 黒い天井からも、キラキラと星のようなかがやきが発せられていた。


「こんなに金だらけなのに、なんで今まで気がつかなかったのかねぇ」

「それだけ、あの魔物が強敵だったんだろう」

「そうだなぁ。あいつ、めっちゃ強かったもんなぁ」


 あれだけの強敵だったが、結果的にひとりもうしなっていないのだから、完勝だろう。


「まぁ、そういった話はこっちの方に置いておいてっと」


 ジルダ……これから金を採掘するつもりか。


「これから、掘るのぉ?」

「あったりまえだろ! 何しにきたんだよ、ぼくたちはぁっ」

「グラートがけがしてるから、帰ろうよぅ」


 アダルジーザの意見に賛成だ。身体の疲労が、ひどい。


 ジルダも俺とアダルジーザの視線が気になったのか、


「そ、そうだな。金とりたいけど、明日にすっか」

「すまないな」


 村への帰還に賛同してくれた。


「でもまぁ、金を発見したって言ったら、みんなおどろくぞぉ」

「ふふ、そうだねぇ」

「は! みんなに言わねぇ方がいんじゃね? そうすりゃ、ぼくたちだけ、大も――」

「ジルちゃん!」


 アダルジーザのカミナリがまた落ちそうだ。さっさと村に帰ろう。


 右手でひかっている、紫色の石に目が止まった。


「グラート?」


 紫水晶アメシストのような、妖艶なかがやきだ。


「それ……」

「さっきの魔物の核だったものだ」


 硬貨くらいの大きさしかない、装飾品にしかならなそうな石だ。


 だが、この石――いや魔石から、力があふれ出ているような気がする。


「どうするの? それ」

「破壊してしまおう。価値があるものなのかもしれないが、危険な魔物を生んでいた元凶だ。村にもってかえったら、いらない災いを生むかもしれない」

「うん。そうだね」


 紫色の魔石を地面にほうりなげる。


 ヴァールアクスでたたきつけると、魔石はガラスのようにくだけちった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る