第18話 ドラゴンスレイヤーと岩の巨人の死闘

 洞窟に巣食う岩の魔物たちはすべてかたづけたか。


「今さら言うことじゃねえけど、とんでもねぇバカ力だな!」


 ジルダの勝気な声が暗闇にひびく。


「グラートはぁ、ドラゴンスレイヤーだもん。このくらいできて、とうぜんっ」


 アダルジーザはガッツポーズをしているのだろうか。暗くてよく見えない。


「ここで有益となる鉱石がとれるか、ためしてみよう」


 バッグから携帯用の小さなツルハシをとりだす。


 近くの岩をツルハシでけずりとってみる。


「どぅ?」

「ぱっと見た感じでは、有益な石なのかどうか、わからないな」


 左手にすっぽりとおさまっている石からは、ごつごつとかたい感触しか伝わってこない。


「そりゃそうだ。とった石を即座に鑑定できるのなんざ、専門家しかいねぇよ」


 ジルダもそばでしゃがみ込んで採掘をはじめる。作業はとても手なれている。


「金、金、きん~」

「いっぱい、みつかるかなぁ」


 アダルジーザもツルハシをにぎるが、使い方がわからないのか。


「ジルダ、アダルに採掘を教えてやってくれ」

「おっけー!」

「おっ、おねがいします!」


 静かになった暗闇に、かんかんとツルハシのけずる音がひびく。


 金はおそらく、金鉱石から採取される。


 金鉱石をじかに見たことはないが、金色にひかっている石なのだろうか?


「ジルダ、金鉱石というのは見ればすぐにわかるのか?」

「さぁ、そうなんじゃね?」


 ジルダも知らないか。テオフィロ殿も鉱石の知識はないだろうな。


「なぁ、グラート。この石って、金鉱石なんかな?」

「さあな」

「こいつらをとりあえずもって帰るにしてもよ、ぜんぶちがったら、完全に骨折り損じゃん!」

「そんなことはない。鉄鉱石さえとれれば充分なんだ」


 当初の目的は新しい採石場の開拓だ。


「そうだけどさぁ。金が見つかるかもっていう状況で、鉄なんか掘ったって、まったくロマンがないじゃん」

「そうか? ネグリ殿と陛下は満足してくれると思うぞ」

「グラートって、つまんない男だなぁ」

「そこが、グラートのいいところっ」


 だめだ。いくら掘っても、金らしきものは見つからない。


 皆で協力して、普通の石ならばいくつか掘った。


 だが、これらの石にも、鉄やすずなどの有効な成分がふくまれている保障はない。


「もう少し、さがしてく?」

「そうだな……」


 アダルジーザの頬も、砂でよごれてしまった。


 この洞窟は奥に続いている。ねんのため、確認しておくか。


「あの奥も、ねんのために見ておこう。そうしたら、引き上げだ」

「うんっ」

「金もひろわずに帰ったら冒険者じゃねえぜ!」


 アダルジーザが出してくれる魔法の明かりをたよりに、洞窟を進む。


 岩の魔物はあちこちに出現する。


 洞窟は広いが、狭い回廊で遭遇すると、ジルダの魔法にたよるしかなかった。


「この魔物、おおくねえか? どうなってんだ!」

「たしかにおおいな。それに異質だ」

「他の洞窟でもぅ、岩が動くところは見たことないよねぇ」


 岩の魔物に、生命力は感じない。


 生きているようには見えないが、俺たちを視認し、外敵と見なして攻撃してくる。


 並みの獣より知能が高い。これも、プルチアという土地の特色なのか……。


「グラート、あれっ」


 アダルジーザが暗闇をさす。


「アダル、どうした」

「あそこ、ひかってない?」


 なにっ。


「おおっ! 金はっけん!?」

「おちつけ、ジルダっ」


 アダルジーザがさした場所に、黄金にかがやく石がある!


 ジルダがツルハシで、金鉱石らしき石を慎重にけずりとる。


 その鉱石はジルダの左手と同じくらいの大きさだ。


「すげぇ……これ、ぜったい金鉱石だよ!」

「きれいだねぇ」


 だが、にごった金色は純金にはほど遠い。不純物がふくまれているせいか。


「この金鉱石から、金をけずりとればいいのか?」

「そうじゃね? うわぁ、これで今度こそ本当に貴ぞ――」


 岩が地面に落ちる音!


「なんだ!?」

「こっちにも、魔物がいる……っ」


 狭い通路を抜けると、天井の広い場所に出た。


 壁や地面が、金色にかがやいている! いや、広い空間のまんなかに、ガレオスのような魔物が鎮座しているっ。


「グ、グラートっ」

「こいつが、魔物の親玉のようだな!」


 プルチアの魔物はなぜこんなに巨大なんだ!


 岩の巨人が剛腕をふりおろす。地面がくずれるような轟音がひびいた。


「わわっ!」

「あの腕に押しつぶされたら即死だっ。みな、気をつけろ!」


 岩の巨人はその場からはなれない。だが、身体をぐるぐるとまわして、強烈ななぎ払いをくり出してくる。


 俺の家くらいはあるあの岩はヴァールアクスでも受け止められないっ。


「どど、どうしよ!」

「ちきしょー、金を前にして引き下がれねぇだろうが!」

「ジルダ!」


 ジルダが魔法をとなえながら突撃する。


「ファイアボール!」


 ジルダの右手から炎の玉が出現し、岩の巨人にはなたれる。


「やったか!?」


 不動の岩の巨人はファイアボールを直撃した。が……。


「うわっ!」

「さがれ!」


 岩の巨人は火傷すら負っていない。


「ジルちゃん!」

「てて……足、すりむいたかも……」


 アダルジーザが駆けよって、ジルダに回復魔法をかける。


 岩の巨人の身体がふたりに向いた!


「させるか!」


 岩の巨人に跳躍し、ヴァールアクスをふりおろ――かたいっ。まるで鋼鉄のかたまりだ。


「グラート!」


 岩の巨人が身体を旋回させる。


 あの剛腕が、俺の左から――ダメだ、よけられない。


「グラ――」


 牛の突撃のような勢いで、吹き飛ばされる。


 右肩と背中を石壁に強打した。


「平気か!?」

「なんの、これしき」


 強い……! 他の魔物とはくらべものにならない。


 俺をかるがると吹き飛ばす一撃に、鉄壁の身体。


 剛腕を低い位置でふりまわされたら、近づくことすらできない。


「くっ。これでもくらえ!」


 ジルダが風の魔法をとなえる。


 毒蛇ニョルンやホーンベアを八つざきにした魔法だが、岩の巨人の身体は切りさけないか。


「かてぇ! なんなんだよ、こいつ」

「お岩さんだもんね。すっごく頑丈なのかも……」


 やつの重たい岩をつかえば、屈強な要塞が建てられそうだな……。


「みんな、もどれっ。作戦会議だ!」


 金鉱石を見つけた通路へもどる。岩の巨人は己のいる空間に入らなければ、攻撃してこないようだ。


「ううっ。やべぇよ、あいつ。攻撃が、ぜんぜん通らねえ!」

「炎でも風でもぅ、だめだったもんねぇ」


 アダルジーザが、俺の背中を治療してくれる。


「グラートの斧でも、あいつの身体がくだけなかった……。どうすんだよ!?」


 どうする……っ。


 防御力だけであれば、ブラックドラゴン・ヴァールすら凌駕するぞ。


「グラートは前に、かったいカメさんを倒したんだよねぇ」

「ああ、そうだよ! そのときはどうやって倒したんだよ」

「ガレオスの場合、かたいのは甲羅だけだったんだ。やつの首や腹甲はやわらかかったから、俺の攻撃は通用していたんだ」


 岩の巨人は全身が岩だ。ガレオスを倒したときの戦術はつかえない。


「そっかぁ……」

「ううっ。いよいよもって、やばいな……」


 俺の攻撃にバフをかけてみたら、どうか。


「アダル、アンプリファイの魔法はつかえるか?」

「アンプリファイ? つかえるけど」

「アンプリファイって、なんだ?」


 ジルダはこの魔法を知らないか。


「アンプリファイは筋力を爆発的に高める魔法だ」

「なるほど。バカ力をさらに高めて、あいつを倒そうってわけか!」


 やつの硬度をこえる力があれば、やつを倒せるっ。


 しかし、アダルジーザはこの魔法があまり好きではないか。


「いいけど……アンプリファイをあんまり使っちゃうと、また身体を痛めちゃうよ?」

「へっ、そうなのか!?」

「うん。アンプリファイはぁ、筋肉の限界をこえる力を出しちゃう魔法だから……」


 アンプリファイを使いすぎて、前に倒れたことがあったな。


「なんだよそれ、やべぇじゃん!」

「平気だ。俺の身体なら、たえられる。力もセーブする」

「ほんとぉ?」


 アダルジーザはいやそうにしながら、俺に魔法をかけてくれる。


「ジルダ。すまないが、先に突撃して、やつを撹乱してくれ」

「お、おう」

「やつの直撃を受けてはならない。だから接近したらダメだ。やつのまわりを動きながら、遠くから魔法をはなつだけでいい」

「あいつの注意をぼくが引きつけて、グラートが一撃必殺でしとめるっつうわけだな。まかせとけ!」


 ジルダとハイタッチして、作戦実行だ!


「ファイアボール!」


 ジルダが両手から炎の玉を発生させ、岩の巨人にぶつける。


 岩の巨人は二本の剛腕をかかげ、ジルダを押しつぶそうとするが、


「ジルちゃん!」

「おっと」


 ジルダは蝶のようにひらひらと舞う。いいぞ!


 岩の巨人の背中にまわり込み、ヴァールアクスをかまえる。


 お前がどのようにして生まれた存在なのか、それは知らんが……倒させてもらう!


 岩の巨人の背中をけって、やつの頭とおなじ高さまで飛び上がった。


「さらばっ!」


 重たいヴァールアクスをふりおろす。


「グラート!」

「やった!」


 岩の巨人の頭が、ヴァールアクスによってくだかれた。

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