第17話 金脈発見!? 岩の魔物との戦い

 アダルジーザは小川の前で、ふたつの水筒をかかえていた。


「アダル、平気か!?」

「う、うん」


 アダルジーザは無事のようだ。魔物の姿はどこにも見られないが……。


「アダル、何かあったのか?」

「うん。川が、ひかってるなあって」


 川が、ひかっている?


 アダルジーザの指す方向を見やる。


 透明な水が音も立てずにながれる、おだやかな光景。川の底を注意深く見やると、ちらちらと輝くものが確認できる。


「気のせいじゃね?」

「いや。たしかに川の底がひかっている」


 川の底でひかっているものはなんだ?


 川に手を入れて、底をすくってみる。小石をつかむ感触しかなさそうだが……。


 手のひらにあつめた小石も、とくに変わったものは……このひかる石はなんだ?


「アダルが見つけたのは、このひかる小石だな」

「ん、そうかなぁ」


 アダルジーザがひかる小石をのぞき込む。


「これってぇ、金じゃない?」


 金……だと?


 小石はたしかに金色のひかりをはなっている。


 金……か? 言われてみれば――。


「金だって!?」


 ジルダが俺の後ろから身を乗り出す。


 ひかる小石をぶんどって、目に入れそうなほど食い入るように見だした。


「すげぇ! これ、本物じゃん」

「金が、川の底で見つかるのか?」

「おいおい、あんたら知らねえのかぁ? これは砂金だぜ。砂金は川からとれるんだぜ」


 砂金、か。じかに見たのははじめてだ。


「そうなんだぁ」

「冒険者なのに砂金を知らねえとか、冒険者失格だぜ」

「俺たちは戦闘タイプの冒険者だ。トレジャーハントは専門外だ」


 冒険者はおもに探索タイプと戦闘タイプにわけられる。


 探索タイプは遺跡や宝さがしをなりわいとする。戦闘タイプは魔物退治や傭兵稼業をなりわいとする。


「ちっちっち。戦闘タイプの冒険者だろうが、砂金くらい知らねえとダメだぜ」

「ジルちゃんは探索タイプだったのぉ?」

「いんや。戦闘と探索の兼用だな! ハイブリッドってやつ?」

「そんなタイプ、知らない……」


 話をもどそう。


「ジルダ。砂金は川からとれると言ったな。この近くに金の鉱脈があるのか?」

「金の鉱脈……ようするに金脈だな。ぼくもそこまでは知らねえな」


 金脈が見つかれば、陛下にも満足していただけると思うのだが――。


「とりあえずさ、そこの砂金、とってみようぜ!」


 ジルダが川辺にしゃがんで、小石をあつめはじめる。採石場の探索は中断だ。


 川の底はあさい。毒をまくような魔物もいない。


 砂金は簡単にとれる。だが、三粒くらいしかとれない。


「金がいっぱいとれりゃ、ぼくたちは貴族の仲間入りだぜ!」

「ジルちゃんってばぁ」


 これだけの金で、貴族になれるとは思えないが……。


 兵たちもふくめた全員で、しばらく砂金をあつめてみる。


 陽がのぼりきるまで続けてみたが、あつまった砂金は俺の手のひらにおさまってしまう程度でしかなかった。


「あんだけさがして、これだけかぁ」

「これだけの金で、ネグリ殿と陛下を満足させられるだろうか」

「これだけだとぅ、陛下は満足してくれないんじゃないかなぁ」


 あらたな可能性になるものを見つけたと思ったのだが……。


「もうちょっと、さがしてみようぜ! ぜったい金あるって」

「目的が、変わってる気がするけど……」


 砂金がとれるのだから、金脈が近くにあるのではないか。


「グラート、どうしたのぉ?」

「すくない量でも金が見つかったのだ。金脈が近くにあるのではないか?」

「金脈、かぁ。どうなんだろうねぇ」

「金脈、ぜったいあるって。みんなでさがそうぜ!」


 ジルダ、元気になったな……。


 砂金をさがしながら、川にそって山をのぼっていく。


 岩はだのとがった、切り立った崖が姿をあらわした。


「ずいぶん高い山だな」

「この崖はグラートでも登れそうにないねぇ」

「ここを掘れば、金が見つかるんじゃね!?」


 崖のまわりをくまなくさがす。


 既知の採石場は天然の洞窟を掘りすすめた場所だ。


 この崖にも、天然の洞窟ができていそうだが……。


「グラート、こっちに洞窟っぽいのがあるぞぉ!」


 なんと!


 ジルダは崖を左に迂回した先にいた。ジルダの前に、ぽっかりとあいた口があった。


「ジルちゃん、すごぉい!」

「ぐっへっへっへ。ぼくが金を掘りつくしてやるぜ!」

「ジルちゃん、待って!」


 ジルダとアダルジーザが洞窟に入って――。


「ふたりとも待て!」

「きゃぁ!」


 ふたりの悲鳴!?


 兵をつれて洞窟に飛び込む。


 細い通路の先の空間。松明のような光がともされている。


 ここでくらしている者か!? いや、アダルジーザが発生させた光の魔法か。


「ふたりとも大丈夫か!?」

「お、おぅ」


 ふたりに別状はなさそうだ。


 洞窟の奥は意外とひろい。俺の家がすっぽりと入ってしまいそうだ。


「見たところ、何もなさそうだが、何かいたのか?」

「うん。岩が、襲ってきて……」


 岩が襲ってきた?


 ヴァールアクスをとって、洞窟の奥へと歩をすす――俺を射殺すような気配!?


「なんだ!?」

「グラート!」


 岩が襲ってきたのか?


 洞窟に大きな岩が落下したような音がひびく。


 いや、俺の目の前に岩が落下したのだ。


 天井の岩が――第二波がくる!


「みんな下がれ!」


 天井の岩が落下したんじゃない。岩が明確な意志をもって、俺たちに襲いかかってきたのだ!


 巨大な岩が地面に水平にとんでくる。


「こんなものっ!」


 ヴァールアクスをふりかぶり、岩を力まかせにたたき落とした。


「マジックバリア!」


 アダルジーザがバフをかけてくれる。


「アダル、ありがた――」


 礼を言う時間すらあたえてくれないかっ。


 飛んできた岩が早すぎて、斧で打ち落とせない。


「くっ」


 左腕を盾にして岩を受け止める。バフのおかげで痛みはさほど感じないが、勢いまでは相殺できない。


 ひろい空間の出口まで押し返されてしまった。


「ふざけやがって!」


 ジルダが後ろで魔法をとなえる。


 俺の前の地面が隆起する。ぶあつい土塁が飛来する岩を受けとめてくれた。


「なんなんだ、この攻撃は」

「わかんない。だれかがむこうで、岩を投げてるの?」

「グラートじゃあるまいし、そんなバカ力の野郎がこんなとこにいるかよっ」


 人の気配はないが、何かがうごめいているのは確実だ。


 攻撃の手は止まった。洞窟に侵入しなければ、攻撃してこないということか。


「アダル、洞窟の奥を照らせるか?」

「うん。光を飛ばせばいいんだよね」

「たのむ。やってくれ」


 アダルジーザが光の魔法をとなえる。


 アダルジーザの両手から光のたまが生まれる。まばゆい光をはなつエレメントが、彼女の指示で洞窟の奥にすすんでいく。


 だだっぴろい暗闇に、岩がうかんでいた。


 複数の岩がつみかさなって、人のようなかたちになっている。


 岩の兵が、あちこちにいる。ざっとかぞえただけで、五体もいる。


「なんだありゃ!?」

「岩の、魔物っ?」

「そのようだな!」


 ヴァールアクスを引っさげて、突撃だ!


「グラート!」


 敵の正体がわかれば、こわいものはない!


 飛来してくる岩を、ヴァールアクスで打ち落とす。


 岩の重量はかなりのものだが、ヴァールアクスの強度がまさっている!


「くたばれっ!」


 近くの岩の魔物にヴァールアクスをふりおろす。


 岩がこなごなになり、魔物の残骸がパラパラと落ちた。


「ぐっ」


 岩の弾丸は止まらない。やつらの体力は底なしか!?


 生命体ではないから、体力なんて存在しないのか。持久戦にもち込まれたら、劣勢になる。


「ならば、速攻でカタをつける!」


 近くの魔物にねらいをさだめて、破壊する。


 岩の魔物はまんなかの核となる部分を破壊すれば、動かなくなるようだ。


「わたしたちも、援護するよ!」


 アダルジーザとジルダが土塁から出て、魔法をとなえる。


「ちっ!」


 ジルダは地面に落ちた岩の破片を一箇所にあつめて、巨大な岩の弾丸で反撃しているのか。


 目には目を。歯には歯をか! 強烈な反撃は岩の魔物を確実にしとめている。


 岩の魔物から受けた打撲は、アダルジーザがかけてくれる回復魔法でたちまち回復する。


 奴らの攻撃など、よけるまでもない。圧倒的なパワーでねじふせるのみ!


「グラート!」

「やばっ!」


 三体の岩の魔物が一箇所にあつまって、巨大なつちが形成された。


 巨人がもつ武器のようなそれが、俺の脳天をかち割ろうと攻撃してきたっ。


「こんなものっ!」


 ヴァールアクスを捨て、巨大な槌を全身で受け止める。


 グランドホーンにまさる重量が、肩、背中、腰を圧迫する――。


「おしつぶされて……たまるかっ!」


 ありあまる力を両肩に集約する。


「どけぇ!」


 巨大な槌を洞窟のむこうへ投げとばした。

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