第15話 あらたな採石場をさがせ、プルチア捜索隊結成

 次の日。アダルジーザとジルダを呼んで、状況を整理することにした。


「ほい、グラート。プルチアの地図だぜ」

「ありがとう。たすかる」


 足がぐらついているテーブルに地図をひろげて、アダルジーザやジルダとかこむ。


 エルコはプルチアの東端に位置しているのか。


 流人が作業する採石場はエルコのすぐ近くにある。


「プルチアって、こんなにひろいのぅ?」

「そうらしいぜ。ぼくもよく知らねぇけど」


 エルコの十倍以上のひろさがあるのだろうか。プルチアの土地が西に向かってひろがっている。


「わたしたちは、こんなすみっこで暮らしてたんだねぇ」

「そうだぜ。だから、西の方に行けば、グラートが言う通りに採石場が見つかるかもしれねぇぜ」


 プルチアのほとんどの土地は未開の地だ。新しい資源が見つかる可能性は大いにある。


「さがすのは採石場じゃなくてもかまわない」

「えっ、そうなのぉ?」

「そうだ。ネグリ殿が気にしているのはプルチアの生産力の向上だ。ここでは基本的には鉱石の生産量をさすが、王国に有益となる資源が他にとれれば、それを都におくればよいのだ」

「なんだか、むずかしいねぇ」


 アダルジーザが眉をひそめる。


「そんなこと言ったってよ、結局は採石場をさがすことになるんだろ?」

「そうだな。木材をはこんだりしてもいいが、流人に新しい技術をまなばせたりと、手間がふえるからな」


 ジルダも「めんどくせぇなぁ」とうなった。


「この広い土地をひとつの部隊でさがすのは大変だろう。よって、部隊をふたつにわけるのが上策だと考える」

「ほえぇ。上策とか、なんだか作戦参謀みてぇ!」

「ひとつの部隊はぁ、グラートが指揮するんでしょ? もうひとりは誰にするのぉ?」

「もうひとつの部隊はテオフィロ殿に指揮してもらうしかないだろうな」


 人員を率いられる者は他にはいない。


「テオフィロかぁ。あいつ、よえぇからなぁ」

「ジルちゃん……」

「魔物が出てきたら、あいつじゃ対処できないぜ?」


 手きびしいが、ジルダの言う通りだ。


「それなら、ジルダがテオフィロ殿に随行してくれ」

「ええっ、ぼくかよぉ」

「そうだ。アダルひとりでは魔物を倒せない。俺もテオフィロ殿に随行できないから、適任なのはジルダしかいない」


 ジルダなら、強力な攻撃魔法で魔物を倒してくれるはずだ。


「うう……。めっちゃことわりにくい状況になってるけど、いやだなぁ」

「ジルちゃん、ごめんねぇ」


 アダルジーザが両手を合わせて謝罪した。



  * * *



「すまないんだが、俺は兵を指揮できない」


 村の中央広場にいたテオフィロ殿に仔細を話したが、言下に部隊の指揮をことわられてしまった。


「俺は指揮できないってなんだよ! お前はここの管理者だろうがっ」

「ジ、ジルちゃん!」


 ジルダがテオフィロ殿の胸倉をつかんで、力まかせにふりまわす。


 今日のテオフィロ殿はいつにもまして覇気がない。


「ドラ……グラート、俺のかわりに作戦まで立ててくれて、ありがとう。お前の立てた作戦には全面的に賛成なのだが、俺はあいつの世話をしなくちゃいけないんだ」


 テオフィロ殿が親指でさした後ろから、ネグリ殿の奇声が聞こえてくる。住居に不満があるようだが……。


「げ。そういうことぉ……」

「そういうことだっ。俺だって、お前らといっしょに行動したいよぅ……」


 ネグリ殿は今日も朝から厄介だ……。


「ということで、すまない、グラート。なんとしても採石場をさがしだしてくれ!」

「承知した。あなたの期待にかならずこたえよう!」

「無理難題だが、期限はあいつが帰る十日ぐらいしかない。じゃなければ、俺たち全員の首が飛ぶ」


 この作戦に期限があるのを失念していた……。


「と、とおか……」

「マジかよぅ」


 アダルジーザとジルダも言葉をうしなった。


「だいぶきびしい戦いになりそうだな……」

「インプがいなくなったから、兵はたくさん動員してもかまわない。採石場をさがす期間はノルマを軽くするようにネグリに頼み込むから、使えそうな流人も使ってくれ!」

「いや、ノルマを軽くするのはむずかしいだろう。採石場の復旧も止められない。必要最低限の人員でさがすしかないだろう」

「そ、そうだな……」


 兵のひとりが駆けよってきた。テオフィロ殿をつれもどしたいようだ。


「とにかく、お前の好きなように人を動かしていい。たのんだぞ!」

「わかった!」


 結局、五人くらいの兵しか動員できず、道案内もジルダにたのむしかなかった。


「道案内って言ったって、ぼくだってエルコのまわりしかわかんないぜ」

「そうだな。森の奥で遭難したら、一巻の終わりだ」


 前にインプたちの拠点をさがすとき、アダルジーザの魔法にたすけられた。


「アダル、見えない印をつける魔法を使いながら歩いてくれ」

「マジックシールだよねぇ。まかせといて!」


 遭難する危険性はこれでかなり減った。


 既知の採石場は村の北西にある。西と南西部がよいか。


 しかし、何を手がかりにして採石場をさがしだせばよいのか。


「あらためて考えてみるが、どうやって採石場をさがしだせばいい?」

「ううっ……。どうすりゃいいんだ?」


 兵たちも顔をしかめるばかりだ。


「採石場って、鉱石を掘る場所だよねぇ。それならぁ、鉱山をさがすのかなぁ」

「鉱山かぁ」


 鉱山……ということは山か。


「標高の低い土地よりも、高い場所をさがすべきか」

「げ。山歩きするのかよぉ」

「ハイキングっ、ハイキングぅ!」


 立ち入りやすい西部から侵入してみる。


 背の高い木がしげる原生林は地面がでこぼこしている。


 陽がとどかない地面は大量の水分をふくんでいるため、かなりぬかるんでいる。


「インプさんのおうちをさがすときもぅ、こんな場所を歩いたよねぇ」

「そうだな」


 アダルジーザは俺のとなりで、にこにこしている。


「けっ。いい気なもんだぜ」


 ジルダはかったるそうだな。部隊の後ろで、のろのろと歩いているが――。


「うわぁ!」

「ジルダ!」


 草木のしげみから突然あらわれた黒い物体に、ジルダがのみ込まれ……てはいないか。間一髪でかわしたのか。


 クマのような魔物か!


「この角が生えた子、みたことある!」

「こいつはホーンベアだぜ。あちこちにいるよなぁ!」


 ジルダが魔法をとなえて、両手を地面におしつけた。


 地中の水分が一瞬でこおりつき、巨大な逆氷柱さかさつららを発生させる。


「すごっ」

「くたばれ!」


 逆氷柱が津波のように襲いかかり、ホーンベアの身体を傷つけた。


 ホーンベアはおどろき、すぐに逃げていった。


「ジルちゃん、つよぉい!」

「へへん、グラートにばっか活躍させないぜ」


 ジルダは優秀な魔道師だな。たよりになる!


「俺は部隊を率いなければならない。魔物の相手はジルダにまかせる」

「おう! まかせときなっ」


 道中の魔物をしりぞけながら、採石場を捜索する。


 短い間隔で魔物と遭遇するから、捜索は思った以上に進まない。


「なかなか、すすめないね……」

「そうだな……」


 うすぐらい、道なき道を黙々とつき進む。


 お昼を過ぎ、持参した干し肉で腹を満たす。


 おおざっぱな地図をたよりに森をひた歩くが、行けども行けども緑と茶色の幹しか視界にうつらない。


「なぁ、これ、本当に見つかるのか?」

「う、うん……」


 採石場どころか、山ひとつ見つからない。


「エルコの西は期待がうすいか」

「そうだなぁ」

「もうちょっと、さがしてみようよぅ」


 アダルジーザは俺をはげましてくれるが、退くのも作戦のひとつだ。


「十日という期限が切られている以上、むだとなる時間をつくるわけにはいかない。ここでいったん引きさがろう」

「帰っちゃうの?」

「ああ。俺たちには時間がない。短い期間で採石場をさがしだすためには効率がもとめられるのだ」


 個人的にはもう少しさがしてみたいが、夜までに村にもどらないと面倒なことになる。


「そっかぁ。しかたないねぇ」

「他をさがしても見つからなければ、またここにもどってこよう。まだプルチアの中央にも進んでいないだろうからな」

「そうだねっ」


 アダルジーザの指示にしたがって、村へと引きかえすことにした。

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