第11話 インプの本拠地をあばけ! 秘策はマジックシール
ボルゾフが宣言した通り、インプたちは連日にわたって夜襲を行ってきた。
やつらは小勢で村と採石場を襲撃してくる。攻撃して、火をつけて、逃げていく。そのくりかえしだ。
大きな被害は発生していないが、エルコを守護する兵たちは満足にねむることができず、疲弊していくばかりだ。
「こんなんじゃ、村をまもってるなんて言えないぜ。やつらに翻弄されてばっかじゃないか!」
自宅をおとずれていたテオフィロ殿が、だんとテーブルをたたく。
やつれた顔に、目の下のクマが目立つ。
「みんな、ねられないから、イライラしてるよねぇ」
アダルジーザの顔にも疲れの色が見える。ぐったりして、立つ気力がないようだ。
「インプのやつら、こんなつまんねえの、いつまで続けるんだ? いいかげんにしてほしいぜ……」
ジルダがいらだつ気持ちもよくわかる。
「やつらはおそらく、俺が疲弊するのを待っている。近いうちに、大軍を引きつれて勝負に出てくるかもしれない」
「うそ……っ」
「順当に考えれば、村がねらわれる。ここをうばわれたら、俺たちはおわりだ」
「そうなのぉ? ど、どうしよう……」
このまま迎え打っているだけではだめだ。何か、手をうたないと……。
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ。やつらが襲ってきたら、ぼくたちは戦うしかないんだぜ」
「ジルダの言う通りだ。無視できるものなら無視したいが、やつらは必ず火をつけてくるからな……」
「えっ、なに。もしかして、あの火をつけるのも、ねらってやってんの? うざっ!」
インプどもは弱い。だが、ずるがしこい連中だ。非力ゆえに頭脳が発達したのかもしれない。
ヴァールやガレオスのように、正面からぶつかってくる敵であれば、戦いやすいのだが……。
「やつらの兵力がどのくらいなのか、把握するすべはないが、俺たちよりは多いのだろうな」
テオフィロ殿が腕組みしながら、うなった。
「インプどもの兵力はわからないのか?」
「わからないな。やつらの本拠地がわからないからな」
なんと。敵の姿が把握できないのは非常にまずい。
「俺たちも捜索はしているのだが、やつらはすばしっこくてな。やつらの本拠地をわり出せていないのだ」
警戒心が強いのも、インプらしい。
「あいつらの居場所がわかりゃな。グラートが突っ込んで、一網打尽にできるんだけどな」
「ジルダは偵察を何も知らんから、そういうことが言えるんだ。こうみえても、俺たちは日夜、やつらの居場所をさがしてるんだぞ」
「へいへい。そりゃ、わるぅございましたねー」
ジルダとテオフィロ殿が、口げんかをはじめてしまった。
インプどもの本拠地がわかれば、俺が単身で突撃して、一気にケリをつけることができる。ジルダの言う通りだ。
インプどもの本拠地を知る、いい方法はないのか。
「グラート、何か考えてる?」
アダルジーザが心配そうに俺をのぞき込んでいた。
「インプどもの本拠地を知る方法はないかと思ってな」
「偵察、のようなことをするのぉ? わたしも、グラートもぅ、そういうのは得意じゃないよねぇ」
「そうだな……」
敵地の視察は身軽なシルヴィオにまかせていた。
ああ、シルヴィオ。お前の力が今すぐほしいぞ!
「こんなとき、シルヴィが、いればねぇ……」
「ここにいない者にすがっても、しかたあるまい。この前にマルバを引きつけたような、便利な魔法はないか?」
「便利な……? マジックベイトはぁ、敵さんの情報をあつめることなんて、できないよ?」
マジックベイトではだめか。他に応用できそうな魔法はないか。
「ジルダは何か便利な魔法を知らないか?」
「便利な魔法? ぼくは攻撃魔法とデバフくらいしかできないけど、何すんの?」
デバフ――インプをよわらせても、本拠地はさがしだせないだろう。
「インプの本拠地をつきとめたいのだ」
「ああ、そういうこと。あいにくだけど、ぼくは知らないぜ」
ジルダが気だるそうにかぶりをふった。
魔法にもたよれないか……。
「マジックシールを、使ってみるぅ?」
「マジックシール?」
「マジックシールは魔法の目印でね。わたしにしか見えないんだけどぅ、本とかにね、ちょっと印をつけておきたいときに便利なの」
魔道書を読むときに使う魔法か……。
「
「マジックシールをつけておけば、敵の見た目が変化しても見破れるのか。しかし、その魔法でインプの本拠地をつきとめることはできないだろう」
「うーんと、マジックシールを張った場所って、少しはなれてても、わたしにはわかるの。インプの大将さんにぃ、マジックシールをつければ、どこに行っちゃったか、わかるかなぁって」
なにっ。そんな使い方があるのか!
「それ、いいじゃん!」
「でしょぉ」
ジルダが身を乗り出して、アダルジーザの手をつかんだ。
「よくわからんが、その魔法で、どうやってボルゾフの居場所を知るんだ?」
テオフィロ殿はマジックシールの使い方がわかっていないのか。
「ボルゾフはやつらの本拠地にいる。そして、夜襲をおえたら、その本拠地にもどるだろう」
「そうだな。そんなのは当たり前だが」
「ボルゾフが逃げるときに、アダルがマジックシールを使う。魔法の目印をつけたボルゾフを追跡すれば、やつらの本拠地にたどりつけるのではないか?」
「な、なんと……! そんな方法があったのかっ」
テオフィロ殿が立ち上がって、子どものように目をひからせた。
「アダルさん。ボルゾフがあらわれたら、その魔法をたのむ!」
「あ、はいっ」
「やつはきっと、明日にもあらわれる。やつらに目にものを見せてやろうっ」
言わずもがな。インプどもを倒して、プルチアを平定するぞ!
* * *
インプの本拠地を目ざすのは俺とアダルジーザだけだ。
俺はインプの本拠地をつぶす主力。アダルジーザはマジックシールなどを使うサポート要員だ。
少数でなければ、インプたちに気づかれる。危険だが、やむをえない。
チャンスは一度きり。失敗すれば、同じ手は使えない。
「出たぞぉ!」
次の日の夜。エルコの見まわりをしている俺の耳に、兵の怒声がとどいた。
「グラートっ」
「行くぞ!」
ボルゾフがあらわれたのは北の港だ。ヘビのニョルンをつれているようだ。
「ひゃーっ、ひゃっひゃっひゃ。人間どもをかみちぎれ。しめ殺せぇ!」
火の手が上がる夜の港に、毒蛇ニョルンの身体がゆらゆらと動いている。
「やめろ!」
テオフィロ殿と合流し、ボルゾフたちと対峙する。
「ぐっふっふっふ。来たな、ドラスレ。今日こそ、お前の命日だ」
「ほざくな。今日もしっぽをまいて逃げる算段だろう。いつまでもお前の好きにはさせないぞ!」
ヴァールアクスをふりあげて、突進する。
渾身の一撃を地面にたたきつけ、一体のニョルンをしとめる。
「ぐっ。ドラスレだ。ドラスレをねらえ!」
ニョルンたちが俺をとりかこむ。威嚇し、すぐにとびかかってきそうだ。
アダルジーザをちらりと見やる。
アダルジーザがかすかにうなずく。ボルゾフに気づかれないように、戦線からはなれた。
「ころせぇ!」
ニョルンたちがとびかかってきた!
「ち!」
ヴァールアクスを払い、手前からとびついてきたニョルンの胴を斬りさく。
だが後ろからの攻撃をよけることはできない。ニョルンのするどい刃が、俺の肩と腰にくい込んだ。
「やった! しとめたっ」
この程度ではやられん!
かみついたニョルンのあたまをつかみ、にぎりつぶす。
もう一体のニョルンは両手で胴をつかみ、強引に引きちぎった。
「ひっ! バ、バケモノめっ」
「お前らインプに、バケモノよばわりされたくない!」
ニョルンはすべてしとめた。残りのインプどもをしとめる!
「しねっ!」
右足をふみ込み、夜空を跳躍する。
空高くふりかぶった斧を、インプたちにたたきつける!
「うわぁ!」
しとめたか!?
ヴァールアクスの力でくだけた地面には細い身体を押しつぶされたインプたちが転がっている。
だが、ボルゾフの姿はない。逃げられたか!?
「くそっ、引き上げだ」
空き家の屋根に移動していたボルゾフは屋根を伝って逃げてしまった。
「アダル!」
「大丈夫っ。マジックシールは張ったからっ!」
空き家のかげからアダルジーザがあらわれて、小さくガッツポーズする。
そして、西の森をさした。
「こっち! でも、はやいかもっ」
マジックシールをつけたボルゾフがはなれると、場所を感知しにくくなるのか。
「急ぐぞ、アダル!」
「う、うん……っ」
「ジルダたちは消火活動をたのんだぞ!」
「まかせとけやっ」
アダルジーザがさす夜の森にむけて駆けた。
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