第10話 もえる夜の町、フクロウとオオカミの合成獣をたおす

 兵の宿舎が燃えているっ!


「な、なんだとぉ!」


 テオフィロ殿が、がくりと膝をおった。


 宿舎のまわりでオオカミのような魔物が走りまわっている。兵は対応に追われていた。


「なんで、こんなことに……」

「あのオオカミみたいな魔物はなんだ!?」


 オオカミのような魔物の一体が、俺たちに気づいた。


 オオカミ……じゃない? フクロウなのか? 黒い毛並みにおおわれた丸い顔に、黄色のクチバシ。


 だが翼は生えていない。四本のあしで地面をけり、目の前までするどくせま――。


「くっ」

「グラート!」


 はやい!


 次の突撃に合わせてヴァールアクスをふりおろすが、やつはそれを高い跳躍でかわす。


「なんなんだ、こいつは!」

「テオフィロ殿っ、かなしんでいる場合ではない!」


 フクロウとオオカミの魔物が、丸い顔をこきざみにふるわせる。


 黄色のクチバシを大きく開けて、赤い炎が――火事になっているのも、こいつのしわざかっ!


 炎は長い尾を引いて、エルコの静かな夜をもやした。


「こんなやつら、見たことねーぞ!」

「は、はやいっ」


 他の魔物も集まってきて、アダルジーザやジルダに襲いかかっている。まずいっ。


「アダル、攻撃速度を上げるバフを! ジルダは氷の魔法を使えるかっ?」

「まかせて!」

「あったりまえじゃねぇか!」


 アダルジーザが戦線から下がって、補助魔法をかける。


 ジルダも氷の魔法をとなえて、魔物の突進を撹乱した。いいぞ!


 フクロウとオオカミの魔物が俺にまっすぐ向かってきた。


「ふんっ」


 アダルジーザのバフを受けた斧は羽根のように軽い。


 高速のなぎ払いが魔物の腹をとらえて、まっぷたつに切り裂いた。


「やったぁ!」

「ひぇ、さすがっ」


 まだまだぁ!


 フクロウとオオカミの魔物は群れをなして襲いかかってくる。


 数が多いゆえ、そのすべての攻撃をかわすことはできないが――。


「かわす必要などない!」


 悪鬼のように、ヴァールアクスをふりまわす。


 魔物の突進を食らっても、カウンターアタックでねじふせる!


 フクロウとオオカミの魔物はすばやいが、身体はやわらかい。


 ガレオスの鋼鉄を凌駕する甲羅と鱗にくらべれば、まるで綿わただ。


「これで、だいたい始末したか?」

「うんっ」


 ジルダは両手から冷気をはなって、宿舎の炎を消火する。


 テオフィロ殿も海水をバケツでくみ上げてきたのか、バケツの水をかけるが、


「ぜんぜん消えねーぞ!」

「はやく消せ!」


 炎は柱のように燃え上がって、エルコの夜空をこがす。


「グラートとアダルも、手伝って!」

「うん」


 アダルジーザも冷気の魔法をはなつが、ジルダの魔法より威力が弱い。


「攻撃系の魔法は、苦手……」

「げっ。マジかよ……」


 アダルジーザは回復とバフに特化した魔道師だ。攻撃は全般的に苦手だ。


「攻撃しなくていいからさ、火を消す魔法とかないの?」

「そんなの、あったかなぁ」


 ジルダがはなつ魔法は強いが、それでも火の勢いはおさまらない。


「グラートも、見てないで手伝え!」

「俺も、魔法は全体的に苦手だ」

「ぐぇ、マジかよぉ……て、自信満々に言うな!」


 ジルダのように強力な魔法は使えないが、斧で炎を吹き飛ばすことはできる。


「みな、はなれろ!」


 後ろにさがり、ヴァールアクスを低くかまえる。


「ドラスレ、まさか……」

「はっ!」


 左のかかとで地面をけり、炎に突進する。


「や、やめ――」

「ふっとべ!」


 跳躍して、ヴァールアクスをたたきつけた。


 ヴァールアクスは地面をわり、強烈な衝撃波を発生させる。


「わわ!」


 衝撃波が砂塵を舞い上がらせ、津波のように宿舎をのみ込んだ。


 砂が炎を押しつぶし、荒れくるう空気が炎をふき消してくれる。


「炎は完全に消えた。ミッションコンプリートだ」

「グラート、すごぉい!」

「すごくない! 宿舎がめちゃくちゃじゃないかっ!」


 テオフィロ殿が言う通り、宿舎の大半が瓦礫がれきと化している。


「そうだな」

「そうだな、じゃない! どうすんだよぉ。住むとこがなくなっちゃったじゃないかぁ」


 火を消すことしか、考えていなかった……。


「そうだな……」

「大事にしてた、クッションとか、あったのにぃ」

「流人の空き家に、引っ越すしかねぇな。はは……」


 ジルダとアダルジーザは顔を引きつらせていた。


 それより――。


「今回の魔物は風変りだな」

「そうだねぇ」


 フクロウの顔に、オオカミのような身体。尻尾はヘビに似ている……?


「アダル、このような獣を、これまで見たことはあるか?」


 アダルジーザも死骸となった魔物に目を向ける。


「ううん。見たことないかも」

「この獣はフクロウやオオカミをつなぎ合わせたように見えるが、元からこのような姿なのだろうか」

合成獣キメラだってことぉ?」

「そのように見えるのだが……」


 魔物の死骸をくまなく見まわす。


 魔物の首……フクロウの顔と、オオカミの接合部は毛並みの色が違う。


 尻尾は緑色の鱗だ。胴体と明らかに身体の性質が異なっている――。


「さすがだな、ドラスレっ」


 ボルゾフの声!


 ふりかえった先の闇に、ボルゾフたち数匹のインプが直立していた。


「俺が長年かけてつくりあげたマルバまで、倒しちまうとはな」

「お前たちは魔物を使役するだけじゃないのか」

「当たり前だ! 俺たちはプルチアの支配者。合成獣をつくることなど、造作もないってことよぉ!」


 ボルゾフたちの背後から、フクロウとオオカミの魔物――マルバがあらわれる。


 黄色いクチバシから炎をはなち――。


「やめろ!」

「もやせもやせぇ! 人間どものきたねえ住み家など、全部もやしてしまえぇ」


 家屋についた火はすぐに燃え上がり、となりの家屋に燃えうつってしまう。


「ジルダとテオフィロ殿は消火を!」

「わ、わかったっ」


 高笑いするボルゾフにヴァールアクスをふりおろす。


「こんなものっ」


 他のインプたちは押しつぶしたが、ボルゾフは屋根の上に逃げた。


「くくっ。夜襲はしばらく続けるぞ。昼夜とわず戦いつづけて、お前の身はどこまでもつかな」

「くたばれ!」


 ヴァールアクスで衝撃波を発生させたが、ボルゾフは夜陰にまぎれてしまった。


「ドラスレ!」

「たすけてくれぇ」


 村にはなたれているマルバを処理しなければ。


 マルバは兵や流人につぎつぎと襲いかかり、凶悪なクチバシや爪で彼らをきずつけていく。


 マルバを見つけて一匹ずつ処理していくが、オオカミのようにすばやいため、攻撃しても逃げられてしまう。


「素早い敵はどうも苦手だ」

「グラートは固い敵や、大きい敵を倒す方が、得意だもんねぇ」


 アダルジーザが攻撃速度をあげるバフをかけてくれるが、マルバのはやさに適応しきれていない。


「シルヴィオがいれば、あっさり片づけてくれるのだろうが」

「シルヴィも、オオカミさんみたいにはやいもんね」


 元ギルメンのシルヴィオは双剣を使いこなすスピード型のファイターだった。


 獣や鳥など、すばやい魔物を相手するのであれば、彼の右に出る者はいないだろう。


「アダル、敵の動きを止める魔法はないか?」

「動きを止める、魔法?」

「敵の足をにぶらせる魔法とか、効果が出るものであれば、なんでもよいのだが」

「デバフをかける魔法はジルちゃんの方が、得意だから……」


 ジルダは消火活動に追われている。声なんて、とてもかけられない。


 アダルジーザが「うーん」とうなる。


「それならぁ、マジックベイトを使ってみよっかぁ」

「マジックベイト、とはどんな魔法だ?」

「マジックベイトはねぇ、敵を引きよせられる魔法なの」


 敵を一箇所にまとめられる魔法なのか!


「それは妙案だ。たのむ!」

「ふふ、わかったぁ」


 村であばれているマルバを見つけ、攻撃する。


 マルバは危機を瞬時に察知して、屋根の上まで跳躍した。


「いくねぇ」


 アダルジーザが魔法をとなえて、杖の先から緑色の光を出した。


 光は円を形成して、メロンのような球体となって浮かび上がる。


「これが、マジックベイトか?」

「うん。前にも、何度か使ってるんだけど」


 言われてみれば、見たことがあるかもしれない。


 マルバが奇声を発して、メロンのようなマジックベイトにとびかかる。


 だが、発光体でしかないマジックベイトはマルバの攻撃を受けつけない。爪やクチバシの攻撃がすり抜けてしまう。


 俺の攻撃で、マルバをあっさり倒すことができた。


「これは良い魔法だなっ」

「うんっ」


 村のあちこちに散っているマルバを一箇所に集めて、ヴァールアクスで倒す。


 マルバの数は十匹程度であったため、村の混乱をすぐにおさめることができた。

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