第4話 毒蛇ニョルン襲来、魔道師ジルダとの連携
エルコの朝は早い。
日の出とともに起床して、パンやシチューで簡単な食事をいただく。
神に祈りをささげた後、午前中から流人たちは作業をはじめる。
作業は採掘の他に伐採。農作業や家畜の世話。釣りや裁縫など、よその農村とそれほど差はない。
俺はエルコの警備隊にまじり、村の警護を担当する。
しかし、魔物があらわれなければ、これといった作業はない。そのため、採掘を手伝うこともあった。
「ドラスレぇ。おきてっかぁ?」
朝食をとった後、ヴァールアクスを手入れしていると、ジルダが家に押し入ってきた。
「ジルダか。何か用か?」
「なんだ、起きてたのか。つまんねえ。寝ぼけた顔でもおがんでやろうと思ったのに」
採掘の作業はもうはじまっている時間だぞ。
「採石場に行かなくていいのか?」
「ふふふ。聞いておどろけ! ぼくも今日からあんたの仲間だぜっ」
ジルダがしたり顔で、右手のピースサインを出した。
「ジルダも警備隊にくわわったのか?」
「そ。ぼくも一応、元冒険者で戦闘経験があるから、あんたたちをサポートしろってさ」
「そういうことか。納得した」
兵の戦力には不安が残る。戦力の増強なら大歓迎だ!
「ジルダは斧や剣でたたかうタイプには見えないが、魔道師なのか?」
「そうさ。攻撃魔法とかデバフをかけるのが得意だな。属性は炎とか冷気とか、だいたいコンプしてるぜ!」
それは心強い! 貴重な遠距離攻撃は、これから必須になるだ――。
「悲鳴!?」
近くで兵たちの叫び声が聞こえたぞ!
「ドラスレ様っ!」
若い男の兵士が駆け込んできたっ。
「敵襲かっ」
「はい! 村の西ですっ」
ヴァールアクスをとって、家を飛び出す。
あばら家の隙間を抜けて、村の西へと駆ける。逃げまどう流人たちの肩がぶつかる。
「ドラスレ! やつらを早く倒してくれっ」
「わかっているっ。ここを通してくれ!」
西の空き家が建ちならぶ場所で、黄色のヘビのような魔物と兵士たちがたたかっていた。
ヘビの全長は俺より高い。頭には青いとさかのようなものが生えている。
「ドラスレ、あれ!」
「急ごう!」
ヘビは何匹だ? 十匹以上はいるぞ!
「おおっ、きやがったぞ!」
「あいつがドラゴンスレイヤーか!」
ヘビ使いのようなインプたちが、ヘビたちの背中を
「おらニョルンどもっ。あの大男をかみ殺せ!」
この黄色いヘビはニョルンとい――はやいっ!
ニョルンが長い胴体を突き出して、高速の突きをくりだしてくる。
「うわぁ、なんだよ、このでかいヘビ……」
「気をつけろ! かまれたら厄介だぞっ」
ニョルンは凶悪なきばを見せつけて、俺の肩や腕をかみちぎろうとする。
ならば、距離をとって、ニョルンが近づいてきたところを――。
「なにっ!?」
一撃でほうむり去る!
「す、すげえな! あいかわら――うわぁ!」
「ジルダ! 平気かっ」
「へいきへいきっ」
ジルダもニョルンからはなれて、魔法をとなえる。
彼女の左右の小さい手のひらから、円形の刃が出現した。
「くらえ!」
ジルダが真空の刃をはなった!
刃は高速で旋回し、ニョルンを四方から囲い込む。
剣のような刃はニョルンの
「やるな! ジルダ」
「ざっとこんなもんよ!」
インプたちは地団駄をふんでいる。
「うざい人間どもがぁっ。だぁが! 勝つのは俺たちだぁっ」
インプたちが鞭でニョルンに攻撃の命令をだす。
ニョルンたちは絶叫のような声を発して、一斉に突撃してきた!
「くそ! 数が多すぎるぜっ」
ジルダは風の魔法で応戦するが、ニョルンの勢いまで殺せない。
俺の攻撃でも、ニョルンを一匹ずつ相手にするのは手間がかかる。
ならば、ひとつにまとめるまで!
「ジルダ、いったんさがれ!」
「んだよ、こんなやつら、ぼくひとりでなんとかなるっつーの!」
「いいからさがれ!」
ジルダはとなえていた魔法をとめて、しぶしぶ俺のそばまで後退した。
ニョルンたちがぬらりと首を動かして、俺たちを捕捉する。
「ぐっふっふっふ。ついに観念したのか? だがお前の命は見逃せんぞぉ!」
インプたちがニョルンたちに一斉攻撃を指示する。
ニョルンたちは束になって俺の前に殺到した。
――ここで倒す!
右足をふみしめ、ヴァールアクスを両手でにぎりしめて後ろに引く。
「おわりだっ!」
跳躍し、束になったニョルンたちにヴァールアクスをふりおろした。
「うおっ」
ぶあつい刃は大地を割り、欠片になった土を空へ舞い上がらせる。
斧の直撃を受けたニョルンの胴体は引き裂かれ、他のニョルンは衝撃で三方に吹き飛ばされた。
ヴァールアクスをふりおろした場所を中心に、大きな穴があいた。ミッションコンプリートだ。
「あいかわらず、すげぇ破壊力だなぁ。どんだけ怪力なんだ――ち!」
穴の外でジルダが風の魔法をとなえる。
生き残っていたニョルンにとどめを刺してくれたか。
「すまない。討ちもらした者がいたようだ」
「あんな大雑把な攻撃じゃ、全部を完璧に倒すことなんてできないだろ」
「うむ。ヴァールアクスは非常に強力なのだが、重いゆえに攻撃が大ぶりになってしまうのが――」
前方に気配を感じる!
二匹のニョルンがまだ生き残っていたかっ。
「ドラ――」
「あまいっ」
腰をおとし、両手にためた力を前に放出する。
ヴァールアクスは空を裂き、稲妻のようにニョルンたちの腹を突き抜ける。
ニョルンの胴体はまっぷたつに斬り裂かれたが、ニョルンの突進は勢いがおさまらなかった。
ニョルンの身体は血しぶきをあげながら、俺の後ろへと流れた。
「ぐ、ぐぞ……っ」
三匹のインプが戦場のすみでまごついていた。
「もうおわりか?」
「ぐぐぐ、きょきょ、今日のところは、このあたりで、勘弁してやるっ」
インプたちはしっぽをまいて逃げる気か。
「逃がすかっ!」
ジルダが後ろから炎をはなった。
火炎は左右からモグラのように地をはい、インプたちの退路を燃え上がらせる。
「うわっちぃ!」
「なんだこれは!」
インプたちの動きが止まった。
「ドラスレ!」
「まかせろっ」
お前たちに恨みはないが、ここで死んでもらう!
ヴァールアクスを天たかくあげ、恐怖するインプたちにふりおろした。
インプたちの身体は
この一閃だけで、インプたちは絶命するだろう。
「やったぜ!」
ジルダが駆けつけてハイタッチする。
「やっぱりつえぇな、あんた! 楽勝じゃねえか」
「いや、ジルダの援助のおかげだ。たすかる」
「いやいや。ぼくはなんもしてねぇよ。つうか、ドラスレが強すぎんだよっ」
ジルダが「うりうり」と肘で俺の腹をこづいた。
「おお……もう戦いがおわってたのか」
頃合いを見はからったように、テオフィロ殿と兵士たちが村からあらわれた。
「あんたら、何やってたんだよ。おそすぎ!」
「すまん、すまん。魔物が襲ってきたのは知ってたんだが、準備に手間取ってたんだ。言っておくが、戦いがおわるまで、そこで様子をうかがってたわけじゃないぞ」
「ほんとかよ。信用ならねぇなぁ……」
テオフィロ殿がニョルンの死骸を見まわして、「やれやれ」と息をはいた。
「さすがはドラゴンスレイヤーだな。いとも簡単に倒してしまうなんて。しかも、村の被害がほとんどない」
「いや、この周辺の家屋を倒壊させてしまった。ここの住人にわびねばなるまい」
「それは平気だ。この辺の家はすべて空き家だ。兵が何人かけがをしたが、奇跡のような戦果だぜ!」
「何が奇跡だよ。あんたらは何もしなかったくせに」
テオフィロ殿の後ろで、ジルダがかったるそうに悪態をついた。
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