第11話:作戦
◇
その後、俺は今日寝る部屋までシーナに案内してもらっていた。
シーナはなぜか不安気な表情をしていた。
「だ、大丈夫でしょうか……?」
「何がだ?」
「あのように大見得を切ってしまって……」
どうやら、シーナは両親の前で俺が鍛えると言い切ったことでプレッシャーを感じているようだ。
「私、ステータスは上がっているのに、全然魔法が強くならないんです」
「大丈夫だ。俺に考えがある」
「考え……ですか?」
「ああ」
俺が考えた作戦は至ってシンプルなものだ。
俺は、召喚獣を使って自動で大量に魔物を相手にできる。
同じパーティにいるだけでも経験値が入るようなので、それを利用すればいい。
「俺と一緒にいるだけで経験値が大量に稼げる。レベルが上がれば強くなるんだし、すぐに結果が出るはずだ」
少しズルいようにも感じられるが、我ながら完璧な作戦である。
「上手くいくでしょうか……」
しかし、どういうわけかシーナの表情は晴れなかった。
◇
村はずれの豚小屋。
日が落ちて真っ暗になった村の片隅にて、稲本たち一行はようやく休めていた。
寝る場所のない彼らを見かねて村人が提供してくれたのである。
なお、片桐と遠藤は豚小屋の外に出ておりこの場にはいない。
「うっ……吐きそう」
耐えがたい臭いにより定期的に吐き気を催す高原。
「大丈夫だよ、吐くもの何も食べてないでしょ?」
親友の山川が微妙にピントがズレた言葉をかける。
実際、この世界に転移してきてから五人は水以外まだ何も口にしていなかった。
この世界では、日本と同様に食べ物を入手するにはお金が必要。
ジュエルと呼ばれるこの世界のお金を手にする術がない彼らは食事にありつくことさえできないでいたのだ。
ある意味、食欲を忘れられるこの環境は救済なのかもしれない。
「クソ……★5の俺がどうして俺がこんな目に……」
空腹と先の見えない絶望感に沈んだ稲本は、定期的に不満を口にしていた。
生徒たちを誘導することで★5の職業を上手く自分に引き寄せたときは、ひとまずこの世界でも安泰だろうと安心しきっていた。
だが、そうではなかった。
むしろ、★なしのハズレ職を押し付けたはずの旭川和也がどういうわけか村長の娘と出会ったことで現時点では良い待遇を受けている。
見捨てた女が村長の娘だったなど想像できないので、稲本はあの時の決断を間違っていたとは微塵も想っていない。
(クソッ! 運が悪すぎる……!)
シーナの計らいで安全な村に入れてもらった事実を知る稲本だが、自らの運の悪さを嘆き、自分の行動を顧みようとはしないのだった。
「戻りました」
「食料調達してきたぜ」
豚小屋の外に出ていた片桐と遠藤が戻ってきた。
袋には硬いパンがたくさん入っており、一食分には十分な量。
さらに、どういうわけか二人は制服姿から現地の人と同じような服装に変わっている。
「商人が制服を買い取ってくれたんだ。その金で買ってきた。にしてもくっせーな」
「外で食べたほうがいいかもしれないな」
文句を言いながらも、買ってきたパンを食べ始める二人。
二人に続いて、高原、山川、稲本の三人も続く。
日本の高品質なパンを食べなれた一行にとってお世辞にも美味しいとは言えなかったが、空腹を満たすには十分だった。
「明日、村を出るぞ」
「え? もうですか?」
急な稲本の言葉に片桐が反応する。
片桐としてはもう少し時間をかけて商法収集してから町を出ようと考えていた。
「勇者として呼ばれて、恵まれた職業を持つ俺たちがこんな扱いなのはどう考えてもおかしいだろ! 冒険者に……冒険者にさえなれば状況は変わるはずだ」
鬱憤を晴らすかのように現状への不満を吐露する稲本。
「確かに、実力主義ってやつらしいもんな。ここに留まるよりそっちか」
「それに、早めにお金を稼ぐ手段は手に入れておきたい」
「じゃあ、明日旭川君とシーナさんにお礼してから出る感じ?」
「それでいいんじゃない?」
生徒たちだけで次々と今後の行動を決めようとする中、稲本は待ったをかけた。
「いやいや、旭川とシーナとかいう女に礼? どうして? 必要ないだろ」
「で、でも酷いことしちゃったのは事実だし……それなのに大人の対応してもらったし、お礼くらいはと思うんですけど……」
言い出しっぺの高原は、困り顔で稲本に説明する。
しかし、稲本は面倒くさそうに文句をつけた。
「優れた力を持つ人間に劣った人間が敬意を示すのは当たり前だろ。それに、ガキに頭を下げるなど俺のプライドが許さん! 文句がある奴はパーティから出ていけ!」
どうしようかとお互いを見る生徒たち。
異世界に転移してから知った稲本の人間性には皆嫌気が差しているのだ。
稲本は言うことを聞かなければ、元の世界に帰った時に酷い目に遭わせると言った。
しかし、元の世界に戻れるかどうかもわからないこの状況では、今や地球での生活の方がファンタジーに感じる。
皆の共通認識として稲本の追放が有力な選択肢になっていた。
だが、この場では紙一重の差で慎重論が勝った。
「今はなるべく固まっておくべきだと思う」
片桐は生徒たちにそう話すと稲本に頭を下げた。
「すみませんでした。明日は朝一番で村を出ましょう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます