第10話:決闘と課題

「どうかね?」


 シーナたち家族三人が俺に注目する。


 やめておきます……なんて、とてもじゃないが言えない雰囲気だ。


「……わかりました」


「そう来なくちゃな。こう見えても、私は昔冒険者をしていたのだ。そう易々とは負けんぞ」


「はあ」


 シーナ曰く、マーカスは★4の銀剣士らしい。


 星の数だけで言えば、稲本の★5より劣る。


 稲本の剣技を今思い出すと俺でも勝てそうだが、あくまでも実戦経験の乏しい中での実力。


 マーカスは冒険者としての経験があるらしいので、星の数だけでは評価できない。


「早速始めよう。庭に来てくれるか?」

「はい」


 俺はマーカスの後に続き、庭に出た。


「カズヤさん、頑張ってくださいね! 負けちゃダメですからね!」


 決闘前に激励の言葉をかけてくれるシーナ。


 こう言われると、逆に少し緊張してしまうが……まあ、この程度が重荷になるようではダメか。

「任せておけ」


 俺はそう言葉を返し、マーカスと対峙する。


 俺は《収納魔法》で異空間から剣を取り出し、構えた。


「ふむ。そこそこ良い剣を使っているようだな。だが……剣だけでは腕を覆すことはできんっ!」


 言いながら、俺の前に飛び出してくるマーカス。


 速い……っ!


 だが、白銀の狼と戦った俺なら十分に対応できる。


 見える情報から剣の軌道を正確に予測し、ギリギリのところで避けた。


「ほう……大した眼をしている」


「……どうも」


「これなら、本気を出しても大丈夫そうだ。……死ぬことはないだろう」


 マーカスから感じる圧が一気に強くなった。


 俺の呼吸の一つ一つすら把握されている気がする。


「魔物は、上下左右どこからでも襲ってくる。警戒は大切だが、理想通りに対応できないこともある。そんな時――君はどうするかな?」


 言葉の意味を汲み取れずにいる中、離れた場所からマーカスは剣を横なぎに振るった。


 空気が振動し、衝撃波が発生した。


 その無数の衝撃波が小さな刃となって、俺に襲い掛かってくる。


 刃は不規則な動きを見せながらも、どんどん速度を増していた。


「なるほど……そういうことか」


 この攻撃は、動体視力に任せた戦い方だけでは対処できない。


 俺の後ろにはシーナがいるわけで、単に避けるだけでは怪我をさせてしまうかもしれない。


 メタ読みをすれば、ギリギリシーナには届かないような軌道なのだろうと推測はできるが、魔物との戦いではそういった対応はできない。


 何か、アイデアが必要だ。


 すべてを剣で弾き返すことはできない……あっ、そうか!


 俺は、先ほどのマーカス同様に剣を横なぎに振るった。


 ザン!


 大きな音を立て、衝撃波が生まれる。


 マーカスのものとは違い、俺の斬撃は細々とした小さな刃ではなく、一つの大きな刃。


 技術的に真似できない故の妥協でもあったが、それだけが理由ではない。


 軌道を予測できないのなら、大雑把な攻撃で跳ね返してしまえば良いと考えたのだ。


「その攻撃、返させてもらうぜ」


「なにっ⁉」


 俺の斬撃はマーカスの斬撃を飲み込み、勢いを増して吹き飛んでいく。


「くっ!」


 マーカスは俺の攻撃を避けるのに精一杯の状況。


 地面をゴロゴロと転がり、どうにか衝突を回避する。


 だが、俺はこの動きを見逃していなかった。


 俺はマーカスがどちらに転ぶか見てから大きく地を蹴り、接近する。


 剣を振るには無理のある体制で俺の攻撃を迎え撃とうとするマーカスだが――


「勝負ありだ」


 俺は剣を下から救い上げるように振り、マーカスの剣を吹き飛ばした。


 マーカスの手を離れた剣は後方に飛んでいき、地面にザクっと刺さってしまう。


 武器を失った状態ではもう戦うことはできない。


「……こ、降参だ。完敗だよ」


 マーカスは両手を上げて自らの負けを認めた。


 こうして、この決闘は俺の勝利という形で決着したのだった。


「さすがです! カズヤさん!」


 決闘が終わってすぐにシーナが駆け寄ってきた。


 かなり興奮しているのか、俺の胸に顔を埋めてはしゃいでいる。


 俺としても喜んでくれるのは嬉しいのだが、あまり女性慣れしていない俺としては密着しすぎというか……緊張してしまうというか……まあいいや。


「お父様、これで認めてくださりますね?」


 地面に刺さった剣を抜いた後、マーカスが答える。


「ああ、もちろんだ。認めざるをえない」


「やった――」


「だが、まだ話は終わっていない」


「ど、どういうことですか⁉」


 俺の反応を代弁するようにシーナが驚きの声を上げる。


 俺もこの決闘に勝てば、シーナの師匠となり一緒に冒険に出られるという認識だった。


「カズヤくんの実力は疑う余地もない。だが、お前はどうだ? シーナ」


「私……ですか?」


「カズヤくんに負担をかけない実力があるかということだ。いくら弟子とは言っても、荷物にしかならないのなら迷惑だ。私は冒険者として、そうした師弟関係が崩れる姿をいくつか見てきた」


「では、どうすれば……」


 さっきの晴れやかな表情とは対照的に、シーナの表情は沈んでしまっている。


 それを見かねて……というわけではないが、放っておけず俺は気づけば口を開いていた。


「大丈夫です。数日の時間をください。シーナなら問題ないと証明して見せます」


「ふむ。どうするつもりだ?」


「シーナを鍛えます」

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