第9話:家族会議

 ◇


 リード村は、中世ヨーロッパ風の建物が立ち並んでいた。


 見慣れない景色だが、ゲーム的な世界観っぽくも感じられて馴染みがあるような気もする。


「今日はうちに泊まっていってください」


 シーナを送り届けるべくシーナの家に向かっている途中、シーナが提案してくれた。


 安全な村の中に入ったまではいいものの、お金もなければ伝手もないためどこかで野宿をしようと思っていたので、正直めちゃくちゃありがたい。


「いいのか?」


「当然です! カズヤさんは恩人なのですから!」


 そう言ってくれるなら、断る理由もない。


「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」


 見返りを期待して助けたわけではなかったのだが、結果的にかなり助けられている。


 何がどう繋がるかって、わからないものだな。


「そういえば、カズヤさんは今後どうされるのですか?」


「う~ん、まだ何もはっきりしないけど。とりあえず生活基盤を整えるのが優先。安定したら元の世界に帰る方法を探すよ」


「元の世界に……そうですよね」


 シーナは少し寂しそうな表情を見せた。


 俺たちはまだ出会って間もないが、森の中で濃い時間を過ごしたことで友情のような感情を抱いてくれているのかもしれない。


 俺としても、二度とシーナに会えなくなるのは寂しく感じる。


「と言っても、まだまだ先の話だよ。何の手がかりもないし、そもそも本当に元の世界に帰る方法があるのかもわからない」


 神はできると言っていたが、俺たちを混乱させないように言った嘘なのかもしれない。


「それより、何か仕事を探さないと。俺でもできることって何かないかな?」


「カズヤさんなら、すぐにでも冒険者になれると思いますが……それ以外でということですか?」


「え、俺って冒険者で通用するのか?」


 自分の身を守りつつ魔物を倒すくらいはできるようになったが、この世界――《アクア》基準での相対評価がよくわからない。


「カズヤさんほどの強さがあれば絶対大丈夫です。私でも一応資格は持っていますし」


 そう言いながら、シーナは冒険者ギルドが発行するギルドカードを見せてくれた。


 白色のカードには、確かに冒険者としてのシーナの情報が書かれている。


「目指してる……とは聞いてたけど、シーナって冒険者だったのか!」


「一応……そうです。でも、冒険者は実力主義なので資格だけ持っていても仕方ないですよ。私はまだ全然力不足で……旅に出るほどの力はありません」


 そう話すシーナは悔しそうだった。


 それはともかく。


 冒険者であるシーナが俺に太鼓判を押すということは、自信を持ってよさそうだ。


 明日の飯代にも困る今の状況で贅沢を言う余裕はない。


「よし、じゃあ冒険者になる。資格ってどうやったら取れるんだ?」


「冒険者ギルドの試験に合格すれば誰でも取れますよ。試験は毎日やっています」


「なるほど、冒険者ギルドか」


「ただ、リード村もそうですが、小さな村には冒険者ギルドがありません。ここから一番近い場所だと、五十キロ東にある都市アーネスを目指すと良いです」


「五十キロか……よし、気合いを入れないとな」


 フルマラソンより少し長いくらいの距離と考えると、頑張ればなんとかなりそうな気がする。


 《限界突破》のおかげで、基本的な移動速度も上がっている。


 今晩しっかり休めば問題ないだろう。


「あの、カズヤさん」


「ん?」


「ご迷惑じゃなければ……私、カズヤさんの冒険にご一緒したいです」


「え?」


 唐突すぎて、思考がフリーズしてしまう。


 シーナはこの村の村人であり、俺とは今日出会ったばかり。


 俺がリード村を出てアーネスに向かう際についていく――という文脈に聞こえてしまうのだが、意図がよくわからない。


「カズヤさんは、私がこれまで見た中で一番の冒険者です。カズヤさんの近くで戦えれば私も強くなれる気がするのです」


「いやいや、教えられることなんて何もないぞ⁉」


 あくまでも俺は『ガチャテイマー』という謎の職業の能力でステータスが上がっただけであり、その他のノウハウはないし、ましてや人に何かを教えられるわけではない。


「それでもいいのです! 見て盗みますから!」


 シーナは真剣だった。


 俺より身体はかなり小さいのに、雰囲気に圧倒されてしまいそうになる。


「カズヤさんはこの世界に来たばかりで、わからないことも多いと思います。そういう意味では、私でもお役に立てると思います。なので……ダメでしょうか?」


「ダメっていうか……ガイドしてくれるのは俺にとってはありがたいけど、あまりにも急すぎる。もう少し考えたり、誰かに相談した方がいい。第一、保護者の人とか知らないだろ?」


 シーナは見た目から推測するに、俺と同じくらいの年齢。


 この世界の常識はわからないが、普通に考えれば親と同居している年齢だ。


「そ、それはそうですね……」


「最低限その辺の筋は通した方がいい」


「わかりました。……説得します」


 ◇


 シーナの家に着いた後、まずはシーナの怪我の治療が行われた。


「はい、これで治ったはずよ。他に痛いところはない?」


「大丈夫です、お母様。ありがとうございます」


 シーナの母は★4の銀回復術師らしい。


 回復魔法により、ほんの数秒でシーナの怪我を完治させてしまった。


 ついさっきまで足を引きずっていたのが嘘じゃないかと思うほどに元気そうだ。


 怪我が治ったところで、シーナの説得が始まった。


「……ということで、立派な冒険者になるために私はカズヤさんとご一緒したいのです!」


 シーナの説明を聞いた両親は呆気に取られていた。


 まあ、そりゃそうなるだろう。


 シーナの父、マーカスは状況の整理を始める。


 マーカスは身長180センチはありそうなガタイの良さだが、優しそうな男性だ。


「つまり、森の中で危ないところを助けてくれたカズヤくんに弟子入りしたいということだな?」


「はい、その通りです! お父様」


「なるほど……。まあ、いつかこういう日がくるかもしれないとは思っていたが……」


 腕を組んで、目を瞑るマーカス。


「どうします? あなた」


 そわそわした様子のシーナの母がマーカスに囁く。


 マーカスはカッと目を開き、言葉を返す。


「いつか来るかもしれないこんな日のために、既に結論は出してある」


 その後、鋭い眼光を俺に向けるマーカス。


「カズヤくん。娘を救ってくれたことには感謝している。だが、娘を預けるとなると別だ」


「で、ですよね。俺としても……」


「私たちは、君の力をこの目で見ていない。娘を任せていいかわからないのだ。そこでだ!」


 マーカスは壁に掛けてあった剣を取り、言葉を続けた。


「今から、決闘をしよう。君の腕前を見せてもらいたい」


 え……?


 どうしてそうなる……⁉

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