07

「――じゃあ、この子達に謝ってください! 貴方が脅かすから、バスケット落としちゃったじゃないですか」


 わたしはバスケットの蓋を開けた状態で、ショドーとひいさまが見えるように、彼の方へと向けた。

 その中身を見た彼が、ぴしり、と固まる。

 ……猫、駄目だったのかな? 

 いや、本人がネコ科に分類されるような体をしておいて、猫が苦手ってことはないだろう。

 不思議に思って首を傾げると、青年は、震える指でショドーたちを指さした。


「あ、アンタ……それ、ヴィルドシャッテの子供とウルトピアの幼体じゃ……」


 ヴィル……なんだって?


「この子はわたしの飼い猫です。そんな名前じゃありません!」


 そんな覚えにくい名前じゃない。ショドーとひいさまに、「違うもんね」というと、ぐぅに、とショドーが応えてくれた。……本当に鳴くの下手くそだな、この子。


「ね、猫!? これが猫なもんか! いいか、ヴィルドシャッテは特級指定の超危険な魔物だし、ウルトピアは一部の国では神として崇められるような聖獣だぞ!? 小さいからまだそこまでの脅威じゃないが、だからって連れまわすなよ!」


「うちの子が魔物級に可愛くて聖獣みたいにもてはやされる話ですか?」


「違う!」


 めちゃくちゃ叫ばれた。


「でも、こんなに可愛い猫ですよ?」


 わたしがショドーのあごをわしわしと撫でてやると、ぐにゅにゅ、と鳴きながら気持ちよさそうに目を細めている。

 ……あれっ、でも、もしかして、ショドーが妙に鳴くのが下手なのって、本当は猫じゃないからなの? にゃーって鳴ける生物じゃないのに、わたしが、猫、猫って言うものだから、察して猫の鳴き声に合わせてくれてるだけなの?

 ショドーは猫だよね? という目で見ていると、ショドーが、「みゃあ!」と過去一で綺麗に鳴いた。


「ほら! 猫ですよ!」


「いや、今明らかにお前の表情見て何かを察してただろ! 猫にそんな芸当できるか!」


「猫を馬鹿にしてますか!?」


 わたしたちがぎゃんぎゃん騒ぎ合っていると――。


「――それでは、鑑定も終わりましたし、次の方に迷惑がかかるので出て行ってくださいね」


 ――にっこりと、受付のお姉さんに怒られた。怖。

 わたしはバスケットを抱え、貰ったスキル鑑定書を持って「それでは」とそそくさと去ろうとして――ガッと青年に肩を掴まれた。


「まあ、待て。お前がヴィルドシャッテやウルトピアと猫の区別が付かないのは分かった。でも、その二匹を猫として可愛がることができるのなら――やっぱりうちに来てほしい」


「……」


 妙に真剣な顔で頼まれてしまうと、断りにくい。先ほどまでのふざけた雰囲気が一気に霧散してしまった。

 ま、まあ、仕事内容と給料を聞いて、ショドーとひいさまを置いても大丈夫っていうなら? 考えなくもないっていうか?

 ここまで必死に頼まれると、バッサリ断るのも心苦しい。仕事が欲しいのも事実だし……。


「――ッ、それに! うち、猫型の魔物、結構いるから! 魔物本人の許可が出れば触って良し!」


「引き受けましょう」


 青年の言葉に、わたしは二つ返事でオーケーしてしまった。まだ詳しいこと、何も聞いてないのに!

 いや、流石にもうちょっと考えろ、わたしの馬鹿!

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