08
青年に案内されてやってきたのは、こじんまりとした建物だった。一軒家にしては大きいけれど、ビルとかよりは全然小さい。少なくとも、わたしがさっきまでいたスキル鑑定所よりは小さい。
「ここは僕が働く店。一階が飲食店で、二階が宿。規模は大きくないけど、討伐依頼も取り扱ってる。今は飲食店のほうは休憩中で閉めてて客はいないが」
青年が店先で説明してくれた。
「……討伐依頼? ギルドで一括管理してないんですか?」
「ああ……アンタ、ゼインラームの出身か? うちの国だと討伐依頼は民間業務だよ」
ゼインラームとは、わたしが転生して、生まれ育った、お猫様を畜生として忌み嫌うクソ国のことだ。ゼインラームでは、魔物を討伐する人間は狩者(かりじゃ)といって、国家資格だったし、公務員だった。ネット小説でよく見る、冒険者的な何でも屋ではなく、人へと危害を加える魔物を退治するのが仕事である。
うちの国だと、襲ってくる魔物の規模が規模なので、個人でどうにかできるようなものではない。この国だとそんなことないのかな?
国によって違うんだな、と異文化を感じながら、ずかずかと店に入っていく青年の後についていく。
店に入ってすぐ左側が飲食店スペースなようで、いくつかの客席が儲けられている。左側の奥にカウンターがあって、その手前に階段が。二階部分は吹き抜けになっていて、宿の手前の部屋の扉が一階からでも見える。二階部分は奥に廊下が続いているっぽいので、思ったよりは部屋数があるのかも。
「いらっしゃ――ああ、おかえりなさいませ」
わたしたちを見て、にっこりと笑って出迎えてくれたのは、いかにも優しそうで人が良さそうな男性だった。ミドル丈のエプロンをつけていて、いかにも制服、といった服を着ている。わたしに声をかけてきた青年と違い、こちらはどうみても人間だ。
「ノルン、いい世話係を見つけてきた」
世話係――言われなくてもわたしのことか。
「初めまして。ルティシャ……と、いいます」
一応、頭を下げておく。母国での家名を名乗りそうになったが、慌てて口をつぐんだ。危ない、危ない……。母国だとこれでも侯爵令嬢だったから。お嬢様だとバレたら、仕事がなくなってしまうかもしれない。箱入り娘に仕事が勤まらない、と言われてしまっては困る。
「これはご丁寧に、どうも。私(わたくし)はノルンレストと申します。気軽にノルン、とお呼びください」
しかし、男性――ノルンさんは、そんなわたしの少しぎこちない挨拶を気にも止めず、にっこりと笑って自己紹介を返してくれた。
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