第22話 水質調査と解熱剤
池の場所から反時計回りにぐるりと回って、小滝の上に回り込む。
この辺りも草原ではあるが、草木がちゃんと生えている。
手入れされてるわけじゃないので、私有地ではないのだろう。
エストマージっていってたけど、どんな国なのだろうか?
これから向かう町も、エストマージの国なのかな?
知りたいことは沢山あっても、知る術が乏しいし、マシェリさんに質問ばかりするのはよくない。
今はまず……水質調査に協力しつつ、ある物がないか入念に探そう。
――水の流れに沿って歩いて行くと、道中何度か獣と遭遇した。
今は水質調査中だから手出しはしないけど、マシェリさんは少し残念そうにしていた。
あの動物のお肉、美味しいの? 食べれるのかな。
それとも仕事の依頼で討伐の類もあるのだろうか。
「この辺りから色が違うな」
「そうですね……」
水の色を確認すると、この辺りから色が濃く変わっているように思える。
水場自体には問題無さそう。
なので、この場合は確か……「周囲の木と草を調べる……だったかな」
「なぜそう思う?」
「表面に確認出来る部分は、誰でもおかしいかなって確認しやすいんですけど、地に根を張るものに関しては目が行き辛いんです。だから気付かない要因になりやすくて」
「それも獣医には必要なんだな……」
「はい。目が良くない原因は目じゃ無かったり、歩けない原因が腰から来ていたりと色々ですから。近年では局所的かつ分析的に診るようになりましたけどね……あっ」
あんまり前世の知識を告げるべきじゃないよね。
心の内にしまっておこう。
「大したものだ。これは案外、とんでもない拾い物をしてしまったのかもな……そこだ!」
突如、一本の短剣を太い幹の木に投げつけるマシェリさん。
……あれ、虫? 凄い色してる。紫色の体液だ……。
「こいつは毒蟲だ。この木はもう駄目だろう。周囲の木にもいるかもしれない。この木が一番水場に近いが……まったく。私一人じゃ
毒蟲には気付いても、直接毒蟲が水場に潜って荒らしていたと考えていたかもしれない。ファウも掘るのを手伝ってくれ。毒蟲がいたら私が始末するから」
「はい。キュルル、ちょっと待ってね。お水はこっち飲んで」
「キュルルー」
濁った水を飲まないよう、あらかじめキュルルに十分な水を飲ませる。
この木の根が伸びる部分を掘り起こしてみると……案の定水場に根っこが地中から到達する形で伸びていた。
木の根は紫色に変色している。
「ここからあの毒蟲の毒が水場に?」
「恐らくはそうだろう。今のところ量が少なかったのか、大して被害は出ていない。だが、浸透すれば浸透するほど毒は流れて行き、多大な被害が出た可能性もある。これ以外の部分は……無さそうだな」
「そうですね。あの毒蟲の毒液を好む細菌がいるんですかね?」
「うん? そうなのか?」
「毒蟲の毒で濁った色じゃなくて、こう、川とか海の色が濃いのはそれだけ水中に微生物がいる証拠なんです」
「……そうすると、この毒蟲は寄生型の毒を植え付けるのか。厄介だな。報告しておこう」
「そうですね。それにしても良かった。僕、マシェリさんがいなければあの池の水、飲んでましたよ。きっと」
「そうだろうな……いや、直ぐに雨が降って来たからそっちを飲んでいた可能性もある。どちらにしろファウは運がいい」
「そうですね。マシェリさんに会えたんですから」
「ふふっ。それは今後、冒険で厳しさを味わった後も言えるかな……水質調査の残りは私がやる。ここで探し物があるのだろう? 終わったら私も手伝う。あまり遠くへ行かなければ、目的の物を探しに行っても構わない。毒蟲には気を付けろよ」
「はい! あるかどうかは不明ですが……ここより先であれば毒の心配も無さそうですね。見て来ます」
それにしても、木に寄生する毒蟲か……こういうのは前世も現世も変わらない。
いや、世界共通の理なのかな。
水質管理を怠ると、村や町が滅びるって言うし。
確か水俣病……イ病もそうだったけど。あれは人為的によるものだった。
こういった依頼が直ぐ出てるってことは、しっかり管理されている証拠にもなる。
さて……頑張って探さないと。
――それから、日が暮れ始めるまである物を探した。
そして、水質調査を終えたマシェリさんにも説明し、協力してもらった結果……。
「……あった。間違いない。本で見たのと同じ形。どう見ても紫蘇と同じ形だ。雑草の部類だから、何処にでもあるんだと思ったけど」
「それがバイオレというのか。かなり毒々しいが……そんな物、誰も手を付けたりしないぞ?」
「これ、間違いなければ食用です。動物も好んで食べるはずです。天然の染色料にもなるし、殺菌作用にも優れる物なんです……そうだよね。環境が草木を育む。同じ草や木があっても不思議じゃないか……」
「この葉っぱでいいのか?」
「茎や花も食べれますけど、この国の調理器具が分からないし、粉類の物とかもあるか。でも、摘み取っておきましょう」
「分かった。そういえば伸尖剣を持っていたな」
「はい。エストマージには無いんですか?」
「そんな物使う地域はオードレートくらいのものだよ」
「そうですか。便利だと思うんですけどね」
「いや……実際そこまで切れ味の鋭い剣にはならないからな」
そういえば、ハサミにしようと思ったけどダメだった。
万能ってわけじゃないんだろうな。
「見ていろ。はぁーー!」
あっという間に葉っぱを切っていくマシェリさん。
凄い……剣舞を見ているみたいだ。
ちょっと怖い。
「こういった動きは伸尖剣では出来ない。自分に合った剣を買った方が早い」
「杖の用途として使ったりしますよね? 三又にしてその先から一つずつ炎を出したり」
「そうだが、それならもっと上のラギ・アルデの力を行使する方がいいという者もいる。私は、使い手次第だと思うけどね」
つまり……あまり伸尖剣を使ってる人はいないのか。
でも、俺は使い続けたい。
これで……エーテを守れたのだから。
ラギ・アルデの力だって、もっともっと覚えないといけない。
「……よし、これくらいあればいいか?」
「はい。本当によかった」
「これをそのまま食べるのか」
少し草を払ってそのまま口に放り込むマシェリさん。
野性的過ぎる! さすが冒険者だ!
「わわ、ちょっと待って! 違いますって!」
「っ! 全然美味しくないな……」
「当たり前ですよ! そういう食べ物じゃありませんから。町の宿に着いたら、もう少しお話しましょう」
「そうだな。私も報告があるし……旅支度と、路銀ももう少し稼がないと」
「これから向かう町は、ここから遠くないんですよね?」
「ああ。日が完全に沈む前に到着したい。先を急ごう。アルメリアンの町へ」
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