第23話 アルメリアンの町、スーヴェルの宿屋
水質調査をしていた場所から、西寄りにその場所を離れると、まともな道のある所へ出る。
整備されているという程の道では無いけれど、
一応杭なんかも打ってはある。田舎のあぜ道って思える程の造り。
前世と比較すると、文明は発達していないのかもしれない。
オードレートはもっと酷かったわけだし。
「どうだ。オードレートと違って過ごしやすい気候だろう?」
「はい。全然違いますね。一年を通してみても、温かい日なんてありませんでした」
「あの地域でも生活出来るんだ。人とは凄いものだな。いや、凄いのはラル・ゾナスの影響もあるか……」
「え?」
「いや、何でもない。そろそろ町が見えてくる」
時計が無いからよく分からないけど、歩いて三十分位経っただろうか。
左右に作物の実る場所が見えてきた。
道も格段に整備されている土の道だ。
大きな石が無いだけでも歩きやすさは段違い。
正面には松明が灯っており、そこには頭まですっぽりかぶる鉄仮面を着けた
門衛のような男が一人立っている。
初めてみた! 一人で中央に立つ門番。
ちょっと格好いい。
全身鎧の武装って憧れるけど、重たそうだな。
「止まれ……貴様か。そっちの子供は」
「雇った。計算が得意な助手だ。これで足りるだろう?」
「先に調べるぞ。ルークアシェンダリー……よし。入っていい」
それ、マシェリさんが前に使用してたな。
何なんだろう?
「さぁ行くぞ。ファウ」
「ちょっと待て」
あれ、止められた? もしかして、キュルルが……。
「何だ、売却用か? いいぞ通って」
売却!? キュルルを解体して売ると思ったの?
異世界、おっかない……。
周囲がぐっと暗くなり、少し駆け足で先を急ぐマシェリさんの後ろをついて行く。
宿屋らしき場所に到着する頃には、すっかり暗くなっていた。
「ここだ」
「えっと……スーヴェルの宿屋……ですか」
「読めるのか!?」
「はい。読み書きは一通り勉強しましたから」
「……本当に驚いた。七歳というのは本当なのか?」
「はい。間違いないです。夜が最も短い日が七回訪れましたから」
「夜が最も短い……ああ、
「日絶?」
「立ち話してる場合じゃなかったな。早く入ろう。と言っても私が取っている
部屋だけどね」
「え……?」
そっか……お金持ってないんだった。
マシェリさんに面倒見てもらうしかない。
「あの。有難うございます。お金は返しますから」
「気にしなくていい。ほら入るよ」
気にしなくていいといっても、これは返さないと。
……宿の中に入ると、いい匂いが広がっていた。
食事時なのかな。入って直ぐに、大きなしっかりとした木のテーブルがあり、見たことが無いような料理が並んでいる。
「おう戻ったか。片づけちまうとこだったぞ……ん? 随分汚れてるな。それに子供連れて帰るとは……お前さんの子供か?」
「そんなわけないだろう! こんな大きい子供!」
「はっはっは。冗談だ。先に水浴びしてこい。着替えは……子供用の着替えなんて持ってるわけないか。おいビーア! 着替え、貸してやんな」
「はいよ……あら可愛い女の子じゃない。こんなに汚れて。奥に水浴び場があるから使って。時間ないから二人ともまとめてお願いね」
「だそうだ。行くよ、ファウ」
「えーー? でも、あの僕男……」
「ほら早く。お店の人、困らせたいのか?」
「はい……いえ、そうじゃなくて。はぁ……」
だから年頃の男の子だって! ちょっとは分かって欲しい。
やっぱ外見で判断なんてつかないか……男の二次性徴って、早くても十一歳位だよね。女の子が早いと九歳から十歳。つまりそれまでは見分けが付けられないのが当たり前で、しかも物心も付くかつかないかの頃だ……本来なら。
これが当たり前だけど、十八だった身としてはきつい。
もっと年上だったらどれだけ恥ずかしかったんだろう。
早く外の門番みたいに凛々しくならないとだよね……。
「キュルルも連れてって平気ですか?」
「大丈夫。ここの宿主は細かいことを気にしない、良い奴さ。だからこの宿に泊まってるの」
「そうですか……」
「ほら早く脱いで。自分で脱げないの?」
「脱げます! 恥ずかしい……」
「ははっ。子供がそんなこと気にするな。大人の男ならぶっ飛ばしてるとこだけどね」
絶対口が裂けても言えなくなった。
俺が転生者で十八だったなんて。
なるべく見られないように体を水で洗い流す。
本当、ドロドロだったんだな。
仕方ない。丸五日も外にいたわけだし。
キュルルはなるべく気を付けてあげてたけど、それでも結構汚れてる。
水で綺麗に洗い流してやると、とっても喜んだ。
「へぇ……この子。こんなに綺麗な色だったんだ。少しだけ青みがかった色も入ってるな」
「わあ! む、胸が……」
「仕方無いだろう、狭いんだから。ファウの髪もこんなにサラサラだったんだな。ほらほらー」
「ちょ、駄目ですって! マシェリさん!」
「はいはい。私先に出るから、キュルルを綺麗にしてやんな」
「はい……」
お風呂じゃないのは残念だけど、水で綺麗に流せるだけ幸せだな。
全然泡立たない石鹸っぽいのがあったけど、これはどうやって作ったんだろう。
貝と海草で作ったのかな。前世で売ってるような石鹸があるわけ無いもんね。
何せ科学の結晶のような物だし。
あんな殺菌効果も出しつつ汚れを落とせる良質な物、あるはずがない。
もし獣医をやるなら……この世界にある治療に使えそうな物をちゃんと用意しないと話にならない。
それに、知識が不足し過ぎている。
学校に行く前に死んじゃったから、精々知っているのは人間の生理学や解剖学、動物のちょっとした知識程度だもの。
学校があれば通いたいくらいだけど……。
せめてオードレートに戻るまでに、図書館のような場所があればいいな。
地理も含めてマシェリさんに聞いてみないと。
「キュルル。まだまだ大変そうだけど、僕、頑張るよ。お前を絶対育てて見せるから。一緒に空を飛んでくれるかい?」
「キュルルー!」
「おーいファウ! いつまで洗ってるの。ご飯、無くなっちゃうぞ」
「今行きますー!」
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