第20話 冒険者
笑顔のマシェリさんにいくつか質問してみることにした。
一番気になるのはやっぱり職業。
冒険者って言ってたけど、前世でも稀に見たような、冒険を生業にしてる人?
そうするとギルドとかもあったりするのかな。
ギルドっていっても色々あるだろうけど、薬草を取ってきたり未知の魔物の骨を拾ってきたり?
いや、そんなことあるわけないよね……でも、竜がいるんだ。
もしかしたら……ゴクリと唾を飲み込んで、尋ねてみることにした。
「最初の質問なんですけど……」
「なんだい? いっちょ前に胸の辺りなんか見て。さては私の胸の大きさでも気になるのかな?」
「ち、違います! そんな所見てません。冒険者って仰ってましたけど、それってどういう職業なんですか?」
「ああ。えーっとね……参ったな。オードレートには無いか。細かく説明すると大がかりになる。だから大まかな内容だけ話す。全世界において、四つの巨大国があるのは知っているか?」
巨大国? そう表現するっていうことは、ただの大国じゃ無いってことかな。
「いえ……僕が知ってるのはオードレートにある国のことくらいです」
「そうか。別にそれを気負うことはない。七歳でそんなことを知っている者なんてそう多くはない。絵本などを買ってもらえる貴族などは別だけどね」
「貴族……ですか」
「オードレートはその四つの巨大国と違い小国だ。四つの巨大国それぞれが発行する、ある物を所持すると、その者は冒険者として認められる」
「つまり国専属のお抱え騎士のような人たちってことですか?」
「そうだな。それに近いが少し違うな。国から直接仕事を与えられる場合はある。それは所属する国以外の依頼も含まれる……少し話が難しいか?」
「いえ! 大丈夫、理解できます。もっと詳しく教えて下さい!」
とても気になる話だ。もし俺が国所属の冒険者になれれば、国からの仕事も引き受けられるってことに違いない。
大きな仕事も請け負えるようになれば、キュルルが大きく育っても住める場所を確保出来るかもしれない。
「あの……僕の年齢でも冒険者になれますか……?」
「十歳未満で冒険者になった例は無い。最年少、十歳で冒険者になった女がいる」
「十歳の少女が? 国所属の冒険者に?」
「ああ。間違いない。何せ私のことだ」
「ええ!? マシェリさんって十歳から冒険者っていう職業なんですか?」
「一応そうなる。ちょうど十年……いや十一年目だな」
「十歳から十一年……マシェリさんは二十歳だったんですね……」
「? 随分と計算が早いな……まぁ、そう言うことだ」
もっと若く見える。前世の自分の一つ下、十七歳位だと思ってた。
「ふふっ。二十歳だってまだ若いだろう?」
「ええ。もっと若く見えました。それで、この辺りにはそのお仕事で?」
「私と君が初めて会った場所、覚えているか?」
「ええ。池があった場所ですよね」
「そうだ。その池の水質調査だ」
「水質調査……?」
「あの池は周囲に生息する動物の飲み水となっている。だが、近年その動物の肉に異常が出てな。それの調査だ」
「わぁ……国からの依頼っぽいです」
「これは直接指定の依頼だ。ベテラン向けのね」
「ベテランかどうかはどのように判別を?」
「それは……これだよ」
すると、一枚の首からぶら下げるメダルを見せてくれた。
これが……冒険者証? 銀色で綺麗だ。爪のような印が二個刻まれている。
「二ツメ銀任証。それなりの依頼は受けられる。私は単独活動しかしていない。隊を組めばもっと上を目指せるんだけど、苦手でな。野暮な男ばっかりだから」
「そうなんですか。あの……もし僕が冒険者になれないなら、僕がマシェリさんを手伝っても平気ですか?」
「もとよりそのつもりだ。ちゃんと稼いでもらうから、そのつもりでね」
「はい! ……もう一ついいですか? キュルルのことなんですけど、竜ってばれちゃったら、やっぱり不味いですよね」
「それは考えてある。町に着いたらまずは宿屋だ。その日は布巻だな。可哀そうだけど」
「僕の匂いがするのか、キュルルは喜んでるんですよね。でも、分かりました。そうだ! すみません。話は戻るんですが、水質調査はもう終わったんですか?」
「いや。時間に余裕はある。町に向かいがてら調べてもいいか?」
「はい。早速僕も……手伝えるか分からないけど、手伝います!」
色々分かったことがある。
七歳に見えても頭は十八だったんだ。合計すれば二十五。
今のマシェリさんより生きた年数は年上なんだ。
きっと役に立てる……はずだ。
何のために勉強していたかを思い出すんだ。
絶対生きていく上で、役立つことも詰まっていたはずだ。
なにせ異世界だ。同じように上手くいくかは分からないけれど。
重力や大気の原理は一緒。太陽だってほとんど同じに見える。
地球よりオゾン層の破壊とかも進んでいないだろうし、大気も綺麗だと思う。
水質調査が最初の仕事なら、飼育委員だった自分にはちょうどいいのかも。
「よし。それじゃ今日はもう寝よう。寒くないか?」
「はい。暑いくらいですよ」
「キュルルー……」
「そうか。そうだよな。オードレート……か」
そう呟きながら、火が消えそうだったので、マシェリさんは乾かしていた着替え終わった方の服を放り投げて燃やしてしまった。
置いておいた枝がもう無かったからしょうがないけど。
枝をもっと置いておけばよかったな。
いいのかな。洋服って結構高いよね。
何か凄く申し訳ない気持ちになる。
「枝が少しでもあって助かった。無ければ暖を取るのも難しかった。こういうのは偶然だったとしても、本人の性格が出る。余力などを残して行動する癖があるのはいいことだぞ、ファウ」
「そうなんですか? オードレートだと吹雪が定期的に訪れるんです。だから常に備蓄を残しておかないとならなくて」
「過酷な環境であることは知っていたが、断絶された地域はそれほどか……」
この日はそのまま眠りに着いた。ここで寝るの、三回目だよね。
でも、寒い布団を取り合って寝るのとどっちが良かったんだろう。
……エーテ、大丈夫だったかな。トーナ、元気にしてるかな。
母さん。父さん。ご免なさい。必ず戻ってみせるから。
それまで、元気で待っていて。
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