第13話 グラヒュトウル戦

 高さ二メートル、幅一メートル以上はある巨体。それが三匹も。

 急いでポーラルを吹き、威嚇する音を発っしてみるが……全然動じていない! 


「怖い……どうしよう、どうしよう!」

「僕が注意を引くから、エーテは逃げて!」

「嫌! 私だけ逃げるなんて嫌!」

「じゃあ一緒に走れ! コートアートマ!」


 片方の手でエーテを引っ張り、もう片方の手で三又の形に伸尖剣を変え……以前のトラウマを振り切るかのように目を瞑り、詠唱した。


「ガルンヘルア!」


 炎が三つ、勢いよく放出されるのが分かる……しかし、以前出した大きな炎とは比べ物にならない程に小さい。

 あの時の力は……なんだったんだ? 

 こんな小さい炎じゃ、全然猛獣を追い払えない! 

 どうしよう。どうにかなると思ってたのに……。



「なんでだ……どうして。ガルンヘルア!」

『グオオオオーーーーーーーーーーーン!』


 猛獣は炎をかいくぐり、三匹共横一列に並んでこちらへ差し迫って来る。

 俺はエーテを連れて急ぎ足で逃げる。

 幸いにも雪が深い影響もあり、ラギ・アルデの力を使用しているこちらの方が若干速い……だが、そう容易く逃げられるわけはない。

 家までだって、まだまだ距離がある。

 このままじゃ体力切れで、必ずこちらに追いつかれる! 


「エーテ、落ち着いて聞いて。僕にいい考えがあるんだ」

「何? どうしたらいいの?」

「エーテは思い切り家の方に逃げるんだ。僕があいつを反対の方に追いやる。その後すかさず家の方に逃げる。あっちの切り立った方へあいつらを落とす。伸尖剣の長さを変えて」

「でも、危ないよ! 雪の見えない部分には近寄っちゃダメってお義母さん、いつも言ってた! それに失敗したら……」

「このまま二人狙われてると、伸尖剣の攻撃を当てられないんだ。失敗しても僕の方が足が速いだろう? その間にエーテは母さんたちに知らせてくれ。きっと何か対策を知ってるはずだ」

「分かった……でも私の方に来たら……」


 俺はエーテと少し離れると、ポーラルで相手の注意を引き寄せる。

 更にガルンヘルアを何発か打ち込む。 

 ――すると、案の定こちらに注目し、三匹共俺の方へ向かって来た。いいぞ! 

 足がすくむ。それでも……これでエーテは絶対助かるはずだ! 


「エーテ。今だ! 絶対何があっても戻ってきちゃだめだからな! エーテに何かあったら、僕はエーデンさんに合わせる顔がない!」

「ファウ……」


 ギリギリまで引き寄せるんだ。エーテが見えなくなるくらいに。

 ここで女の子一人守れないようじゃ、この先ずっと、生きていけるはずなんてない! 怖い……勇気を振り絞れ。もっとだ。近くに来い!  


「こっちだ! 追いついてみろ。鈍足の獣め!」

「グオオオオーーーーーーン!」


 わざとペースを落として少し近づかせる。

 どう見ても自分よりずっと大きな相手。

 こんな獣に伸尖剣が刺さるのか? 


「今だ! コートアートマ!」

『グオオオオーーーーーーン!』

「やっ……た。けど……」


 綺麗に三匹突き刺すことには成功……した。

 だが、そいつらは伸尖剣に突き刺さったまま、俺を襲おうとしている。

 手を離すわけにはいかない。手を離せば、俺を食い殺してそのままエーテのところへ向かうだろう。

 でも、三匹の獣の力が強すぎてどんどん押される。

 どうにか地面に柄を突き刺せないか……一か八かだ! 


 ――ざくりと地面に伸尖剣を突き刺すことに成功した! 

 いきり立つグラヒュトウルは斜めに持ち上がり、三匹のグラヒュトウルが、自らの押す力で宙に持ち上がる。


「よし、やった……あ……!?」


 次の瞬間だった。

 重みに耐えきれなくなった地面が、音を立てて崩れ落ちる。


『グオオオオーーーーーーン!』

「うわぁーーーーーーーーーーーーーー!」

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