第12話 聞き覚えのある遠吠え
家に戻って母さんに魚を届ける。釣りあげた魚の多さにとても喜んでもらえた。
トーナはそのまま魚の仕込みと料理を担当するので、ここでお別れ。
少しだけ仏頂面だったが、そういった表情が可愛らしくてよく似合うのがトーナだ。
俺はエーテと一緒に伸尖剣とボーラルを持って、少し離れた場所にある峡谷付近へ向かう。
ここは去年、一度だけ父さんに連れられて訪れた以来だ。
少し危険な場所だが、周囲で取れる木材はどれも燃焼がよく、薪にするには欠かせない。
枝は重たいので、一度に多くは運べない。
ひきずる形であれば子供二人でも十分な量を運べる。
そのため伸尖剣の先に紐をくくりつけておき、これで引っ張るというわけだ。
俺ももう七歳。体を鍛えることに重点を置いたので、同じ七歳同士で見ても力はある……と思いたいが
背があまり伸びていない。
きっと晩成型だ! って信じてる。
父であるオズワット・ブランザスは背も高い。
母であるカティーナ・ブランザスも背は低くはないように見える。
今の自分からはどちらも腰位しか背丈は届いていない。
足、長いなーという感想が浮かび上がる位だ。
七歳になったってことは、禁止されていた伸尖剣を使える……には使えるのだが、長さ調節だけにしておくつもりだ。
「コートアートマ」
以前よりスムーズに長さ調節が行われる。形状はさすまたのようなUの文字型をした形状に近い。
こうなるように調整したに過ぎないが、この形であれば枝をかなり運びやすくなるのだ。
「ファウ、凄いね。随分使って無かったのに直ぐ出来ちゃうなんて」
「イメージするのが大事だぞって父さんに言われてたからね。でも本当に不思議な剣だよね。どうやって作られているんだろう?」
「分かんない。私も少し触ってみてもいい?」
「いいよ。エーテもポーラルは持って来たよね?」
「うん。お義母さんにもらった初めての贈り物だから。ずっと持ってる」
「もし何か危ないものとかを見つけたら、思いっきり吹いて。直ぐ行くからさ。それと渓谷は足下が危ない場所も多い。怪我しないようにね」
「そだね。気を付けるよ」
二人で雪道を歩いていくと、しばらくして渓谷が目に入る。
日が沈まないうちに沢山集めないと。
幾ら同じ七歳とはいえ、エーテは女の子。
食も細いし腕だってか細い。出来る限り俺が頑張らないといけない。
基本的に集めるのは落ちている枝だ。
雪で湿っていてこのままでは使えないから、家に戻ったらよく乾燥させる必要がある。
よく乾燥させると本当に良く燃える。
油を注いだってほどじゃないんだけど。
それにしても、湿っているから本当に重い枝だ。
雪原の暮らしと言うのは何から何まで厳しい……。
――程なくしてそれなりの枝が集まった。
それらの枝を急いで束にしてまとめる。下にはそれを上手く引きずれるような布が敷いてある。
こうするとうまく運べる。その布にはもちろん、ラギ・アルデの力で雪道を移動出来るよう工夫がしてある。
エーテも随分と頑張ってくれたから思っていたよりは早く終わった。
でも流石に疲れた表情をしてる。
そろそろ戻らないとかな。日が暮れて夜になったら危ないし。
――そう考えた矢先の事だった。
【グオオオーーーーーン】
突如、ビリビリとするような遠吠えが、耳をつんざいた。
今のは昔から何度も聞いた遠吠えのような音だ。
一体何が……悪い予感がする。
「エーテ。急いで峡谷から離れよう」
「今の声、何? 凄く遠くまで響くような声だったよ」
「分からない。ずっとずっと遠くで聞こえてたはずの音がこんなに近くで聞こえるなんて……ダメだ。仕方ないけど枝は置いて行こう。あ……ああ!」
――伸尖剣から枝を外して、エーテの手を引いて立ち去ろうとした時だった。
峡谷から出てきたのは……何年も前に本で見た猛獣……グラヒュトウルだった。
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