コタツで寝てただけなのに妻にヤキモチ焼かれた話

水長テトラ

コタツで寝てただけなのに妻にヤキモチ焼かれた話




 今年のお正月は両実家の都合により、年末に俺の実家の方にだけ帰省を早々済ませて新年はのんびり二人で寝正月を決め込むことになった。


 おせちとミカンと餅をたらふく食い、じんわりと優しくあったまるコタツに肩まで突っ込むと、弾丸帰省の疲れなんてたちまち吹っ飛んでいくのだった。


 すると足に何かぶつかってくる。この細さと曲線は妻の脚に間違いない。俺と妻しかいないから当たり前だが。

 しばらくなぞったり脚を絡めたりしてじゃれていると、「うきゅ~」と寝言のような鳴き声のようなはっきりしない音が妻の口から漏れた。


 寝返りを打って桜の花びらみたいな唇をこっちに向けてくる。

 眠ってる妻の顔は無防備で、こうして眺めているだけでドキドキしてくる。


「むにゃあ!」

 すると全身を大きく震わせてぶるぶるした後、薄っすらと目を開き始めた。


 目が覚めたらしいが、まだ寝ぼけてるのかジト目でこっちをしげしげと睨んでくる。

 機嫌が悪いときの顔に似ている。



「おはよー」


 俺のあいさつを無視して妻はますます険しい顔で睨んでくる。


「したでしょ……」

「何を?」

「浮気したでしょ!」

「は?」

「浮気したでしょ! 夢の中で!」

「何言ってんのお前?」

「ひどいひどいひどい! 私というものがありながら~!」


 そう言って腕を引っ張ってくるものだから、起き上がらずにはいられない。


「落ち着けって。いったいどんな夢見たんだよ?」

「あなたが、知らない女の人と腕組んで、楽しそうにベタベタひっつきあって……。キスまでしそうになったところで、私泣き出して目が覚めちゃって……。あんな夢見させるなんて、ひどい……」


 そう言ってるうちにも、妻の眼がどんどんうるうるしてくる。

 メチャクチャ理不尽な話だが夢の中の俺の不貞は、本物の俺が始末をつけないといけないらしい。


「夢だから大丈夫だよ。俺は浮気なんかしないし……」

「でも、初夢って正夢になるんでしょう? 今は浮気なんかしなくても、いつか実際に起きたりなんかしたら私、怖くて怖くて……」


 妻は首を振って耳を塞ぐ。頑固モードに突入してしまった。


「ほら、お餅でも食べて忘れろ。さっきは砂糖醤油だったから今度はきな粉で食べる?」


 コタツから出ようとする俺を、妻が袖を引っ張って引き留める。


「証明してくれなきゃヤダ……」

「証明?」

「一生浮気なんかしないって証明!」

「しない! 絶対に!」

「本当に?」

「本当!」

「……誓いますか?」

「誓います!」


 俺は挙手して大声で宣誓する。


「じゃあ、誓いのキス!」


 妻が目を閉じて、さっき寝ていたときと同じ顔と唇になった。

 待ち遠しげに震える唇にキスすると、肩と肩がぶつかり合ったのでそのまま抱きしめる。


「もっと、ぎゅーってして……」

「はいはい」

「このまま一緒に台所に行く!」


 結局抱き合ったまま二人で台所に餅を焼きに行った。

 今年も俺の妻は心配性で甘えん坊だ。


(これは記念日のサプライズとか、こそこそ動いて逆にあらぬ誤解を招かないように気をつけて行動しないと……)


 だらだら過ごす寝正月だったのに、ぎゅうと抱きつかれている腕と共に身が引き締まる思いがするのだった。




 〇 〇 〇







【挿絵】コタツから出るのを妨害してくる頑固モードの妻


https://kakuyomu.jp/users/tentrancee/news/16817330669402485786



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コタツで寝てただけなのに妻にヤキモチ焼かれた話 水長テトラ @tentrancee

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