第30話 人外地獄迷宮決戦⑦
第五層『無限鏡面虚大回廊』
第六層『絶対走破悪路罰徒』
第七層『絶滅危険種生存圏』
全部突破したぜ。
どれも滅茶苦茶強かったな。
それぞれ章を設定してひとつあたり十話割いても語りきれねーぐらいの大激戦だったぜ。
それで、ここは───
と。
嬉土水門は思考して、その直後に、それを見る。
「第八層。コンセプトは『闘技場』だ。門番は、私───アッシャーが努める」
巨駆。
超大な鉄槌と義手を携えた巨駆の女がそこにいる。
円形。
古代ローマのコロセウムを模したような円形闘技場の中央で両者は相対する。
「へえ……生きてたのかよ」
「残念か?」
「いいや、最高に嬉しいぜ……!」
「勇者にそう言われるとは───私としても、滾らざるを得ん」
二人は、向き合って。
笑い合う。
「手加減抜きだぜ」
「無論。全力で来い」
──────
勇者VSアッシャー。
互いに鍛え抜かれた超人的肉体の持ち主。
だがその勝負は、既に決している。
物語の初期。水門の登場の瞬間に、アッシャーのハンマーを防ぎ、更には他二人ごとまとめて撤退を選ばせているのだった。その後も、勇者は自らの数倍かけてアッシャーが『ダリア』を攻略すると推測しているなど、両者の間には明確な差が存在している。
故にこの勝負、この世界が誇るパワーVSパワーの正面対決は、勇者の勝利で幕を降ろすことが確定している。後はアッシャーがどれだけ食い下がれるか、意地を見せるか、輝いて魅せるか、それだけが注目される要素と言えた。
ましてや今のアッシャーに『
王権対決にすら成り得ない。
勝ち目などありはしない。
その筈であるが───
───先に、踏み込んだのは、アッシャーだ。
無言、されど放たれた気合いは超弩級。
勇者の足を、止めるほどに。
間合いは刹那の間に詰められた。
振り下ろされる巨大塊。
それはさながら隕石衝突。
流星落下にも等しい破壊の気配を感じさせる、必滅の一撃!
嬉土水門はかつてのような防御を選ばない。
全速力で後退した。
その、コンマ数秒前まで彼女の直立していた大地を打ち据え砕く鉄槌。
コロシアムの石畳が粉砕され、瓦礫が宙を舞う。
その瓦礫を、素早く横薙いだハンマーが片っ端から打ち出していく。
イメージとしては散弾銃。ただし一発が常人にとって即死級の弾丸だ。
だが───相対するは超人なり。水門はそれらに対しての防御を選択する。
が。
その打ち出された瓦礫を、後方から追い抜いて迫るのは再び踏み込んだアッシャーだ。
───フェイント!
防げると確信できる瓦礫の弾丸で防御を誘い、そのガードを上から捩じ伏せる。
圧倒的破壊への道筋を成立させるのは、『
再度の鉄槌。
戦雷の神の一撃にも劣らぬ超越の壊が、勇者を、捉えた───!!
静寂。
次いで、大轟音。
勇者は、笑う。
「いいじゃねえの!!」
その目をキラキラと輝かせて。
「最高だぜ。バトルってのはこうじゃねえとな!!」
───目隠しが、外れている───
鉄槌を、クロスさけた両腕で防ぎ。
───銀河のように深く蒼い瞳が───
力むと共に腕をXを描くように開いて、ハンマーを弾く。
───喜びに満ちて、嬉しそうに───
その重さに、アッシャーは驚愕する。山ひとつが丸ごと進撃してくるような重量が、今の腕からは感じられた。
一筋縄ではいかないだろうというのはわかっていた。
故の短期決戦。最速で攻めて、必殺する。発動前に破壊すれば、あらゆる罠は意味を成さない。威圧で先制し、初撃から続く一連の流れで一気にゲームセットを狙ったのが、アッシャーの戦術だった。
けれど、それを防がれた。
後に残るのは、下馬評通りのワンサイドゲーム。
「アタシの全力受け止めてくれよ、アッシャー!!」
───いいや違う。
アッシャーにも、切り札はある。
───
「君にはそれの方が似合ってるよ」
大魔王はそう言って、黒猫に殺されかけた彼女へ、義手を与えた。
腕輪の形状をしていた『
その義手は薄気味悪いほどピタリとあった。
「今回助けたのはね。君にやって欲しいことがあるからなんだよ」
それは超越者の眼だった。
蒼い瞳が、アッシャーを見据えて。
「だからそれまで、死なないように」
───
魔具『
その効果は、重量の操作。
低重力にも高重力にも、周囲を変化させるその魔具は、極論時間も空間も全てを司るものである。
アッシャーはそれを発動する。
「おっ」
勇者にかかる重力が百倍まで跳ね上がった。
動きが止まる。
そこにアッシャーは突っ込んだ。
重力の檻は、振り下ろす攻撃の場合最高の加速装置にも成る。
ハンマーを振り上げ、重力圏めがけて振り下ろした。
その時───アッシャーの攻撃能力はかつての比ではなくなっていた。
『
適応能力の代わりに多くのものを捨て去った彼女は、今───己の信じる一撃のために全てを注ぎ込めるようになったのだ。
もはや揺るがない。
不変不屈の意思を得た彼女は今、勇者を下す!
「はァッ!!」
「く───はははッ!! いいじゃねえの!!」
誤算があるとすれば。
「けどまあこの程度の重さ、慣れてるんだよ、アタシはなあ!」
王権の中でも最強の封印能力を持つこのレガリアを、水門は自らに対して使用している。
これにより封じられた彼女の能力は。
今、完全解放が為されているために。
───封印時の百倍を超す総合値を叩き出す。
鉄槌を防ぎ。
重力を引きちぎる。
なおもかかる負荷の虐を知らぬと笑い踏破する。
まさに怪物。
人の身をした力がそこにある。
「さあ───決着だ、アッシャー!!」
「……そうだな。なら、終わらせよう」
その超越に対して、アッシャーは一歩も退くことなく。
ハンマーを叩き込む。
粉砕される。
鉄槌が木っ端微塵に砕け散った。
「は───あァッ!!」
迫る拳を、彼女は避けず。
それが、決まり手となりて、決着する。
パワーとパワーの激突は。
「楽しかったぜ。アッシャー」
勇者の勝利で、幕を降ろす。
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