第25話 一人で歩けたら


 ボクは───何故、戦うのだろう。

 生きるためだろうか。そうだ。生きるために戦っている。

 けれど、だ。

 そもそもの始まりは死だ。

 そもそもの始まりは、ダリアが死にかけているところに出逢ったからだ。

 そして彼女に命を与え、ボク自身は死を選んでいる。

 矛盾している。

 相反している。

 これはアッシャーとの戦いでも感じたことだ。

 あの夜のボクは、自死を選んだ。

 なのに今ボクは、生命を選ぶ。

 選択して、戦闘する。

 矛盾というか。

 根本から違えている。

 死を選んだ癖に生に執着し、その癖死体を活用し、死を手段として扱い、挙げ句の果てに命を奪った。

 一貫、していない。

 貫けずにいる。

 意思を。

 それはそうだ。

 ボクは、最初から違えている。

 間違って生まれている命であり、心なんだ。

 それは多分、一年間の昏睡から目覚めた二年前。そこから始まっている。解答用紙のマークを、ひとつずらして記入しているような人生。それが今の、ボクの生涯だ。

 いつまで間違え続ければいいのだろう。

 どこまで間違え続ければいいのだろう。

 答えなんかない。間違っていることはわかるが、正解は最初から存在しない。

 だから、正解を求める。

 その場その場の正解を切り貼りする。

 ───漫画のセリフに間違いはない。アニメの言葉には正解しかない。小説の文節には真理があって、物語られる全てのものは、確固たるエネルギーに溢れている。彼らのセリフは、力ある言葉だ。創作物の言葉こそ、究極的な力そのもの。だからボクは、それに頼る。

 確かなものは、それしかないから。

 頼らないと、生きていけない。

 カッコつける。

 カットアップ。

 コピー&ペースト。その繰り返し。

 正解を切り貼りする。

 間違いの上から塗り、貼り、潰す。

 それがボクの生き方で。

 けれど、あまりにも醜い。

 世界は正しさを保障しない。

 でも心は正しさを信仰する。

 そしてそれは生き方にも現れる。

 ボクはその点弱く、醜く、他人本意で、誰かに助けてもらわないと呼吸すら間に合わない軟弱だ。生き方という点では、出逢ってきた全ての人に劣るだろう。

 例えば。

 大迷宮の番人として常に生存に執着した少女。

 絶対的な自己を存分に振るい享楽する勇者。

 変幻と自己の相対に苦しみながら選択する崩し屋。

 愛するために死を越えた少女。

 愛するために死を越えた少女。

 生きるために強かな策士。

 勝ち取るべく卑劣すら選んだ鏡の向こう側。

 死を越えて生を嗤い吸血する吸血鬼。

 死を越えて生を請い投球する爆弾魔。

 おぞましき上位互換。

 あいすべき大魔王。

 そして、一人だけの友達。

 彼らは皆己の正しさを信じた。

 そのあり方はボクとはあまりにも違いすぎた。

 手を伸ばしても届かないことは明らかであり、そんな彼らと並び立つためにまずは命を捨て、王道を捨て、正道を捨てて、人道を捨てた。廃棄する度加速して、加速する度取りこぼした。

 この物語は、だからそう。救って繋げるものではない。失う度に軽くなり、その都度加速し取りこぼす。犠牲と廃棄の物語だ。

 劣悪と無能と怠惰と汚濁と愚鈍と邪悪と裏切りと犯罪と欠落と堕落と嫉妬と虐殺と欺瞞に聖母のような優しさを向ける世界にあって正しいと信ずる何かを貫ける人間はそれだけでどうしようもなく大不正解だ。それ故に何より輝いている。

 彼らは不正解に躊躇しない。何故なら彼らの中ではそれは正解であるからだ。世界の不正解と自分の正解をぶつけ合わせて、平然と後者を貫く強さを一貫性と呼ぶ。

 嵐のように強い。

 死のように理不尽だ。

 そうあれない者にとってはね。

 劣悪と無能と怠惰と汚濁と愚鈍と邪悪と裏切りと犯罪と欠落と堕落と嫉妬と虐殺と欺瞞に聖母のような優しさを向ける世界にあって正しいと信ずる何かを貫けない人間は、それだけでどうしようもなく大正解です。こんな世界で大正解なんて取る人間は生きている価値ないけどね。

 死ねよ。

 死んでしまえばいい。

 駄目だ。

 生きなくてはならない。

 どうして?

 ボクには彼らのように貫ける光はない。

 成し遂げられる何かはない。

 それなのにどうして生きていることを選べるんだ。その癖どうして簡単に死ねるの?

 どうして? どうして? どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?

 その疑問に答えよう。単純明快に答えよう。

 戯言でも嘘でもなく、冗談でも狂ってもなく。

 あくまでもボクは泣ける。嘘をつかずにボクは愛する。ボクにうってつけの犯罪なんか起こらない。煙か土かそれともボクだ。死の線なんぞ見えてたまるか。

 そんなボクは、どうして生きているのだろうか。

 答えはひとつ。



 どうでもいいだろ、そんなこと。



 さあ戦おうぜ、爆弾魔。

 まずはお前から、脱落だ。

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