VS黒猫
第18話 共に『不死』の果てまでも
『織機有亜の涎の臭い知ってるか? 意外と普通なんだな。くさいってことだよ。ギャハハ───』
「今すぐ戻ってやるから織機を離せ」
『離さねえよバカ。戻らんでいいぞ。僕に王権の場所さえ教えてくれたらそれでいい』
「……ッ」
『言えねえんだ。だっせえの。いいか? 友達のために命を張れねえ奴は友達とは言えない───さあ、死ねよ。王権の在りかを教えて、友情を証明して、死ね。僕はデュオニュソス王だ。友のために死ねよ、メロス』
「ああ、わかった。ボクは死のう」
『ダ、ダメ…………ははっ。おもしれーの。こいつ、ただでさえ足りてねー空気を、お前を止めるために使いやがった。健気だな。偉大だよ。お前の友達は命をかけてお前を止めようとしてるぜ。お前も
そうだな。
ボクは、死ぬべきだ。
───死ななくても、ボクの勝ちは揺らがない。
何故なら既に四十分以上経過している。
織機を見捨てても、二十分教えてやらなければボクの勝ちなんだ。
でも。
織機を見捨てて、勝ちはない。
そんな勝利には、価値はないんだ。
何より。
そんな計算を思い浮かべてしまったボクは、人間として失格で、友人として脱落だ。
だから。
そうだな。
ボクは、死ぬべきだ。
なので、大鴉に突きつけていた刃を、ボクは。
自害する。
自分の胸にぶっ刺した。
へえ。
意外と痛くないんだな。
いや、度を越した痛みが酷すぎて、一発で痛みを感じる部分が焼き付いたのか?
なんて下らないことを考えているうちに視界が暗く
唐突に意識が回復した。
寝ていたことにすら気付いていなかったような、そんな気分だ。
落ち着いて体を起こす。
「よお、黒猫。死んでやったぞボクは」
「……へえ。そういうのもあるのか」
死ねと言われたので心臓を突いて自害した。
その結果何が起きたかと言えば。
ボクの死体が二つある状況が生まれたのだ。
大鴉の前で死んだボクと
迷宮に転がっている僕。
この二つの死体が生まれて。
そして迷宮の持つ『不死』の王権機能は。
当然王権に近い位置にある迷宮内部の死体を蘇生した。
よって今、ボクは腕と足を再生させ、黒猫の前に立てている。
黒猫。
あの夜は一切姿を見せていなかったが。
「ボクは鏡を見せられているのか」
その外見は、ボクだった。
髪型も、眉毛も、目も、鼻も、口も、顎も、喉も、首元も、肩も、右腕も、座高も、腰も、足も、輪郭も、身長も、何から何まで、ボクと一致している。
ただ一点。
左腕───織機をつかんでいるのとは、逆の手だけが違っていて。その手は、手首から先が波打つような刃渡り一メートルの刃へと変形している。
変形している。
変形している、肉体。
肉体の、変形。
気になってはいたんだ。
大鴉(偽)に混じって迷宮に侵入する時、どうやって混じったのかと。
何のことはない。
「『
「正っ解」
何に変身したかなんて、どうでもいいんだ。
紛れられる物の候補は上げきれない。
それらは───実際に起きた侵入者探知の合図やダリアからの言葉がなかったことを踏まえて───ダリアの感知は逃れられなくとも。
人間一人の侵入は、偽者の大鴉だと勝手に判断してもらえる。
後は適当に紛れて隙を伺っていればいい。
実に便利な王権で。
それを使いこなしている。
恐らく、元の持ち主以上に。
元の持ち主。アッシャー。
「アッシャーから、奪ったのか」
「お前が大鴉から魔具を奪ったのと同じだ」
「アッシャーは?」
「元相棒とよろしくやってるよ、あの世でな」
「そうか」
それが本当か嘘か、正直どうでもいい。
だが厄介なのは。
恐らくこの黒猫という人物は、己の原型に一切の執着がないだろうということ。
つまり。
その全性能を。
こいつは引き出せるというわけだ。
だが、関係ない。
「織機を離せ」
「確かにお前は死んだが、別に死んで欲しかった訳じゃなく、結果的に死ぬ、王権を渡すという選択をしろ、と言ったんだ。国語の成績何点だお前」
「これは懇願じゃない」
「あ?」
「今なら殺さないでおいてやるから織機離せって言ってんだよ」
「ギャ───ハハハハハハッ! お前分かってんのかよ、状況を!! 僕を? 殺さないでおいてやる? ギャハハッ……バカがッ! お前分かってねえな。僕をアッシャーや大鴉と一緒だと思ってんじゃあないか? 口八丁で時間稼いでひっくり返せる程度の相手だと。そう思ってんなら御愁傷様だァ。僕は国家探索者。非公認のライセンスなしとは違い、ライセンス持ちの国家公認探索者、それも六層探索者なんだよ。それを相手に口と策でどうにか出来ると思うなよ」
「言っても分からないか」
「あ?」
「もう一度通告する。織機を、離せ」
「なら王権の位置を教えろ───」
いや。
教えない。
教えなくとも、終わりだ。
「通告したぞ」
ボクは、人間ではない。
友達でもないんだ。
ボクは、とうの昔に壊れてる。
多分、妹が死んだときにでも、壊れたんだ。
そして、二年前にも。
ボクの記憶が欠落してる、闇の始まった頃。遡れるギリギリの、その先。二年前。あの時に。
そして、今。
心だけでない。精神だけでない。肉体までも人間ではなくなっている。
だから。
今。
「後悔するなよ」
───ボク。
は。
人間であることを、やめる。
「この迷宮の王が誰か、教えてやるよ」
そして、ボクは。
始まった瞬間、勝利していた。
この迷宮がボクの体でできているなら。
ボクにだって動かせるはず。いや、動かせないとおかしいだろ。
今までダリアに任せていた迷宮管理。その全てを、ボクが制御する。
擬似神経回廊創出接続。
基底骨子解明変則連結。
静脈通路/光速航行。
ああ、そうだ。これが、本来の在り方なんだ。
ボクの胸に埋め込んだ『不死』の王権がドクンと鼓動する。あるべきカタチに戻れることを喜んでいるようだ。ボクも嬉しい。嬉しくて嬉しくて、吐きそうだ。
脳髄発火/超電反応。
ヒトがダンジョンになるというのは、すなわちこういうことなんだ。
それは世界で最も速い変革。
百合の宮殿を置き去って崩壊していく理性の断末魔を切断する。
減速拒絶/絶対加速。
停止を拒め。走り続けろ。回れ回れ回れ。
止まらないことこそが、ボクの証だ。
振り返れるカコなんてない。
突き進んだ先のミライだけがボクをカタチ作るのだから。
重力を踏み砕き時間を逆回し、赤熱の揺り籠から飛び立ちて、今こそ恒温する最高速の摩擦を以て、此処に燃え尽きて不滅の星へ至る。
動脈通路/至超光速。
一方通行。
後戻らない。
ボクは今、ミライを得る。
ここで全てに幕を引け。
『
───地形が変わり。
黒猫の体を、急速に槍のように盛り上がった地面が、突き飛ばした。
「ガッッ」
もちろん織機は、別の腕のように盛り上がった床でくるみ、助け出した。
「迷宮に、成ったのか、お前ェッ!!」
「外道に、勝ったのさ、ボクはッ!!」
「ほざけェッッッッッ!!!!!!!」
黒猫の姿が変容する。腰から姿を見せたのは二本の尾。それらがグニャリと蠢いて、その蠢動に影響されるよう、黒猫は変幻を開始した。
だが、それを許さない。
「全魔具契約。一斉起動」
「……マジか」
「全門全解放。大葬掃射」
適応するというのなら、それ以上の火力と属性を───すなわち、適応しきれないだけの規模を叩き込む。
それが今のボクには可能なんだ。
四千九百四十四個の魔具を一気に放ち、それを持続させる。
四千九百四十四個の魔具を一気に放ち、それを持続させる。
四千九百四十四個の魔具を一気に放ち、それを持続させる。
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四千九百四十四個の魔具を一気に放ち、それを持続させる。
四千九百四十四個の魔具を一気に放ち、それを持続させる。
四千九百四十四個の魔具を一気に放ち、それを持続させる。
四千九百四十四個の魔具を一気に放ち、それを持続させる。
もう、黒猫の跡形も残っていない。
ギャハハハハハハッ───あ───つまんねえぜ。泣けてくる。吐きそうだ。何が悲しくて、ボクの最初の殺人がお前なんだ。
(いいえ、それは違います)
脳に───そんなものがまだ残っているならば。流れ込んでくるダリアの声。
ああ、そうか。
イマジナリーじゃない。
もうボクは、ダリアなんだ。
(あなたが初めて殺したのは、自分自身)
そうだったね。
今のボクはこの迷宮の全てを操れる。細部の、壁の床の天井の柱の材質の一欠片に至るまで神経が行き渡り、手足のように扱える。
(あの夜、私を救ってくれたあの選択は、あなた自身を殺すものだった)
もはや誰にも攻略不可能。
ダンジョンに成って理解したよ。
迷宮は、『攻略されることを望んでいる』。
でも、ボクはそんなもの望まないから。
徹底的に攻略を阻む怪物となろう。
(さあ、行きましょう、
第二戦。VS黒猫、決着。
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