第15話 死力を尽くして競い合おうか
「想定してた防衛機構って、これですかあ!?」
「ギャオス」
「いや、本当は違ったんだよ。なんか初手で揃っただけで」
ダリアは仕事をしてくれていた。複数階層を束ねた巨大空洞が完成している。
そんな廃墟の大空間に、死竜が君臨している。
「ここだけの話、当初想定してたのはパーティーからクビ・追放された探索者を採用しての防衛だったんだ。その為の伝もあった。でもまあ、最初に竜連れてこれたからもういいかなって。……ちなみに、竜連れてくるの、ダメだった?」
「そんなの……ダメなわけないですよ!! 竜! 竜!! ドラゴン!! 最高です!!」
「おわっ」
「ダンジョンにはドラゴンですよ!! 私もずっと置きたかったんです!! 屍なので『不死』が効かないのは残念ですが。でも! 最っ高!! やったーーー!! ありがとうございます!!」
そしてそのままの勢いで累々のもとへ走っていって。
「ありがとうございます! ドラゴンマスターさん!! ええ! あなたはドラゴンマスターです! え? 本当はネクロマンサー? じゃあネクロドラゴンマスターですね!! ずっと憧れてたんです、迷宮にドラゴン置くの! 本当にありがとう!! 寝食の提供ですか? なんなりと! なんなりとおっしゃって下さい! この
ボクより敬意払ってないか。
累々ドン引きしてない?
まあ、いいや。
とりあえずこれで防衛の準備は整いつつある。
後必要なのは……と考えていると、勇者が声をかけてきた。
「お疲れさーん」
「
「またデッケーの連れてきたじゃん」
「ええ。罠を作成する時間が無さそうだったので」
「いい判断だ。こっちも動いてやったよ。迷宮への無関係な探索者の侵入は禁じられた。さて、準備期間は終わりだぜ。明日には大鴉が来る」
「わかってます。最後にひとつ準備して、完了ですよ」
「クックック。魅せてくれよ、番人代行」
「ええ。お任せを」
必要な準備の、最後のひとつ。
それを終わらせるため、ボクは累々の方に歩いて行った。
「いきなりボス戦でごめんよ」
「いえ……。こちらこそ……有用性を示せるなら、ありがたいです……」
意外にポジティブだ。
極限状況にないときの彼女は、前向きな人なのかもしれない。
「ところで、聞いていい?」
「なんですか……?」
「君、何ヵ月レアを操ってる?」
すっと、累々が目を細めて。
そして。
息を吐いた。
「まあ……隠してたつもりはないですが……」
だが、累々は明確にはしていなかった。
『雨の古城』で粘っていた期間は十日間。
ならそのまま推測すれば、十日間の操作期間となる。
が。
事実は、異なる。
「本当は、あの迷宮に入る前から、レアは屍だった」
いや。
「迷宮の探索は、レアが屍になってから始めたもの、なんじゃないか?」
順序が、逆なんだ。
累々は頷いた。
「あのときの取り乱し方が異様すぎましたかね……」
「だね。ちょっと違和感があった。まるで、一度地上でひどい目にあったみたいな言葉だったから」
それと、もうひとつ。
あんな高難易度の迷宮で死んだにしては原型が留まりすぎているんじゃないかという違和感があった。
だから、この結論に達したのだ。
累々は頷いた。
「ええ。……この魔具は、私の祖父の遺品です。それを受け継いだ私は……家庭の事情で殺されたレアちゃんを生ける屍に変えて逃げました」
レア。
その苗字を聞くつもりはない。
ただ、そういう家なのだろう。
「でも地上ではどうやっても生きていけないから……私たちは迷宮を探索することで生きていこうとしたんです……」
「でもそれも、パーティーのメンバーにバレて詰んだと」
「ええ……。理解は……されませんでした。地上では噂になってるかもしれないと思うと……もう……どうしようもなく。だから……私はもう二度と……居場所を……レアちゃんと生きる居場所を失いたくない」
累々はボクを見る。
強い瞳だと思った。
「一年です。レアちゃんを操作してから、一年経ちました。培った全てを、ここを守るために使いますよ……!」
「心強い。じゃあ、もうひとつ聞かせてくれ。次の敵───大鴉は、恐らく君と同系統の使い手だ。……屍という他者を操る君が、三百を越える魔具を得たなら、どう運用する?」
「三百の屍を、操りますね……。私なら……」
だよなあ。
操作対象に魔具を持たせるよなあ。
それが一番ではある。
が。
「……それ以上の何かがあると思うんだ」
これは予感───というより、警戒だ。
相手は、織機によればズル賢いという。
警戒してもし過ぎることはない。
「ズル賢い、ですか……」
「ああ」
「あなたみたいに……?」
「ああ。……? ええ?」
いきなり刺された?
「ふへへ……。冗談です……」
「お、おう……」
本当に冗談かなあ。
本気で言われたら傷付くよ。
ズル賢い。ボクみたいに、か。
まあでも、確かに、ボク自身は大した力がなくても、魔具を持つ仲間に頼るというのは、大鴉(の情報から推定される戦法)と似たようなところがあるのかもしれない。
いや……ある。
あると仮定しよう。
そうだ。
ボクと、大鴉は似ている。
なら。
その思考を辿れるんじゃないか?
考えろ考えろ考えろ。
大鴉。
ズル賢い奴を出し抜く、策を───!
これだ。
「なら、こんなのは、どうだ?」
───
さあ、始めよう。
ここで全てを終わらせる。
『不死』の
───
大鴉の攻勢は唐突に始まった。
日付の切り替わった直後、大量の鴉を伴い、そいつは迷宮へと侵入した。
侵入者を探知して揺らぐ迷宮。
それと共に。
黒のロングコート。
肌のひとつも見えない服装に、それらを上から縛る、大量のベルトからなる拘束具。
嘴めいたペストマスク。
一歩一歩、気取ったようにゆっくりと。
大鴉は、大空間にやって来た。
「さて───始めようか。戦争を」
くもぐもって聞こえる声。
「戦争を?」
僕は笑ってやる。
「大袈裟に言いやがって」
「いいや、これは戦争だ」
大空洞に黒が舞う。
大量の鴉が、舞い踊る。
「戦争とは、個vs個ではない、群vs群の闘争だ。であるならばやはりこれは戦争と呼ぶにふさわしい」
クツクツと、大鴉は笑う。
「アッシャーなどとは比べ物にもならない力の奔流を見せてやろう」
「へえ……。こっちはこっちで相当な戦力を揃えてるけどな」
「『雨の古城』の黒竜、そのゾンビか。悪くない札だが……」
バサ。
バサバサ。
バサバサバサバサ。
バサバサバサバサバサバサバサバサバサバサ。
バサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサッッッッッ!!!!
空間を埋め尽くす───黒! 黒!!
溢れかえる、黒翼!!
数千もの鴉が一斉に舞い、襲いかかってきた!
「累々!」
即座に起動する『
轟!! 吹き荒れる炎熱は鴉を炭に変える。
「読めているとも」
次の瞬間
「それが、狙いだ」
灰が一斉に火を吹いた。
それらは一気に黒竜に命中する。
「グギャオッ」
体勢が揺らいだ。
「単なる黒鴉操術ではない。生成と操作。それが我が
くもぐもった声が、マスクの奥で自慢げに笑う。
「今のは『吸収』&『反射』系の魔具五十個の同時起動よ。一回限りだがね……」
「鴉に魔具を持たせる、か」
確かにそれは軍隊だ。
魔具の強さはここ数日で身に染みて理解している。
それを大量に持たせるならば、確かにそれは強力な札だろう。
「けど、大魔王から聞いてるぜ。買い取った魔具は三百三十三個! うち五十が今の一撃で潰されたんだ。余裕かましてる暇はねーだろ」
「クツクツ……。どうやら忘れているらしい」
「何───」
その直後だ。
空間を舞う鴉たちから、一斉に降り注いだ───炎! 氷! 水! 雷! 爆発! 岩! 鉄! 魔力! 斬撃! 衝撃! 毒! 熱! 光! 重力! 呪詛! その他諸々───わけのわからん数の、力の、奔流!!
それらが一気に、雨のように、注いだ。
「ギャアオオオッ」
「わあっ!」
「ぐッ」
黒竜は竜鱗で耐え、その下に僕と累々は避難する。
なんて威力───いや、それよりも、数だ。
「攻撃の規模が想定より広いかな?」
声が届く。
空爆が止んだのだ。
「三百三十三……それは買い取った数に過ぎない。だが私は探索者だ。となれば……自力で集めた魔具があって当然だろう。久遠寺財閥から購入するのは、その時々で足りてない部分を補うための魔具に過ぎない」
「……ちなみに、何個あるんだよ」
千とか言い出さねえよなこの怪人───。
「属性系魔具×1000。刀剣系魔具×1000。力系魔具×1000。呪詛弱体系魔具×1000。生物系魔具×1000。カウンター系魔具×1000。
合計六千個、いやさっき五十個壊されたから五千九百五十個かね? どっちが勝ってもおかしくない名バトルになるよう───」
やべえ。
甘過ぎたな。これ。
「死力を尽くして競い合おうか。迷宮番人代行」
「死ぬ気でやってやるよ、探索者め」
声ひきつってないといいなあ。
ま、頑張るか。適当に。
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