第6話 こういうのはどうだ


 ここまでのあらすじ!


 エロ本を買いに来たボクは死にかけの迷宮ダリアと契約し、迷宮番人代行となった。期間は1ヶ月。敵は三人。アッシャー、大鴉、黒猫。彼らとの勝負には、『勇者』嬉土水門によってルールがかせられた。一人ずつ一回のみの攻略、武器持ち込み禁止、制限時間一時間、殺人禁止。なのでこのルールに則り、作戦を考えないといけなかったんだけど、アホやらかしたボクは六日間気絶してしまった!


 どっきりどっきりドンドン!

 決戦間近な時間だこれもうどーしよ?

 どーする!?


 ちなみに負けたらボクは死ぬ。


「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「お、落ち着いてください!」

「わかった」

「うわあ!? いきなり落ち着かないで!」


 しょーもない流れだが、今はこれが要る。

 大声で敢えて取り乱した。そのお陰で思いっきり発散できたので、思考は明晰だ。花や木を守りたい……。その前に守るべきものがある。

 死して賢者になるには早い。


「ダリア。ボクの寝てる間に何か準備はしたか?」

「一応、罠は設置しました。水門に協力してもらって、現状可能な限りで最高難易度なものを」

「カカカ。礼は要らね。罪滅ぼしってやつだ。協力したよ。ま、結構な難易度にはなったと思うぜ。アタシでも八層までは五分かかるな。奴等なら三十分かけて辿り着くだろうさ」

「それでも半分か……」

「だが明日来るアッシャーはもう少し早いかもな」

「それなんだが、なんでアッシャーから来るって分かるんだ?」

「連絡来た。LINE友達なんだアタシ達」

「身内かよ!」

「前に別件で絡んでね。いいやつだった。まあアッシャーとだけだよ。義理堅い奴だから、気に入ってる。つるむ相手が毎回終わってんのと、もうひとつ───入った迷宮を破壊するのが、悪癖だがね」

「迷宮を、破壊する───」

「『崩し屋スマッシャー』アッシャー。あらゆるトラップを真正面から破壊する、生粋のパワープレイヤー。そのスタイルは第三十一迷宮『オリオン』の攻略を経て更に苛烈になっている。対トラップのプロフェッショナル───お前達にとっては最悪の相手だよ」



 ───そして、迷宮第五層。


 目の前を矢がよぎっていった。

 毒矢である。致死のそれではないが、痛みで動きと判断力を鈍らせる。

 そこにあると分かってないとかわせないだろう、巧妙な配置から放たれた罠だ。

 ボクはそれを起動させ、性能を確認している。


「ここまでは、悪くない……んじゃないか?」

「でしょう! 頑張ったんですから!」


 後ろのダリアはふんすと胸を張って自慢げだ。

 水門に協力して貰えたこともあり、ここまでの罠はどれも強力なものとなっている。

 が───。


「これでも三十分か……」


 制限時間一時間のうち半分しか稼げないのは、かなり厳しい。


「ダリア、残り半分、どうやって稼げばいいと思う」

「そうですね……。あなたが前に出て、戦うとか」


 あの筋肉の塊相手にかあ……。

 まあ、必須だよなあそれぐらいは……。


「罠の配置さえ頭に入れとけばいい勝負になるんじゃねーの。アタシの予想なら、それで十分程度は稼げるだろーさ」

「残り二十分……」

「水門ならどうしますか?」

「おっと、アタシに聞いてしまうかよ。まあ、向こうも三人で知恵を出しあってるんだ。こっちも三人でやるのが公平か。───アタシなら、というか、アタシが嫌なタイプの仕掛けは、やっぱ苦しみよりか快楽系だな」

「エロトラップダンジョンってこと?」

「身も蓋もなく言えば、そう。つまり快楽で、取り込む。攻略しようという気を、腐らせ堕とす迷宮───そういうやつが、一番面倒だ」


 快楽。

 確かにそれは、使いこなせるなら強力な罠となる。

 スライムとか触手とかゴブリンとかそういうレベルでやらなくても。

 例えば、麻薬。

 例えば、アルコール。

 そういう酩酊、幻覚作用の活用は、迷宮の防御において高い効果が見込めるだろう。


 が。


 それは今回は不可能だ。


「その辺は魔法系トラップ。物理タイプのみしか置けない今は、使えない、か」


 ボクの結論に、勇者は頷く。


「そゆこと。麻薬とかアルコールの成分なんて、お前は知らないだろ。イメージもできねーだろうし───アタシの知識でそれらを配置するのも、公平性を欠く」

「なら、ダリアの知識なら置けたんじゃないか?」

「嫌ですが」

「は」

「嫌ですが。エロトラップとか、そんなの外法も外法です。ふざけた迷宮です。一桁の宮ダリアにそんなもの、置くわけにはいきません」

「そんなこと言ってる場合じゃなくない?」

「そうかもしれませんが、わたしは絶対に嫌です。断固反対します。絶対拒否なのです。言語道断なのです」

「感覚遮断なのです」

「とにかく、歴史ある迷宮にそんなものを置くのは認めません。迷宮の品位に傷がつきます」

「何が品位だ。こんな攻略されかけの迷宮に品位なんてありません」

「なんですとぉ……」

「でも技術的に不可能なんだから仕方ねえだろ」

「それもそうなんですよね。悪いな、ダリア」

「いいえ。……いざというときには、そういう仕掛けも、わたしは許します。でも、今はまだ、足掻けると思いますから。それにこの小説はR18じゃないですし。カクヨムコンに出てる作品ですし」

「何を言ってるのかわからないな」

「お前のスタイルがうつったんじゃねーの」


 さて。

 とりあえず、ボクが前に出て時間稼ぎをするにしても時間は足りない。そして快楽路線はダメ。


「じゃあ他には」

「儀式系とかできたら面白かったけどな。特定の儀式への参加を強要して、参加しないと先に進めないやつ。まあ魔法系トラップなんだが」

「そもそも階段とかの進行装置を置かないのはどうだよ」

「迷宮として成立しないのでダメですね。迷宮という命からしたら大腸を塞ぐようなものです。やった時点で自壊するでしょう」

「なら階段を分かりづらくする。落とし穴の中に置くとか」

「無駄だな。アッシャーのスタイルは罠の全破壊。落とし穴に自ら落ちて、突き出た杭や群れた蛇を粉砕し這い上がってくるなんてのは日常茶飯事。罠の奥に活路を置くってのは逆効果だ」


 うーん、八方塞がり。

 詰んでる感じがあるね。

 なんとかならんか。

 停滞を壊せるアイデア───壊せる。壊す。アッシャー。罠を壊し、迷宮を崩す探索者。


「そんな片端から壊したら、脱出する時困るんじゃないの」

「なんも知らねーのな」

「うるせー」

王権レガリアの獲得。アッシャーは迷宮最深部にある王権の力での脱出を想定して動いてるんだ。今回なら、『不死』だな。どんだけ壊しても、『不死』になってさえしまえば、いつかは脱出できるってわけ。一時間で目指す勝利条件は王権の獲得であり、脱出までは含まれてないからな。だから多分、あいつは過去最大の破壊を起こしてくるだろうよ」

「想像したくもないです……」


 ───過去最大の、破壊。

 まあその過去を知らないからどんなレベルかも分からんのだが。

 破壊───破戒。

崩し屋スマッシャー』アッシャー。

 どんな罠でも破壊する探索者。

 迷宮を崩壊させるほどの力。


「……ならさ」


 ───いける。



「こういうのはどうだ」




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