VSスマッシャー

第5話 見知らぬ、天井


『勇者』───嬉土きど水門みなと


 第三迷宮『サンクチュアリ』の単独攻略。


 第七迷宮『ゲヘナ』を久遠寺愛くおんじあい率いる『軍団パーティ』と共に攻略した後、彼女らとの全面戦争を繰り広げ国ひとつを地図から消す。


 その他、第十一迷宮『観音堂』の単独攻略。


 第十二迷宮『光の神』の攻略。(これ以降、目を隠すようになる)


 第十四迷宮『外惑星軌道図書館』の攻略。


 第二十七迷宮『燃やし過ぎたゴミ』の封鎖条約締結を妨害し当該迷宮の攻略を果たす。


 第四十九迷宮『ファイブデーモン』を単独攻略。


 第五十二迷宮『銀河の子供部屋』を事実上攻略。


 第五十四迷宮『大温泉』に三ヶ月入浴。


 第六十三迷宮『ナハトムジーク』を単独攻略。


 等、数多くの業績を上げる。


 その功績と、本人の実力から、未踏の地へと踏み込み開拓する勇気ある者───『勇者』の称号を持つに至る。



「そんなアタシでも初めて見たぜ。いや、見えてねーんだが。感じた、聞いた、まあどれでもいーか。初めて知ったぜ、迷宮の番人になった人間って存在はよ」

「どうも───番人代行です」

「番人代行です、か。くくく。いいね、そのふてぶてしさ」


 ニマニマと口を歪めながら、彼女は続ける。


「そんで、お前が元番人か」

「どうも───ダリアです」

「しょうもねえ二人だな! 似合いだぜ。カッカッカ!」



 ちなみに。

 あの三人は一度退いた。

 ボクへの並外れた殺意を以て相対した彼らはしかし、世界最高の探索者を前にしては冷静な対応を見せた。

 だがその前に『勇者』嬉土水門きどみなとは彼らと交渉し、ルールを設定した。

 ルール。規則。条約。

 守るべき規律。


「勝負ってのはルールがあると面白くなる場合と、無い方がおもしれー場合の二つがあるが、今回は前者だ」


 彼女はそう言った。

 結果として呑ませたルールは三つ。


 一、攻略は一人ずつ、一週間の準備期間を挟んでから行い、一度のみ挑めることとする。


 二、攻略時間は一時間。それ以上時間をかけた場合、失敗とする。なお、王権レガリアの獲得を以て攻略と見なす。


 三、迷宮側は殺人を禁ずる。反した場合、王権レガリアを譲り渡す。


「元一般人とプロの探索者がやりあうんだ。地の理があるとはいえ、ま、こんなところが公平だろ」


 公平───バランスが取れている。

 確かに、という感じだ。───本当か? まあ、取れているということにしておこう。なんでもありの一対三でやりあうよりかは、数段マシだ。


 例えばルールの一はボクだけではなく向こうにもメリットがある。一対一なのは助かるが───敗退者と他二人の接触が禁じられていないため、迷宮内の情報を持ち帰られると共有されるわけだ。つまりエヴァの使徒ってわけね。ルール三の殺人禁止もあり、確実に情報が向こうにわたる。その上で向こうもまた一週間の対策期間を得られると。


 ルール二はこちら側に完全有利だが、ルール三は逆に探索者側に完全有利だ。勝負として成立させるための条件であるルール一、二を呑ませるにはこのレベルをまず提示しなければならなかったのだろう───一方的な殺人行為の禁止。ただしこちら側のみ。だが厳しいな。こちら側のメインは罠だが、罠の弱点として手加減ができないのだから、やり過ぎると死なれてしまう。それに、向こうは複数人でいるのも面倒だ。例えばわざと一人が死んだ場合、残り二人の勝ちにされてしまう。特攻が選択肢に入る。───面倒だ。

 でも考えすぎる必要もないか。彼らの狙いはこの迷宮の王権レガリア『不死』。それを求める奴が死を前提にした作戦をたてるとも考えづらい───不死は、死なないということで。つまりそれは、蘇生じゃない。仮に蘇生だとしたら、ボクが真っ先に使ってる。


 とりあえず、だ。

 ルールは把握した。


「ダリア」

「はい!」

「寝よう」

「えっ」


 色々あって疲れた。

 幸い一週間の準備期間が取れたんだから今日は休むべきだろう。


「いや、迷宮の番人なので宮は子供は作れませんが」

「なんでそっちの意味で取るかなあ!?」

「だってあんなに如何わしい本持ってたんですもん」


 あー、そうだったね。

 君助けたときちょうどエロ本買った帰りだったね。

 織機と会ってパンツ見て友達になってエロ本買って、そして死にかけのダンジョンと遭遇したと。


 あの時のエロ本読んだんか!?

 お前あのエロ本を読んだんか!?


「えらいこっちゃ……大変じゃ……」

「何赤面してんだ。性癖なんてあって当然だろ。隠すな。誇れ。性欲という性欲を性欲しろ。遠慮はするな誰にはばかることもない。 美しい世界に誇れ。 ここは己の寝室だ、存分に乱れろ己が許す。とな」


 だいたいさと。勇者は続けた。


「ケツなんて一般性癖だろ。恥じることはねえ。存分にさらけ出せ」

「良いんですか、ボク本気で受けとりますよ」

「かまわん」

「水門さんもいい尻してますよね」

「だろ?」

「ボクがあの三人に勝った暁には、ぜひ見せていただけますか」

「ダメだな。───アタシに勝てたら、考えてやるよ」


 テンション上がってきたぁ!!


「服装も選ばせてくださいよ! ボクはもう一昨日までとは違うんでね。パンツが全てじゃないことを理解している。何がいいかな。とりあえず露出はしてもらいたい気分だね! そうなるとやはり脱いでもらうか? いやでもスカートはいてもらって捲れるあの神秘を今一度というのも捨てがたく、ダメダメダメダメあれは織機限定だからこその良さだろーが!! 裸エプロン! はなんかダメな気がする。全部見せていただくのはなんか怖いし、ここはやはり王道を行く白下着……いや、いや、待って……もしかしてさ……おむつってのもアリなのでは───」



 そこで記憶は途切れた。



第伍話


ぬ、天井



 どうやらボコボコにされて気絶させられていたらしい。

 こんなのが迷宮にあったんだって感じのベッドの上で目を覚ました。


「起きたかよ」

「良かった! わたし、安心しました。間に合いましたね」


 体を起こすと、二人が枕元の椅子に座っていた。


「いやー手加減忘れてぶっ飛ばしちまったぜ」

「誇れって言ったじゃないですか」

「誇れ。お前はエロい。だがそれと殴るかどうかはまた別よ」


 そして、彼女は衝撃の発言を付け加えた。


「だが流石に本気でやり過ぎたぜ……その点は謝る。すまん! まさか、六日間も気絶させちまうとは」

「六日ぁ!?」


 え。


「六日ぁ!?」


 六日ぁ!? 六日って、あの六日!? 思わず声出ちゃったけど……マジ!?


「六日ぁ!?」

「もういいです。話を進めましょう」

「はい。……いや、でも……ええ……」


 ええーっと、つまり?

 六六六、悪魔の数字ってこと?


 んなわけがない。


「敵の一人目、アッシャーが攻めてくるまで、あと一日しかないんだわ。ガハハ。いやあ───すまん!!!」



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