031 作戦の後

 上位種のオタオークが出てくるのを警戒しているが、一向に現れない。


 むしろ爆破音を聞いて、先ほどボロ小屋に入っていった二匹のオタオークが戻ってきたほどである。


 そちらはもちろん、速攻で始末した。


 するとその時、小屋からガタリと音が鳴る。


 俺は驚きながらも、意識を向けた。


 あれは……!


 僅かに見えたのは、硬質な縁と、銀色の輝き。


 間違いない。銀の宝箱だ。


 つまり俺はあの不意打ちで、上位種のオタオークを倒したのである。


 仙人河童の時の苦戦を思えば、あまりにあっけない。


 戦闘向きとは思っていなかったが、ここまでとは……。


 いや、あの上位種はペロロさんの映像に夢中だったし、それがなければ強敵だったはずだ。


 なので今回のMVPは、ペロロさんである。


 さて、上位種も倒したしペロロさんを助けに行きたいが、宝箱を開けなきゃ怒られるよな。


 事前の話し合いで、宝箱は必ず開けるように言われている。


 それで先に助けられて、宝箱の中身を誰かに取られたら死んでも死にきれないとのこと。


 ボス戦後に出る宝箱は、おそらく罠類が無いはずだ。


 今まで聞いたこともないし、見たこともない。


 だから、開けても問題ないはずだ。


 俺は倒壊した小屋の木材を乗り越えて、宝箱に近づく。


 そして蓋を開けると、中には手の平に収まる小さな丸い鏡があった。


「鏡?」


 おそらく何か特殊な効果があるのだろうが、流石に今確かめている余裕はない。


 鏡を頬にしまうと、俺はペロロさんの元に急ぐのだった。


 ◆


「あれ? 遅かったね? もう終わっているよ?」

「えぇ……」


 俺が辿り着くと、ペロロさんが最後のオタオークを倒した瞬間だった。


 まじか……ペロロさん、あの数を一人で倒したんだ……。


 ペロロさんが強すぎる。これからは、なるべく怒らせないようにしよう。


「クルコン君が上位種に負けそうになっているかもと考えたら、あの力が溢れ出たんだ。それに三回目になると、慣れてきて動けなくなることもなくなったよ」

「さ、さすぺろ」


 俺が言えるのは、それだけだった。


 もしかしたら、ペロロさん一人でオタオークの住処を殲滅できたかもしれないな……。


「さあ、行くよ! 宝箱はもちろん開けたよね? なら、早く帰ろうよ!」

「あ、ああ……いや、少し待ってくれ」


 一瞬ペロロさんの勢いに飲まれそうになったが、ボロ小屋に捕らわれている人を確認しなければ。


 そうしてペロロさんに待ってもらい、俺はボロ小屋の中を確認した。


 案の定中は酷いことになっていたので、介錯をする。


 この人たちの精神面が心配だが、俺にはどうすることもできない。


 考えても仕方がないな。それよりも、今は勝ったことを喜ぼう。


 その後俺はボロ小屋を出て、ペロロさんと共に仮拠点へと帰るのだった。


 ◆


「さてさて、お待ちかねのご褒美タイムだよ! 僕のお願い、聞いてくれるよね?」

「わ、分かっている。約束したし、俺にできる事なら何でもするよ」

「い、今なんでもって……ごくり」


 仮拠点に戻ると、ペロロさんのテンションは最高潮。


 あまりの勢いに、俺はそう言ってしまった。


 なんだか、嫌な予感がするのだが……。


「何でもって言ったけど、俺ができる範囲だからな」


 念のために、そう強く言っておく。


 そして俺が緊張する中、とうとうペロロさんが願いを口にする。


「う、うん……そ、それじゃあ、今後も僕と固定でパーティを組んでほしんだ」

「え? それくらい構わないが……それがお願い?」

「そ、そうだよ! それがお願いだよ……ダメ、かな?」


 上目遣いで目をうるうるさせるペロロさんを見てると、なんだかくるものがある。


「い、いや、構わない。俺もペロロさんとこれからも、一緒にいたい」

「い、いっしょに……ぼ、僕もだよ」


 俺の答えに満足したのか、ペロロさんは目元に涙を浮かべて、にっこりと優しく微笑む。


 本当に、良かった。


 賭けに勝ったんだ。


 この笑顔を守れただけで、俺は満足だ。


 そうして、終わりを迎えるかと思われたが……。


「それじゃあ、次はクルコン君の番だね? 確か、凄いことをお願いするんだよね? 僕はいったい、何をされちゃうのかな?」

「あっ、あれはあの時の悪ふざけというか……」


 まずい。よく分からないが、とにかくまずい。


 ペロロさんがまるで捕食者のような雰囲気を出し、近寄ってくる。


「えぇ? 悪ふざけ? 僕、あのとき真剣だったんだけどな? 負けた時の事も考えて、ファーストキスもあげたのに? クルコン君、ここまで来てそれはないよ?」

「うっ……」


 やばい。本当にヤバイ。これは……喰われる。


「じゃあさ。クルコン君にお願いが無いなら、代わりに僕が追加でお願いさせてもらうね」

「え?」


 するとペロロさんが、何かを取り出す。


 それは、ある意味有名なアイテムだった。


 赤いハートの形をしており、中央にはカメラの絵に黒いバッテンが描かれている。


 使用効果は、発動中生放送を停止するというもの。


 更に周囲を黒い膜が覆い、外からも見えなくなる。


 もちろん効果を発揮するには、お互いの同意が必要だ。


 つまり、試されている。


「ほ、本当に嫌だったら、ぼ、僕も諦めるから……」


 そして、ペロロさんがアイテムを発動した。


_____

____

___

__

_


「僕は大満足だよ!」

「あ、ああ……」


 数時間後、そこにはツヤツヤとしたペロロさんがいた。


 対して俺は、シオシオである。


 搾り取られた。ナニをとは言わないが……。


「また今夜もしようね?」

「え”?」


 俺は、このイベントを生き残れないかもしれない……。


 ◆


 しばらくして、ようやく回復してきた。


 ペロロさんも落ち着いてきたので、オタオークの上位種を倒して手に入れたアイテムを鑑定する。



 名称:司令官の鏡

 レア度:SR

【効果】

 ・仲間に念話を飛ばすことができる。

 ・所持者を起点に、仲間同士のネットワークを構築する。

 ・仲間と視界を共有することができる。

 ・一定範囲の敵を感知することができる。


 

 凄すぎる……。


 SRスーパーレアという時点で驚きだ。


 銀の宝箱から手に入るレア度で、最も高いと思われる。


 効果はあの上位種の能力を、詰め合わせたようなものだ。


 これは仲間が多いほど、その真価を発揮する。


「ね、ねえ。僕にも見せてよ」


 すると座っている俺と頬同士をくっつけて、ペロロさんが覗いてきた。


 アレのあと、ペロロさんとの距離が物凄く近くなっている。


 まあ、あれだけ凄いことをされたら、仕方がないのだが……。


「こ、これ、凄いね! でも、僕と二人だけじゃ、もったいないね」

「そうだけど、そうそう仲間は増やせないだろう?」


 俺の仲間になるという事は、狂ったダンジョンに挑むということになる。


 加えて、信用できる者でなくてはいけない。


 簡単には、見つからないだろう。


「んー。ルイルイちゃんとか、はみ子ちゃんならいいかな? ロリじゃないのが減点ポイントだけど」

「ん? 誰だそれ?」

「信用できる僕の知り合いだよ? ある意味また違った同志かな?」

「ペロロさん、俺以外に友達いたんだな」


 確か、ペロロさんは俺と同じでボッチだったはずだ。


「なんだい? やきもちかい?」

「いや、普通に驚いただけだよ。ペロロさんの交友に口出しはしない」

「むう。それはそれで、何だか複雑だなぁ。もっと束縛してくれてもいいんだよ? ペロペロ」


 そう言ってペロロさんは、俺の頬をペロペロと舐め始める。


 まるで、発情した子犬のようだ。


 何はともあれ、このアイテムは今後のダンジョン探索で大いに役立つだろう。


 さて、イベントはまだ終わってはいない。


 外には多少オタオークやオタガッパが残っているだろうし、狩りに行くか。


 そう思って、俺が立ち上がろうとした時だった。


「ん? ペロロさん、何を持って……」

「ぼく、我慢できなくなっちゃった……」

「う、うそだろ!」

「えいっ♡」


 そしてペロロさんは、またあのアイテムを使用した。


 本当に、俺はもうだめかもしれない……。

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