032 イベント三日目

 気が付けば、イベントは三日目を迎えていた。


 二日目はオタオークの上位種よりも、ペロロさんの方が強敵だったと言っておこう。

 

 外に出れば、やはり山が近づいてきている。


 明日になれば、おそらく塔の周辺しか残らないだろう。


 塔にはあまり近付きたくないが、仕方がない。


 それまではできるだけプレイヤーとの接触を避けつつ、行動することにした。


 また木のうろの効果もそろそろ切れるので、別の場所に新たに設置する。


 といっても、新しく設置した場所は近い。


 それとダンジョンの地図も、おそらくこうなっているだろう。



 山山山山山

 山森森森山

 山森塔森山

 山森森拠山

 山山山山山


 拠=拠点+現在地

 塔=中央の塔

 森=森

 山=山



 また食料を手に入れる方法は、ほぼ無くなっていると思われる。


 俺とペロロさんは、二人だけならしばらくは問題がない。


 それよりも塔にいるプレイヤー達の方が、大変だろう。


 おそらく、生き残りの大部分が塔にいるはずだ。


 食料が無くなった場合、何が起きるか分からない。


 もちろん昨日の内に果物を採取しているだろうし、各人が持ってきた食料もあるはずだ。


 なのでこれは、考えすぎかもしれない。


 けれども万が一という事もあるので、気を抜かずに行こうと思う。


 それと新たに設置した木のうろの中で、昨日手に入れた司令官の鏡を試してみる。


 すると自身を中心として、周囲の敵性反応を把握することができた。


 少し離れたところにオタガッパと思われる反応と、プレイヤーと思われる反応が複数。


 オタガッパは分かるのだが、プレイヤー達はなぜ反応した?


 もしかしたら最初から他のプレイヤーを見つけ次第、攻撃を仕掛ける気なのかもしれない。


 動きも遅いし、周辺を探っているのだろう。


 これは、木のうろを見つけるようなアイテムを所持している可能性がある。


 俺はその情報をペロロさんと共有した結果、もったいないがこの木のうろを放棄することを決めた。


 荷物を持ち、敵のいない方へと逃げていく。


 この司令官の鏡があれば、逃げるのは容易だった。


 ちなみにこの司令官の鏡は、俺が持つことになっている。


 ペロロさんが言うには俺がパーティのリーダーであり、持っていてほしいと考えを譲らなかった。


 まあ、パーティ内なら一時的に貸し出せるので、ペロロさんの言う通りに俺が持っていてもさほど問題はない。


 そういう訳で、現在は俺が司令官の鏡を所持している。


『クルコン君、聞こえるかい? 今僕はクルコン君の心に直接語りかけています……なんてね』

『ああ、聞こえるよ。念話で会話できるのは、こうしたイベント時だと便利だな』


 司令官の鏡の効果の一つに、仲間に念話を飛ばせるというものがある。


 加えて仲間からも、俺に念話をすることができるみたいだ。


 念じるだけでいいので、他のプレイヤーと出会った時にかなり重宝するだろう。


 他にも、ペロロさんの視界を脳内に映し出すことができる。

 

 だがこれは、練習が必要そうだ。


 自分の視界とごっちゃになるので、少し気持ち悪くなる。


 あとは俺を基準にした仲間同士のネットワーク構築だが、これは他に仲間を一人増やさなければ、判断できなさそうだ。


 なので、今は気にしないことにした。


 それからはプレイヤーを避けつつ、オタオークとオタガッパの生き残りを倒していく。


 意外と塔の外を出歩くプレイヤーは少なく、今のところ一度も接敵していなかった。


 しかし、それは敵意のないプレイヤーである。


「うぁあ!? こ、ころさなでぇ!!」


 すると偶然遭遇した男性プレイヤーが、俺を見た途端そう言って怯え始めた。


 司令官の鏡が反応しなかったという事は、少なくともこちらに敵意を向けていない。


「落ち着け、殺さないし、酷いこともしない」

「ほ、本当か?」

「ああ」


 男は荷物を何も持っておらず、衰弱していた。


 仕方が無いので、僅かな保存食と水を分けてやる。


「た、助かりました。私はノーブと申します」

「クルコンだ」

「幼精紳士ペロロだよ」

「妖精?」


 ペロロさんの名前を聞いて男が勘違いしている気がするが、そこは突っ込まないことにしよう。


 とりあえずノーブと名乗った男に、なぜ何も持たず衰弱していたのか訊いてみる。


「実は、あの塔の中は今大変なことになっているのです。私のような無能は、逃げ出すしかありませんでした」

「大変なこと?」


 それからノーブに話を訊くと、以下のことが分かった。


 ・塔は強者が牛耳ぎゅうじり、弱者は奴隷のような扱いを受けている。

 ・弱者は僅かな水と食料だけ与えられ、モンスターへの盾や囮にされ続けた。

 ・その塔の頂点に立つのが、一人の女性プレイヤー。

 ・しかし今朝理由は不明だが、女性プレイヤーを巡り、強者たちが殺し合いを始めた。

 ・弱者はそれに巻き込まれて、殺されていく。

 ・ノーブは殺される前に、何とか逃げることに成功した。


 以上が、ノーブの知る塔についてだ。


 想像以上に、塔はヤバいことになっているな。


「なるほど。姫プレイヤーがパーティクラッシュしたみたいだね」

「まあ、訊いた限りそうみたいだな」


 もしかしてだがその女性プレイヤーは、自分が優勝するために殺し合いを誘因したのではないだろうか。


 優勝はポイントが高い者が選ばれるが、前提として生き残る必要がある。


 なので死亡すれば、ポイントが高くても優勝はできなくなるということだ。


「クルコン君も、同じ答えに辿り着いたみたいだね?」

「逆に、そうとしか思えないだろ……」


 その答えから導き出されるのは、塔にはギリギリまで近付かないということ。


 今塔は、女性プレイヤーを巡るバトルロイヤルの場と化している。


 近付くのは、当然危険極まりない。


 そうした理由から、俺とペロロさんは今後の方針を決めると、ノーブと別れることにする。


「待ってくれ! 私も連れて行ってくれ! 何でもしますから!」


 そうは言うが、俺たちも人一人の面倒を見る余裕はない。


 何よりも、ペロロさんを見るその目が嫌だった。


 こいつはペロロさんと見て、ワンチャンあるとか考えているようだ。


 そんな危険人物を、連れていけるはずがない。


「無理だ。俺たちにそんな余裕はない」

「そういう訳だから、諦めてよ」


 俺たちは言葉を残し立ち去ろうとするが、ノーブが追いかけてくる。


 だが途中から俺に敵意を向けてきたので、感知に反応するようになった。


 あとは身体能力を活かして、ノーブを引き離すことに成功する。


「あれはダメだね。僕のこと、エッチな目で見ていたよ。僕をそういう目で見ていいのは、クルコン君だけなのにさ」


 そう言ってペロロさんは、俺に抱き着き深呼吸し始める。


「す~はぁ~。クルコン君の匂いは落ち着くなぁ。クルコニュウムも補充できるし、最高だよ!」

「クルコニュウム?」


 よくわからないが、ペロロさんは俺からクルコニュウムという謎のエネルギーを補充しているらしい。


 何はともあれ、俺たちは一、森の中をプレイヤーに会わないように工夫しながら、彷徨さまよい続けるのだった。

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